三八二年 実の三日
昨日はホント、色々あった。
朝起きて、身支度しながら。
私は昨日のことを思い返す。
まさかナリスに好きって言われるなんて。昨日の朝には考えもしなかったのに。
あのあと外に戻ってからも、ふたりで色々話した。
傍にいさせてって言われた通り、ナリスはいつの間にか近くにいて。
ナリスのこと、私のこと、たくさん話した。
…楽しかったよ?
たまにこっちが恥ずかしくなるくらい見てくるけど。
一緒にいるのも、話すのも、楽しかった。
そういう意味で好きなのかは、まだ、わからないけど。
朝食のあと、ジェットは町の皆を手伝いに行くんだって言って。ダンとリックもそれについていって。
自分が宿を手伝えばお兄ちゃんは店にいられるだろうって言って、ナリスがここに残ってくれたけど。
そうなるとやっぱり、一緒に行動することになるんだよね。
もちろん今日はちゃんと仕事しないとだから、昨日みたいに話してばっかりはいられない。
それはナリスもわかってくれてて、やっぱりたまに微笑んで見つめてくるときはあるけど、しっかり働いてくれた。
もともと几帳面なナリスだから。やることは丁寧で手際もいい。
泊まってた部屋も、出るときはいつもきれいに整えてくれてるしね。
そんなことをしてる間にお昼も過ぎて。
ふたりとも休憩しておいでと、お父さんに言われた。
店で食べてもいいって言われたけど、まだ少しお客さんもいたから、作ってもらって宿に戻ってきた。
宿の厨房。お茶を淹れて、また並んで座って。
でも昨日と違って。隣に座るのはちょっと緊張するかな。
「宿も色々することがあるんだね」
そう言って笑うナリスは、まだ見慣れた顔してる。
「疲れてない?」
聞いた私に、こっちを向いて瞳を細めて。
「楽しいから大丈夫」
って、ちょっと嬉しそうに返してくれた。
「本当に、レムはいつも一生懸命だよね」
「そ、そうかな?」
覗き込むように見られて焦る。多分赤くなった私に、ナリスはくすりと笑った。
「うん。レムはね、いつも明るくて、人のことでも自分のことみたいに喜んだり悲しんだりして、皆のこと気遣って、誰にでも優しくて」
ナリス! そんなことないから! ほめすぎだから!
私ってそんなふうに思われてたの?
「会えない間に、レムはそういう子だなって思い出してたら。何かもう、好きでしかなくて」
そのままじっと見てくるから恥ずかしくなって前を向くと、横から頭を撫でられる。
ダンやジェットに撫でられるのはほめてもらってる感じなんだけど、ナリスのは、何ていうのか。
髪も一緒に梳かれる感じが、ちょっとくすぐったいけど、気持ちよくて。
少し笑ったら、急にナリスの手が止まった。
あれ、と思ってナリスを見たら、私を見る金の瞳が少しだけ細められて、そのままゆっくり近付きかけて、止まった。
ぱっと手が離れる。
「ご、ごめん」
慌てたナリスの声。
目を逸らすように、今度はナリスが前を向いた。
ちょっと待って? ひょっとして。
顔が熱くなるのが自分でもわかる。
ナリスを見ると、正面を向いたその頬もちょっと赤くて。
やっぱり、ナリスさっき。
キスしようとしてた??
本編にはない日付です。
ナリス、まだ自制できたようで。
お仕事振りは合格点をもらえたみたいです。





