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【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【十話】憤怒と運命。
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(95)何者かの意思

 玄関から出ると、アイシャが立っていた。


「おっそいよ」

「……すみません」


——もう、何度見た光景か。


——もう、何度聞いたセリフか。


「夕方までは自由にしてていいって、お姉ちゃんが」

「へえ。何する?」

「私ね、行きたいところがあるんだけど良いかな?」

「おう。何処?」

「……結婚式会場の下見」

「あ~……はい」


ストロングホールドのはずれにある教会の事か。

まあ、帰省中の行動としては悪くない。


 街を巡回する馬車に乗り、教会へ向かった。席に座る。

この狭苦しい感じも懐かしい。俺の右側に座り、寄り掛かってくる幼馴染の少女。

その姿を確認したのち、つい左側に視線を送った。


「……何してんだろうな、俺」


左側の空席を見て、心が締め付けられる。

俺の独り言が聞こえていたのか、はたまた

聞こえていなかったのかは分からないが、アイシャは何も言わなかった。



 教会前に到着した。何度見ても圧倒的な存在感だ。


「いつ見てもデカいな」

「そうだね。じゃ、お邪魔しまーす」


アイシャが古い木戸を押すと、ギィと音を立てながら中の景色が見えてくる。

儀式が無いときは一般開放されている……と、入り口の看板に書いてあった。


中央の道を進み、空いている長椅子に座った。

ストロングホールドの騒がしい空間とはうって変わって、ここは静かだ。

空気も澄んでいて落ち着く。自然と頭がさえわたるような気分だ。


「……なあ、アイシャ」


周囲の迷惑にならないよう、出来る限り小さな声で語りかける。


「ん?」

「……あのフード男がさ、魔物の長って話をしてたよな?」

「うん」

「でも俺たちは、そんな奴知らないじゃん?」

「そうね。大昔に討伐されたんでしょ? それで戦争が終わったって話だし」

「……だよな」


アイシャが話したことは、これと言って特別な情報じゃない。

中等教育で誰もが教わる「事実」のはずだ。


魔物の長……皮相な表現だが、仮に魔王としておこう。

かつて、その魔王が人類によって討伐され、魔物たちはどこかへ逃げ去った。


だから、魔王はもう居ない。

そう思っていたし、こんな戦況でも姿を見せない以上

新たな即位も考えられない……とされている。


「でも、予言の奴らを考えてみるとさ」

「うん」

「今回もそうだけど、人がまったく居ない所に現れた奴は一匹もいないんだよな」


これまでの「予言」のことを思い返す。


ヴァルム地方、ヴァイス氷山、ゲルプ砂漠、インゼル島、ストロングホールド。

それに、先代の魔特班が戦ったというブラウ海岸にも

そこまで大きくないにしろ、集落がある。


「……確かに」


世界は広い。人間が住んでいない場所なんて、腐るほどある。

それなのに、どの「予言」も、人が居るところの近くに現れている。


その証明として、俺たちは毎回近くの集落まで馬車で向かい

そこから少し歩いただけの地点で交戦した。


「うーん、何かの意図を感じるね」

「そう」


奴らは人のいる場所を狙って現れるのだろうか? そんな戦略感がある。


「ユウの言いたいことは分かったよ。つまり、新たに魔王が誕生しているか、もしくは——」

「——討伐されていないか、だな」


——魔物は「烏合の衆」ではなかったのだ、と。


——何者かが意図して「予言」の魔物を出現させているのではないか。


「たしか、あいつらは魔王の右腕たちだって言ってたよね」


……フード男と対峙した時のことを思い出す。


「ああ。右腕たちなら、魔王の指示でその場所に現れてるってことも考えられる」

「う~ん。でも何で不定期に一匹ずつなんだろう? インゼル島のは二匹だったけど……」

「確かにな……。一気に全部送って来れば、人間は対応できなかっただろうに……」


——ん? 俺は今、「送ってくる」と言ったか……。


——送るって、何処から……?


「考えてみると、分からないことが多すぎるよね。終戦の流れだって、結局は全部推論に過ぎない訳でしょ? 魔物に関してもそう」

「そうだよな……」


——俺たち騎士は、敵についてほとんど何も知らないまま戦っている。それが現状だった。


「う~ん、わっかんない」

「ああ、お手上げだな」


——結局何も分からず終いだ。


「それより今は——」


最後の予言に集中、だな。


「——下見しよう」


……そっちか。



 あまりウロチョロしても目障りだろう。

それに、中の方は昔、シスターさんに案内してもらったことがある。

逆にこの空間の方が、新たな見どころが満載だ。


 上の方のステンドグラスや、真ん中奥の祭壇を観察した。

建設から何百年も経過しているらしいが、全くそれを感じさせない美しさだ。


「あれ、あの絵画……」


何かを発見した様子のアイシャが

壁にたくさん並ぶ絵を左側から順に見ている。


「ん? ああ、サルだ」

「文字はないけど、多分あのお話だよね」

「そうみたいだな……。全然気づかなかったよ」


昔聞かせてもらったサルが出てくる御伽話。

未だにあの話が何を言っているのかは分からない。


もしかして、御伽話じゃなかったりするのだろうか……? 


じゃあ何だ、と訊かれたら答えられないのだが。


——と言うか、覚えていたんだな。


「……そろそろ帰る?」


日が傾き始めている。

ここにいると時間を忘れそうになる。


「だな。みんなを待たせるのも悪いし」

「じゃ、また今度来ようね」

「教会、結構気に入ってるみたいだな」

「次は新郎新婦として、ね」

「なるほど、そう言う事ね……」


古い木戸を開け、外に出る。

閉扉と共に、だんだん見えなくなっていく中の景色。


アイシャはそれを、名残惜しそうな瞳で見ていた。




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