(89)厄介な能力
「ユウ! リーフさん! 魔物がそっちに!」
アイシャの警告が聞こえ、急いで瞬間移動で退避。
「ふう、危なかったな」
「助かりました」
「二人とも無事?」
「ああ」
「大丈夫です」
「そう、よかったわ」
無事なのはよかったが、一体何事だろう……?
桃色の魔物が、死んだ黒色に手をかざし——
「なっ⁉」
——黒色が、再び立ち上がる。
蘇生能力か、これは厄介だ……。
それだけじゃない。
分断していたのに、結局乱戦状態になってしまった。
——くっ、なんだか戦いにくいな……。
とにかく足場が悪い。一気の攻め寄りたくても
水たまりやぬかるみが広がっていて、走ることさえ困難だ。
……まあ理由はそれだけじゃないが。
「なあアイシャ」
「ん?」
「相手、交代してくれないかな」
今、俺が戦っているのは桃色の方。
黒色の援護をかわしながら、なんとか戦っていたが……。
「黒もピンクもそんなに変わらなくない?」
「いや、その……大いに違うんだよね」
「え?」
視線を動かすアイシャ。二匹を比較しているようだ。
「え、もしかして……」
何かに気付いてしまった様子。
……そんなジト目で俺を見ないでください。
「そうなんですよ」
桃色の方だが、こいつは女型なのだ。
魔物だし、人間に似ているのは形だけなのだが、どうしても戦いにくかった。
「相手は魔物だけど……」
……はい。
「しょうがないな~、じゃあ交代ね」
「感謝」
「でもね」
「?」
「あんな魔物なんかより、私を見てよね」
「……かしこまりました」
——戦闘中にそういう愛くるしい事をしないでくれ。気が散って仕方ない。
「さてと」
相手は変わって黒い魔物。
リーフさん、エリナさん、俺の三人で相手をしている。
「なんだ、交代したのか?」
「はい。ちょっと……」
「まあ、実際向こうがやりにくいのは分かる」
「ですよね!」
俺だけじゃなかった‼
……っと、それは良いとして。
さっき戦った時に分かったが、こいつらは個々であれば大して強くない。
だから——
「これでっ‼」
エリナさんの光剣が、魔物の防御を簡単に突破。
そのままコアのある喉元を切り裂く。
——こんな風に、その気になれば一人だけでも討伐はたやすい。
「桃色を警戒しろ!」
問題は蘇生能力だ。
黒を倒すと——
「来ました!」
お姉ちゃんとアイシャを無視して、桃色がこっちに来る。
だが俺たちもバカではない。その行動は既にパターンとして頭に入っている。
「行かせるか!」
桃色の進路に割り込む。この状態でこいつのコアも壊せば、勝てる!
「リーフさん!」
剣撃を浴びせて怯ませ、魔物の反撃を、あえて鍔迫り合いで受ける。
「おう!」
十メートル以内に居たリーフさんが、瞬間移動で桃色の背後に回り込む。
「トドメだぁっ‼」
リーフさんの剣が桃色の喉元を貫いて、ガラスの割れる音——
「なっ⁈ ユウ、後ろから来てるぞ!」
「⁈」
リーフさんの言葉を受け、本能的に右に回避した。
飛び込んだ先には水たまりがあり、俺はそこに綺麗に浸かった。
「ユウ! 大丈夫?」
「ゲホッ、ゲホッ……。ああ、まあ大丈夫」
心配するアイシャの声に返事。
魔物の方を見ると、さっきまで俺がいた地面に、黒色の腕が刺さっている。
「そんな、黒は倒れてたはず……」
「ご主人様、どうやらこの魔物共は四肢……少なくとも脚をのばせるようです」
見ると、桃色が地面から脚を抜いているところだった。
「なるほど。脚が地面を通って、俺の後ろで倒れていた黒色を蘇生させたわけですか……」
さらに厄介なことに、また合流されてしまった。
どちらかを倒しては蘇生、合流、分断というのを何度も繰り返していた。
「また分断からやり直しね」
何度目かもわからないやり直し。そろそろ精神的にきつくなってくる。
再び合流に成功した二匹は、見合ったり、手を握ったりしている。
人間でいえば、イチャついている……と言う表現になるのだろうか?
「なんか……ムカつく……」
そんな魔物を見て、アイシャが呟いた。
…………。
「お前が言うのか……?」
「何ですか?」
「いや、何でもない」




