(93)生まれ育った街
翌日。昼前にストロングホールド北西部の中心地に到着。
馬車を降りると、懐かしい景色が飛び込んでくる。
「そうそう、この騒がしさ」
「帰ってきた、って感じだね」
「ああ」
「ストロングホールドねえ。居住区まで入ったのは初めてだわ」
「とりあえず、実家に声かけてみます」
「ええ、そうね。挨拶しないとだから、案内してくれる?」
「「了解」」
馬小屋があるのは中央通りから少し外れたところだ。
二区画ほど進めば、北西部の住人が大変お世話になっている商店街に出られる。
「結構人が多いな」
王都での生活に慣れてきた目でも、多いと感じる。
「北西部と北東部は一番王都に近い部分です。砦の中では比較的安全な方なので、人口が集中するんですよね」
「なるほど、賑わうわけだ」
ストロングホールドは、魔物が王都に来るのを防ぐ砦だ。
理由は不明だが、魔物は南から現れることが多い。
その進行を妨げるため、かつての大戦時に建てられた巨大な防壁とその麓に作られた街。
まあ、その北端地域に人が集まるのは必然だな。
なんて話しながら進んでいると、商店街に出た。
八百屋も、肉屋も、すべてが懐かしい。
「ちょっと寄り道してもいいですか?」
「ええ」
並んだ屋台。
その中に、特別思い入れの深い店を見つけ、駆け出した。
「すみません、お待たせしました。よかったらどうぞ」
「このポテト……。懐かしいね」
「いいの? じゃあ、いただくわね」
「うん、変わらない味」
昔は三人で分けていたポテトを、今は五人でシェアしている。
異様に少なく感じたのは、人数のせいだけじゃなさそうだ。
「ん、八百屋さん。元気そう」
「お、ほんとだ」
八百屋に視線を向けると、これまた昔から
店番をしているおじさんとおばさんがいた。
目が合うと、俺たちに気付いて話しかけてきた。
「お、お前ユウか‼」
「おじさん、久しぶり!」
「へえ、あの悪ガキが随分立派になったものだな」
「あら、じゃあそっちはアイシャ? べっぴんさんね~」
「えへへ、ありがと」
「仕事か?」
「まあ、ね」
「そっか。そんじゃ邪魔できねえな。また近いうち来なよ」
「うん!」
手を振って八百屋の前を通り過ぎた。
「お前、悪ガキだったのか」
「俺はアイシャに付き合ってただけなのに……」
「なんのことでしょうかー」
「幼き頃のご主人様……見てみたいですね」
「そうね、確かに」
……それはどういう理由でなのだろう。
本人としては、お姉ちゃんとエリナさんに
それを言われると恐怖でしかないのだが。
「べつに、そこら辺の子供と変わりませんよ。それより小さいころのアイシャを見てほしいですね」
「……何だか想像できないわね」
「今と大して変わりませんよ」
「嘘をつくんじゃないよ。まるで別人のようじゃんか……。下ネタには厳罰が下されましたね」
「へえ、アイシャがねえ……」
「時間の経過は残酷だな」
「それ、どういう意味ですか?」
馬車を降りて三十分ほど。
やっと住宅街に入った。
懐かしの公園を横目に見る。
「……」
「未だにいるんだな」
「ほんとね」
嫌いなタイプの騎士たちだ。
特に喝を入れに行くとかはしなかった。
さらに一区画進んで、実家前に到着した。
「ここです」
「ありがとう。リーフ、あなたはユウのご両親に挨拶してきてくれる?私たちはアイシャの方に行くから」
「あいよ」
いったんアイシャ達と別れた。といっても、アイシャの家は向かいの隣なのだが。
女性陣を見送り、我が家の呼び鈴に手をかけた。
しばらくすると、中から足音が聞こえてきた。
「はい……あら、ユウ? おかえりなさい!」
出てきたのは母さんだった。
「ただいま」
「そちらの方は」
「先輩の……」
「リーフです」
「そうですか。立ち話もなんですから、どうぞ中へ」
「すみません、お邪魔します」




