◆外伝① - 聖戦士は服を着ない
家のリビングで、うつ伏せになってゴロゴロしていた時だった。
腰付近に急に重みを感じた。
「なんだ、重いと思ったらベルじゃないか」
ベルに跨られていた。
「重いとは失礼だなあ~。これでも体重は46kgぴったりだよ」
「そ、そうなのか!? 確かにベルは身が引き締まっているし、いや、ま……重いのはウソだ。訂正する。――それで、そんないつもと変わらないビキニアーマーで跨って……。うわっ、そいや……ビキニだったなベル」
猫耳と尻尾のあるビキニーアーマー女子に圧し掛かられているこの状況……よく考えたらとんでもないな。
……正直、最高だが……
なにか物足りない。
……そうか。俺は、すっかり見慣れてしまっていたのだ。彼女のビキニアーマー姿を。
む……まてよ。
< ピコーン! >
うん、そうだ!
たまには服を着ている姿も見てみたい。
「ベル、いつもそのビキニアーマー姿だよな。たまには服を着てみないか? 例えば、ナース服とかさ。まあなんでもいいんだが、可愛い服を着ようとは思わないのか」
「……えぇ~…」
「なんだその、あからさまにイヤそうな反応。昔は可愛い服に拘ってなかったっけ。記憶が曖昧すぎてあんまり鮮明には覚えてないけど」
ベルは軽く溜息をつくと、
「……昔はね。今はほら、いつ戦闘になってもおかしくないし……。だから、いちいち着替えるのが超絶面倒臭いっていうか……。サトルくんの性格が移っちゃったかもね」
微妙な表情で笑うベル。
そや、俺に似てベルも案外、面倒臭がりだったな。
俺もジャージだったりが多いから人の事は言えないなが。
でも、やっぱりたまには可愛い服を着ているベルも見てみたい。
「よし、ベルには服を着てもらうぞ」
「遠慮しておく」
「だめ。服を着てくれないとこうだぞ」
俺は腕を捻り、ベルの『脇腹』を指で突いた。
「ひゃ~~~~~~~~~~っ!!」
ベルは体を仰け反らせ、普段は絶対出さないような悲鳴を上げた。あんな乙女のような声も出せたのか……。いつもクールだから意外すぎた。
更に意外なのは『脇腹』をちょっと突いただけ――たったそれだけの戯れだったのに、ベルは目を吊り上げ、涙目になっていた……。アレ、ちょっと……いや、かなり様子がおかしいな?
「…………っ」
「ちょ、ベル!?」
しかも姿勢を崩した。
ベルの小さな顔が真横に……。
あれ、どうしたんだろう……。
ちょっと怒ってる……? というか、耐えている?
顔色が悪い気がするが、そんな些細な光景が俺の脳を破壊させかけていた。
……イカン!
と、とにかく……『脇腹』は敏感だったのか。
「ひゃぁ~……、びっくりした……!」
「そ、そこまで敏感とは思わなかった……なんかスマン」
「もー…理くん。まさか、わたしの弱点を一発でみつけるとはね」
「弱点だったのかよ」
予想外すぎる弱点だな。
けど、これは使えそうだ……(暗黒微笑)
「邪悪な笑みをしているね、理くん。忠告しておくけど、これっきりにしておいた方が身のためだよ~…。身のためだよ~…」
「顔がこえーよ……! つーか、二回も言ってくれるな。分かったって。もう何もしないから、どいてくれると助かる」
「うん」
ようやく解放され、体を解した。
それから、お茶でも飲もうかと思ったその時。
『『キャアア~~~~~~~~~!!』』
誰かの悲鳴が上がった。
え……悲鳴がふたつ?
どうしたんだ?
◆
悲鳴は確か、リースの部屋からだ。
二階へ上がり、部屋へ向かうと扉が開いていた。
中へ入ると――
フォルがリースを押し倒していた。しかもベッドの上で。
ふたりとも水着姿。
なにやってんだ二人とも……。どうしてそうなった……!
更に視線を泳がすと、その付近には何故か葉っぱ一枚で半裸のリースの親父さんも突っ立っていた。無表情で。まるでホラー映画のようなヤバすぎるシチュエーションだが……
えーっと、これは……。
情報量が多すぎて、どう処理していいか分からない。
「あ……兄様!」
「サ……サトルさ~~ん! お父さんが、お父さんが~~~!!」
「……最初から話してくれ」
◆
――つまりこういう事らしい。
どっちの水着が俺に刺さるか、ふたりで確認し合っていたらしい。
まず、フォル……上下セクシーなピンクのレース付ビキニ。おお、なんて可愛らしい。水着。大人の女性のような魅力があった。
なかなか高刺激。水着なのだから問題ないのだろうが……うむぅ。
まあ、素晴らしいビキニだ。あれで海へ行ったら映えるだろうな。
次、リースは……
水色のヒモ付き縞ブラ・縞パンの水着セット……だと!
大事なことなのでもう一度言う、水着だ。
ヒモ付きはポイントが高すぎる。あれは確かに俺好み。リースに高得点を差し上げたい。一度でいいから、あのヒモを引っ張ってみたいなぁ……。男のロマンだね。
で……
お互い譲らず、言い合いになったらしく、フォルが力ずくでリースを押し倒したタイミングで、親父さんがいつの間にか登場――俺とベルは、この場面に遭遇してしまったという、よく分からない偶然が重なった結果だった。なんの因果だよ。まったく。
「とりあえず、リースの親父さんにはお引き取り願おう。ちょうど通りかかったメサイアよ」
「ふぇ?!」
なんという幸運か、メサイアが近くにいた。煎餅を齧りながら。行儀が悪いぞ。――というわけで俺は、部屋の傍を通りかかったメサイアを羽交い絞めした。
「ちょ、ちょっと! サトル、いきなり何をするの! 私を襲うならこんな真昼間じゃなくて、深夜にしてよ。あと出来れば優しく――って、きゃああああああああああああああああ!」
「頼む、あのヘンタイエルフをテレポートでぶっ飛ばしてくれ!」
「いやああああああああああああああああ!! お願いだから羽交い絞めしないで! 見たくない! あんなの見たくなーーーーーーい!!(泣) いやあああああ!! テ、テレポート!!!」
ジタバタ激しく取り乱すメサイアは、リースの親父さんに向けて『テレポート』を発動した。
「ま」
――それが親父さんの最後の言葉だった。
「よし、メサイアよくやった!」
「サ~ト~ル! よくもあんな腐りきった汚物を見せてくれたわね!! しばらく夢に出てきそうじゃない! どうしてくれるのよ!?」
「そうプリプリするな、メサイア。お前はこの『家』の平和を守ったんだ、誇っていいぞ」
俺はメサイアの肩に手を置き、そう言い聞かせた。
「………………」
うわぁ……死んだ魚のような目ですげぇ睨まれてる。
「メサイア……悪かった。俺が本当に悪かったから機嫌を直してくれ。お詫びに今から、大判焼きでも奢るから」
」
「それならいいわ! 許してあげる!」
パァ~と顔を輝かせるメサイア。
甘い物に弱いのは分かっていたぜ!
「それじゃ、デートしましょうか♪」
すっかり機嫌を取り戻し、腕を組んでくる。
単純な女神で助かったぜ。
「フォル、リースも来るか? あと、ベルも」
「行きます! わたくしも行きます!」
「わぁ♪ 大判焼きですかぁ。クリームがトロっとしていて好きなんです~♪」
「じゃ、わたしも行こうかな。あんが好物なんだ」
よし、みんなで【花の都・フリージア】へ行きますか!
ベルには可愛い服を買ってやるとしよう。
なんとしてでも、ビキニアーマーから他の服へ着てもらわねば。
とりあえず、絶対に似合うナース服を。
【 外伝① - 完- 】
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