SHADOW FORCE#18
コロンビア陸軍との連携で敵ヘリの撃破を試みるエックス−レイ。彼らはいつもそうしてきたよに、現地の部隊と共同で事に当たった。一方でコロンビア政府の会見は遅々として進まぬ有り様で…。
登場人物
アメリカ陸軍
―マウス…アメリカ陸軍特殊部隊シャドウ・フォース、エックス−レイ分隊の分隊長。
ブラジル陸軍
―ビディオジョーゴ…ブラジル陸軍の詳細不明部隊の隊員。
コロンビア政府
―アレハンドロ・ベルナルド・ナルヴァエス・(レクシィ)ガルシア…コロンビア現大統領
二〇三〇年二月二七日、午前十一時四一分:コロンビア、ボゴタ市街南端
敵のヘリはスーパーコブラであった。どこでこのような品を仕入れたのかは不明であるが、しかし現実の脅威には変わりなかった。
異次元の生物じみたコクピットのガラス部分の向こう側はよく見えず、恐らくミラーガラス仕様かつ様々なディスプレイが表示されていると思われた。
搭載されている機銃から煙が上がり、爆発的なローター音が辺りを満たし、風圧が鬱陶しかった。コロンビア兵達は怒号を飛ばしてコミュニケーションを取り、背後から現れた味方BVがレール砲を発射した。
電磁力の作用によって超加速された金属弾が信じられないような速度で発射され、ほぼ初速を保ったままで敵のシールドに激突した。
現行式のシールド技術は被弾時の運動エネルギー等の衝撃を大幅に減らす事ができるが、それでもヘリにとってはきつい一発であった。反撃に放ったロケットが急いで撃ったせいで何発か逸れ、ビルの外壁が爆発した。
「危ない!」とマウスは叫び、破片が彼らの近くに落下した。全員が急いでその場を離れ、コンクリートと金属でできた塊がどさりと落下した。最低の天気だ。
「ビディオジョーゴ、無事か?」
『ああ、まあな。最低な気分だけどさ』ビルの崩れた外壁からその内部の床に立っている彼は、それから味方のカサドールを見た。「あいつは今の被弾でシールドを幾らか削られたな」
どうやら一度合流していたビディオジョーゴは瓦礫を避けた後に再び元の崩れた箇所へと戻ったらしかった。
タグ付けした味方BVの情報が共有され、それはシールドが残り七割程度であった。となると少なくて一発、多くて三発のロケットを喰らったのか。
『悪い、こちらは少し後退する!』BVは一端転倒したバスの裏で屈んだ。被弾がかなり減ると思われたが、火力支援は打ち切られた。
「よし、俺達はコロンビアの部隊と奴の気を引くぞ。ビディオジョーゴ、お前はクローク状態であのクソったれにレーザー照射してくれ、CV‐4A4のレール兵器と連動させるんだ!」
瓦礫やビルの入り口等で隠れたコロンビア兵が出て来てロケットを発射した。それは上手い事ヘリに命中し、更にシールドを削った。
『よし、味方BVとライフルのレーザーをリンクさせた、やってやろうぜ!』
クロークで周囲と見分けが付かない状態のブラジル人が照射したレーザーはレール砲に安全な位置からの射撃を約束した。
BVはまず屈んだ状態で横転したバスの背後から壁抜き射撃を見舞い、敵のスーパーコブラがふらふらとなった隙に後退し、ビルの一回部分の壁が崩落した箇所へ隠れた。そこから更に追撃、三発目にしてシールドが枯渇し、敵のヘリは無防備になった。
『よーし、そこのパイロット、俺がグレネードで怯ませて見せ場を作る』
『了解、派手にやってやる』
ビディオジョーゴはクロークを解いてライフル下部からグレネードを撃ち、それが低空でホバリングする敵のスーパーコブラに命中してがくんと揺らした。
後方にいたCV‐4A4カサドールはビルの影から躍り出て、完全にロックした敵目掛けてまず左腕のレール砲を撃った。
それがヘリの突き出た右翼じみたウェポン・ベイを貫通してぐるりと回転するようにバランスを崩させ、そして右腕に装着したフラックキャノンを三発連射し、強烈な散弾は負傷した巨鳥をずたずたにして殺した。
新たな反応が前方にあり、それは敵のBVであったが、しかしそれは先を急ぎ過ぎた。今まさに墜落という巨大なスーパーコブラに運悪くか、あるいは急ぎによる不注意かで接近し過ぎて、そしてぐるぐると死の舞いと共に墜落して来たそれの下敷きとなった。
シールドに大きなダメージを受け、なおかつ動きが制限された。全員でそれに追撃を仕掛け、様々な兵器で過剰な火力が集中した。
爆発と共に使い物にならなくなった敵BVとそれに絡まったヘリの残骸を見て誰かが『撃ち方やめ!』と叫んだ。人型の巨人は手足がずたずたとなり、千切れ、装甲が拉げていた。中の兵士が生きていようとまずあのカサドールは動けないであろう。
「制圧した、進め!」と誰かが叫んだ。今この時、分隊はこのコロンビア陸軍の兵士達と一体になっているような気がした。
彼らは平時に出会っていればどうなっていたかはわからない。確かに国際的な協調は徐々に進みつつあるが、しかしこの非常時でなければ外国人がうろついている事に顔を顰めるコロンビア兵もいたかも知れないし、あるいはそれは気のせいかも知れない。
アジア系であるロッキーに対して、アジア系の人々に慣れていない誰かが何かを言ったかも知れないし、そうはならなかったかも知れない。
しかしいずれにしても、今彼らは国や人種などというものには縛られなかった。ある意味では全員が対等であり、平等かも知れなかった。彼らは全員が『民間人を虐殺する正体不明のテロリスト』を抹殺するという使命に燃えていた。
そのため今回外国人と共に行動した兵士達はこの激戦を生き延びればこう思うであろう、『あのアメリカ人やブラジル人は恐れ知らずだった』と。
シャドウ・フォースの任務は大抵がブラック・オペレーションであり、ニュースになる事も無い――そこにアメリカ人がいた事は噂止まりとなる。
しかし彼らが現地人と協力する事も少なくない。シャドウ・フォースの気風はそうした現地の協力者との円満な協力関係をよしとするところがあり、それは『欧米世界』でも『イスラーム世界』でもどこか自分がマイノリティであると感じる事の多かったモーガンスターンの経験も関係しているかも知れなかった。
シャドウ・フォースはエックス−レイを見てもわかる通り、様々なバックグラウンドのメンバーが抜擢されている。優秀であり国家への忠誠が高ければそれでよしとする考えはアメリカ軍の他の部隊よりも更に高いように思われた。
そして冷徹そうなブロック准将――東部出身の白人――も、真にアメリカに忠を尽くす者を蔑ろにする事が国を駄目にすると理解していた。
彼は以前モーガンスターンと共に、『西ローマ末期、異民族の血を引く二人の軍司令官』について話し合った事があった。
ヴァンダル人の血を引くスティリコ将軍とスキタイ系またはゴート系の血を引くアエティウス将軍が辿った同じような末路は、アメリカにとっても他人事ではないように思われたためであった。
だがこうした話には正直なところ納得のゆく結論が出る事は難しい。ブロックとモーガンスターンの両者の時点で既にそのルーツや地元の気風、その他様々な影響による自己の考え方が異なる。
そのためモーガンスターンはなんであれ、この特殊部隊の士気を高める事に腐心しているのであり、ブロック自身も結果さえ出ればシャドウ・フォースはそれでよいと考えていた。
そして実際にエックス−レイは異郷の地でまたも活躍し、あの忌々しい自由電子レーザー砲へと更に一歩前進したのであった。
レクシィ・ナルヴァエス大統領は妙に落ち着いていた。とは言えこれが彼の平常ではあったが。大統領官邸内は物々しい空気に包まれ、新古典主義を基本に作られた横に長い白亜の宮殿はまさに非常事態の状況下に置かれていた。
敵は不自然にこうした政府や司法、金融や企業の建物を攻撃目標として重要視していなかった。むしろ市民の大量殺戮を目的としている節があり、駅や空港、繁華街や住宅街や学校を狙っていた。
大統領官邸の外部では軍の部隊や警察が既に一帯を封鎖して厳重に警備していたが、敵はほとんど手出しして来なかった。強力な部隊との交戦を避けるそれ自体は懸命かも知れないが、しかし暴力の時代のテロ攻撃とは一線を画していた。
官邸内では慌ただしく会見の準備が続いていたが、しかし先程持ち込まれた照明が急に発火を起こし、それ故要人は火元から厳重に隔離され、警戒は更に高まって空気が余計に重くなった。
「申し訳ありません、大統領」
若い職員が謝罪をした。この職員は去年ここに入ったばかりであった。黒い髪、真面目そうな優しい目、肌荒れ一つ無い赤い肌。スーツの皺や細かい付着物も許容できず、一時間に最低十回は己の身だしなみをチェックするタイプ。
「いや、構わんよ。こんな状況だ、悪い事はとことん重なる場合もあるさ」
国民全員の父親のように振る舞う大統領は『息子』を宥めるように言った。言葉は柔らかく、周囲の護衛をも穏やかにさせた。
今や大統領及びその他の要人は物々しい護衛に囲まれて個室にそれぞれ待機しており、ドアの前に二人、部屋の中でも三人、廊下でも三度の検問が置かれ、そこを通らないと会いに行けないようになっていた。
「喉が乾かないかね?」
「ええ、はい」
「飲んで行きたまえ」と『レクシィおじさん』は言った。親指で部屋の端にある水のサーバーを指した。
「でしたら、遠慮無く」
「心配するな、私が既に毒味したよ」と言いながら彼はテーブルの上の透明のカップを掲げた。サングラスの護衛達も咳払いして笑った。白い壁と調度品の数々とがここが外の地獄とは無縁であるようなギャップを生み出していた。
官邸の外の検問を通過した車両がミネラルウォーターを降ろし始め、緊張で乾いているであろう官邸内の救いになると思われた。
次回辺りでサクッとレーザー砲奪還して次のステップへ向かいたい。




