(94)良くも悪くも思い出たち
リビングには、昔と同じ木製の机や椅子が置かれていた。
そこに座っていると、母さんから話を聞いた父さんも二階から降りてきた。
「こんにちは、リーフさん。ユウがお世話になっています」
「こんにちは。いえ、ユウ君は私なんかより、よっぽど優秀な騎士ですよ」
——目の前でそういう話をされると困るんですけど……。
「どうぞ、お茶です」
「すみません、お構いなく」
「それで、今日はどうしたの? いきなり帰ってくるなんて」
「そうそう、その話をしに来たんだった。今日の深夜に、北東部の方で任務があるんだ」
「任務って、ここに魔物が出るの?」
「まあ、ちょっと見回りをね」
はい、そうです。なんて言えばパニックだし、
ましてや「予言」のことなど言うわけにはいかない。
「それでね、任務までの間と、明日のお昼くらいまで家に泊まれないかなって」
「すみません、いきなり押しかけてこんなこと」
「いいえ。大丈夫ですよ。部屋はありますし、お役に立てるならぜひ。二人だけですか?」
「はい」
「おね……班長達女性陣はアイシャの家に行ったよ」
「そうか。……おね?」
「……何でもないよ」
——癖は怖い。
「じゃあ父さんは空き部屋を片付けてくるよ」
そう言うと父さんは立ち上がった。
「手伝います」
それに続いてリーフさんも立ち上がり、父さんについて行った。
「ユウ、あなたは自分の部屋を掃除しなさいね」
「……はーい」
母さんに言われ、なんだか時間までもが戻った気分になった。
「さてと。こんなもんかな?」
掃除といっても、少し誇りを払って換気する程度で済んだ。
俺が不在の間も、ある程度の掃除をしてくれているみたいだ。
ふと壁を見ると、初等学校、中等学校の卒業証書など、小さいころの思い出が並んでいた。
「これは……初等学校……二年生のか?」
クラスが変わってしまう前にみんなで書いた寄せ書きのようなものだ。
あの時は三人とも同じクラスだったな。
「クラスがかわっても、なかよくしようね サラ」
という涙ぐましいメッセージの横には
「おおきくなったらけっこんしようね アイシャ」
と、やたらめったら濃く、デカい字で書かれている。
「クラス替え関係ないじゃんか」
そうツッコみを入れた。
次に目に入ったのは、部屋の四分の一くらいを占めるベッド。
そして、その付近の壁。そこに寄り掛かると
怒りと悲しみに震える彼女の顔を思い出してしまい、すぐに離れた。
「掃除は進んでる?」
「あ、母さん。うん、一通り済んだよ」
「そう。なら急ぎなさい」
「急ぐ?」
「アイシャが迎えに来てるわよ」
「……そっか。分かった。さっきの話、受けてくれてありがとう。助かるよ」
「いいのよ。それよりほら」
「わかってる。じゃ、また後で」
「ええ、行ってらっしゃい」




