第21話:ブラムスの憂鬱
「よし、クロノ! 神殺薬よこせ!」
「ついに、私を殺すのか!」
アテネさんがビビってるけど違うから。
これは、自分用。
数少ない自殺用品を他人に使う訳ないじゃん。
勿体ない。
「死んで無かったことにはするのは、あまりにもブラムスが可哀想でわ?」
「いや、俺の心の平穏のためだから。やり直したらすぐに、黄泉のダンジョンいってあんな連中瞬コロだから!」
そもそも、ブラムスに人権なんかあるわけないじゃないか?
それ以前に人ですらないし。
「死ぬほど、ブラムスの恰好を褒めた事が広まるのが嫌なのか?」
「いや、そうじゃない! というか、面倒くさいからお前は口をはさむな!」
「女神に対して、それは酷いじゃないか!」
そういうのが、面倒くさいんだ。
もういい、こいつは無視しよう。
「ブラムス様……天使共の殲滅が完了しました」
「身体中に力が漲ってくるようです!」
アベルとカインがブラムスに膝まづいて、天使の全滅報告をしている。
こいつらまで、進化したのか。
ブラムスのダンジョンが強化されるのは歓迎だが、こいつらが強くなって調子に乗らなければいいが。
「そうか……よくやった。俺も、アレスを殺したことでさらなる進化を遂げた」
そう言って、両手を広げるブラムス。
背中にはキューピットのような小さな羽がパタパタと動いている。
黒いけど。
あと、さらにムキムキになってた。
ムキムキマッチョの裸ロングベスト……
そして、全身が松崎し○るなみに黒い。
にもかかわらず、真っ白な歯。
もう何も言うまい。
ブラムスは死んだのだ。
あそこにいるのは、ただの松崎しげ○だ。
「どうやら、俺はクラタ様を超えてしまったようだ……」
はっ?
「流石ですブラムス様!」
「これで、ブラムス様がダンジョンを統べる会長に!」
両手を広げたブラムスが、調子に乗ったことをほざく。
そして、アベルとカインがヨイショを始める。
「いや、クラタ様の力は何も肉体的なものだけではない。あれだけの力を持ちながら、智謀とカリスマを兼ね備えているからこその会長なのだ……」
照れるじゃねーか……
でも、智謀なんて発揮した記憶は無いけどな。
せいぜい、罠をオススメしたくらいで。
あと、カリスマっていうけど、たぶん他のダンマス達はお人好しくらいにしか思って無いぞ?
『会長という損な役回りを押し付けられて、良かった良かった解散』をした連中だぞ?
カリスマがあったら、もっと積極的に俺を手伝ってくれても良いだろう?
現状、俺が皆のダンジョン運営を手伝ってる状況だし。
「マスターを智謀の持ち主……だと? やはり、ブラムスの頭はおかしくなってしまったようですね」
クロノ! おいっ! おいっ……
流石にそれは傷付く。
「だが、ああ見えて繊細なお方でもある。お前ら! 俺がクラタ様を超えてしまったことはくれぐれも言うなよ?」
ブラムスが威圧を込めて、アベルとカインに念押しすると二人が青い顔で頷く。
「あんなこと言われてるぞ? 良いのか?」
アテネが心底、不憫そうな視線を向けてくる。
黙れ。
言いわけがない!
「ブラムス様……」
「流石にちょっと……」
「僕たちも進化したが故に分かる、力の差というものに気付いたのに……」
「ん? ブラムス様はそこまで強くなられたのか?」
ワイトキング、グリ、グラが死んだ魚のような目でブラムスの茶番を見ている。
こいつらには、はっきりと俺の実力が伝わっているようで良かった。
黒騎士だけは、理解していないようだが。
「ふっ……もはや俺に意見を言えるやつも居ないか。これが強者故の孤独というやつか? クラタ様の気持ちが分かった気がする」
よしっ……死に直しは無しだ。
あいつ、殺そう。
「クロノ!」
「はいっ!」
クロノが用意した転移鉄を使って、ブラムスの背後に転移する。
また転移鉄が砕けるのが見えた。
あれっ?
10回も使って無いよね?
まあ、そんな事より俺はいま、若干おこだからね?
サタンも手伝えよ?
「ブ! ブラムス様!」
「なんだ?」
いち早く気付いたアベルが、ブラムスに注意を促す。
そして、怪訝そうに後ろを振り返るブラムス。
「何やら面白い会話をしていたな?」
「ク! クラタ様! はっ……先ほど、神殺しを達成し、私ブラムスは、大きく進化致しました!」
「ほうっ、それは目出たい」
ブラムスの報告を、取りあえず微笑みながら聞く。
サタンがスッと俺の背後に移動したのが分かる。
「恐らく貴方様を超える程に」
「そいつは、凄いな?」
「ですがご安心を……この力、貴方様のためだけに使わせていただく所存です。このブラムスめが、貴方さまの剣となり、盾となってみせましょう!」
それは嬉しいけどさ……
お前は、調子に乗り過ぎだ!
「グアッ!」
取り敢えず、クロノの時空魔法はダンジョン外でも俺には有効だから、掛けてもらって【完全なる一撃】を放つ。
拳を振り始めて、当たるまでの時間を消すという回避不能の一撃だ。
「何を!」
「その高くなった、鼻っ柱を低くしてやろうと思ってな? 慢心は身を亡ぼすぞ?」
「慢心などでは! クソッ、ならば力を示して、臣下筆頭として認めてもらうまで! 後悔しても遅いですよ!」
――――――
「懐かしいな……」
「本当に、申し訳ありませんでした……」
俺はいま樽の上に座って、ブラムスの首を持っている。
モヒカンが邪魔だ。
樽は俺の下以外に4つ。
聖水と硫酸を合わせた液体の入った樽だ。
超回復が進化してるお陰か、凄い勢いで消滅と再生を繰り返しているだろう樽の中を想像してちょっと楽しくなった。
「クラタ様が強すぎる……」
「おいっ、お前がブラムス様を調子に乗らせるからだぞ!」
「お前だって! ……ていうか、ここまで強いとか聞いてないんだけど?」
レーヴァテインと魔剣アロンダイトの2刀流で一瞬でブラムスの身体を切り分けて、クロノに用意させた樽に次々突っ込んでいった。
勿論、クロノの魔法による【完璧なる斬撃】を使って。
既にサタンの加護も奪ってあるから、ブラムスに対処できるはずもなく1秒かからずにこの作業が終わった。
「あー、ブラムス君……キミ、何か言ってたよね? 確か……俺を超えてしまったとか……」
「いえ、それはその……」
「俺を超えた事は言うなよとかって、そこの二人に口止めもしてたよね?」
「勘違いしておりました……お恥ずかしいばかりで……」
「折角、ちゃんとした椅子を用意してあげようと思ったのに……」
「えっ?」
「まあ、座椅子でもモヒカンがテーブルの上に出るから、会議に参加してる感は出るよね?」
「えっ?」
「じゃあ、またね」
「えっ?」
クロノに回収してもらう。
樽は放置したまま。
アンデッドの、アベルとカインにブラムスの身体が回収できると良いね。
――――――
俺はブラムス……
クラタ様って……しゅごい……
そうじゃない。
あー、アベル、カイン。
早く、俺の身体を救出してくれ。
回復するけど、痛くてたまらない。
新しい扉が開ける前に。
早く。
覚醒して、10分も経たないうちに現実を思い知った。
やっぱり、目立っちゃ駄目だね。
うん。
しばらく、おとなしくしてようっと。
短い栄光だった……憂鬱。
ブラムスの今後に御期待下さいw
ブラムスを樽から出してあげて! という方は評価をお願いしますwww
多分、これ樽から出せないパターンになりそうですが(笑)
これからもよろしくお願いしますm(__)m
新作、一応2話目まで投稿してます。
そっちも、宜しくお願いしますm(__)m
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