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三八三年 祝の十四日

本編『祝の十七日』のネタバレを含みます。

長くなりましたね…。

 午前の訓練を終えて戻ってきた皆。どうしたんだろう? すっごく浮かれてるよね。

 カートと目が合ったから。どうしたのって聞いてみたら。

「アリヴェーラさんがロイヴェインさんに勝ったんだよ」

 って、興奮気味に答えてくれた。

 アリー、ロイには負けたくないって言ってたもんね。

 アリーは強いし、美人だし、かわいいし、優しいし、ガラス細工の腕もすごいし。ほめるとこしかないよね!

 うんうん頷いてたら、急にはっとしたカートが、受付越しにちょっとこっちに乗り出して。

「で、でも俺はレムのほうが…」

「ううん。アリーはほんとすごいから!」

 そう言ったら、カートは私を見て、ちょっと不思議そうな顔して頷いてた。



 今回はどうかなって思ってたら。夜、ものすごい剣幕でジェットが駆け込んできた。

「レムっっ! ニースの部屋はっ?」

 入るなりのジェットに思わず答えてしまってから、失敗したかなと思った。

 だってジェット、どう見ても普段の様子じゃない。

 どうしようって思ってるとダンが来て。大丈夫って言って二階に上がっていった。

 すぐにナリスとリックも来て。おろおろする私にふたりも大丈夫だって言ってくれた。

 ふたりの言う通り、ジェットたち、すぐ降りてきて。

 よかった。ジェットとチェザーグさん、笑ってる。

「着くなり悪かったな、レム」

 間違いなくアルディーズさんとククルのことでだよね。

 ジェット、殴ったりしてないよね??

「おかえりジェット。今回はこっちに泊まるんでしょ?」

 ククルの家にはアリーが泊まってるからね。

「ああ。ダンと一緒で」

「俺たちも一部屋で」

 ナリスとリックもそう言ってくれる。

 鍵を渡して。荷物を置いたら食事に行くんだって。

 皆もう一度荷物を置きに上がって。待っててくれたチェザーグさんと店に向かう。

 多分わざと、最後にゆっくり降りてきたナリス。受付前で足を止めて、にっこり笑って。

「ただいま」

 ちゅっと、軽くキスをして。笑顔のまま出ていった。

 おかえりって、言いそびれちゃったけど。

 会えて嬉しいよ。



 食堂から戻ってきたナリス。一度部屋に戻ったけどすぐに来てくれた。

「時間、いいかな」

 次に来たら話してくれるって言ってたから。きっとそのつもりなんだろうな。

 私もカートのことを話さないと。

 ふたりで厨房に行って、お茶を淹れる準備をしたところで。

「レム」

 呼ばれて、ナリスを見ると。頬に手を伸ばして、寄せられて、優しくキスされる。

 いつもより優しいけど、いつもより熱っぽくて。

 お湯が沸いたらすぐやめてくれたけど。あぁもう恥ずかしい。

 くすくす笑われながら、多分真っ赤な顔でお茶を淹れて。ふたり並んで座って。

「前にあったこと、話すって言ってたよね」

 一口お茶を飲んで、ナリスはゆっくり話し始めた。

「ギルドに入ってすぐに、セレスティアで知り合った子がいて。二年くらいしてから付き合いだしたんだ」

 ナリスは十三歳のうちにギルドに入ってるはずだから、十五歳くらいのときなのかな。

「その子はセレスティアから四時間くらいかかる町に住んでて。初めはセレスティアで待ち合わせたりしてたんだけど、予定通り戻れなくて待たせることもあったから。俺が彼女の町まで行くようになったんだけど」

 予定通りいかないのは、旅生活のギルド員なら仕方ないことだけど。

 ナリスのことだし、ひとり待たせるのを心配したんだろうな。

「往復八時間になると、日帰りだとそんなに長くいられなくて。それでも会いたいから、休みの度に行ってたんだ」

 ナリスは落ち着いた顔をしてたけど。視線は落としてカップを見てる。

「五年くらい、そんな感じだったんだけど。やっぱりだんだんと気持ちが離れていってるのは、何となく感じてて」

 そのときのナリスがどんな気持ちだったのか。考えただけで胸が苦しい。

「年始は毎年実家に帰ってたんだけど。ゆっくり会えたらまた前みたいに戻れるかなって思って。直前で予定を変えて彼女の町に行ったんだ」

 年始、の言葉に私は思わず手を握りしめた。

 ナリスの表情は変わらないけど。

「彼女、ほかの男といて。全然会えないのに付き合ってるなんて言えるのって、そう言われた」

 …多分、ホントはもっとキツいこと言われたんだろうなって、何となく思えた。

「それ以来好きになった人がいなかったから。レムのこと好きになって初めて、自分がこんなに前のことを引きずってるのに気付いたんだ」

 そう呟いて、やっと私を見てくれて。

「離れるのが怖くて。ほかの男に嫉妬して。自分のものだって思いたくて、レムにも酷いことしたよね」

「酷いことなんてされてないよ!」

 私がそう言うと、ナリスは一瞬驚いた顔をしたけど、首を振って。

「少なくとも俺はしたと思ってる」

 そう言うナリスはちょっと辛そうで。

「こんな情けない話聞かせてごめんね」

「情けなくないよ。だってナリスはちゃんとその人が好きで、大事にしてて。大切だから会いに行ったのに」

 やっぱり思ってた通り。ナリスは不誠実なことなんて何ひとつしてない。

「会えないのもナリスのせいじゃないのに」

 それなのにナリスを責めるなんて酷いよ。

「ナリスは、何も悪くないよ」

 好きな人に会えないのは悲しいけど。

 それを相手のせいにするのは絶対に違う。

「ありがとう、レム」

 堪えきれなかった涙を拭って、ナリスが私を優しく抱きしめる。

「前にレムがそう言ってくれたから。俺も吹っ切れたんだと思う」

 抱き込んだまま私の頭を撫でて。

「もう大丈夫。俺はね、レムのことは信じられるよ」

 顔を上げると、ナリスは優しく笑ってて。片手で私の涙を拭ってくれてから。

 キスを落として、また抱きしめた。



 ちょっと冷めちゃったお茶を飲んで。

 私も落ち着いたから、話さないと。

「ナリスにね、話さないといけないことがあるの」

「何?」

 カップを置いて、ナリスは私を見てくれる。

「あのね、この訓練が終わったら話を聞いてほしいって言ってる人がいて。前からの約束だったから、聞くよって答えたの」

 途中まではナリスの目を見てたんだけど、どう思われるのかが怖くて見てられなくて、視線を落とした。

「そういう話なのかなって、思ったんだけど。確かじゃないのに、私には好きな人がいるからって先に断るのも、違うような気がして…」

「好きな人って俺のこと?」

 思った以上に明るい声で、ナリスがそんなことを言ってきた。

「当たり前だよっ」

 ナリス以外に誰がいるの??

 ナリスを見上げてそう言ったら、嬉しそうに笑われた。

「そいつに好きだって言われても、断ってくれるの?」

「断るよ」

 当たり前のこと聞かないでよ。

 ちょっと拗ねそうになったけど、ナリスが妙に嬉しそうだからやめた。

「…怒らないの?」

「ちゃんと話してくれたから。妬きはするけど、怒らないよ」

 笑ったまま、私にキスして。

「それに。俺が好きだからって断ってくれるんだよね?」

「そうだよ」

「だったらいい」

 もう一度、今度は少し長く。

「俺も愛してる」

 私を見つめて、そう言って。

 さらに深く重なった唇は、苦しくなるまで離してもらえなかった。



 ナリスの話も聞いて。私の話もして。

 今日はこれでおしまいかな。

 カップを洗って、火の始末をして。

 大丈夫かなって確認してたら。

「もうひとついいかな?」

 急にナリスにそう言われた。

 ナリスを見ると、ちょっと照れたように笑って。

「実は前からジェットに、ちゃんとアレックさんに話すように言われてるんだ」

 お父さんに?

 話すって、付き合ってるって?

「この訓練が終わったら、レムとの交際を認めてくださいって、アレックさんにお願いしに行っていい?」

「わ、私はいいけど……いいの?」

 うちのお父さん、怖くないのかな??

 ナリスは頷いてから、ただ、と続ける。

「レムはまだ成人してないから。もしかしたら反対されるかもしれないけど」

 うん、お父さん、怒りそうだよね…。

「そのときは認めてもらえるまで、何度でも話すから」

 まっすぐ私を見て、ナリスはそう言ってくれた。

 私とのこと、ちゃんと考えてくれてたんだ。

「…ありがとうナリス。私も一緒にお願いするね」

 ナリスの手をぎゅっと握ってそう言うと、ナリスは微笑んで頷いてくれた。

 ナリス過去編です。あれ以来『お付き合い』した相手はいないナリスですが。レムが内心言っていた『不誠実』を口に出していたら、きっともっと慌てて弁解せねばならないところでした。危なかったね、ナリス!

 本編はアリー大人気。気さくな美人はいいですよね。

 特殊能力発揮のダン。周りをよく見るのは、多分あまり人を疑わないジェットの傍にいたから、でしょうね。

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冬野ほたる様 作
― 新着の感想 ―
[一言] 言わなければ気づかなかったことが あとがきではダダ漏れになってる
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