(88)双子の復讐者
翌朝。軽食を摂って、さっそく指定座標へ向かう。
「すごい、一気に何もなくなったわね」
「栄えてるのは街の方だけみたいだな」
観光が盛んな街並みから一時間ほど歩いた場所。
人の手は加えられておらず、ただの荒れ地だ。
岩が大きな凹凸を作っていたり
小さな水たまりがあったりと、戦うには足場が悪い。
「転びそうだね」
「わかる」
「安心して。転んでケガしても、すぐ治してあげるから」
「「転ばないよう、善処します」」
——文でハモる奇跡はさておき。
「そろそろですね」
「ええ。もう間もなく指定時刻です」
——エリナさんが時計を確認して数秒後。
——「予言」の時刻だ。
何度経験しても慣れない圧迫感。轟音。
それに加え、今回は二か所でそれが起こっている。
「おいおい、冗談だろ……?」
一つの歪みから数メートル離れたところに、もう一つ歪みが現れた。
言うまでもなく、魔物も二匹。
……これは厄介そうだ。
「二匹とも、ヒトにとても近いですね」
「男女のペアに見えますね」
——魔物に性別があるのかは不明だが、体のつくりで言えば男性と女性、一体ずつだ。
男性に見える方は黒い体に、赤い模様がついている。
一方、女性の方は桃色で、紫の模様がある。
「来るぞ!」
こちらに気づいた魔物は、甲高い叫び声で威嚇。
十メートル以上離れているが、それでも鼓膜が心配になるほどの声量だ。
思わず、両耳を手でふさぐ。
《ヒキョ……ウモノノ……ニン……ゲンダ……》
《コロ……ス……フク……シュウス……ル……》
「なんだって?」
「卑怯者の人間だ。殺す。復讐する。確かにそう言いましたね……」
「卑怯者だって?」
「人間が何したって言うの?」
魔物は、人間を「卑怯者」と認識しているのか……?
俺たちからすれば、いきなり現れて暴れている
魔物の方が卑怯者だし、さらに言えば迷惑者なのだが……。
なんてことを言っている間に、敵はすかっり臨戦態勢に。
少し遅れて俺たちも剣を構えた。
まず攻撃を仕掛けてきたのは男型だ。
腕の先を剣に変化させて武器としている。
二本足で人間と同じように助走をつけ、変異した腕で俺に斬りかかってきた。
——今っ!
それを剣で受け止め、能力を用いて弾く。
だが——
「こ、こいつっ!」
確かに力を押し返した。
だが黒い魔物は反射に耐え、むしろ押し込んでくる。
激しいつばぜり合いになる。
——マズいな……。
能力が効かない以上、このままでは押しきられる。
相手の剣を右に受け流し、左に回り込む。
勢いそのまま、斬り下がった。
剣先がわずかに魔物に触れたが
相手は俺の攻撃を察知して後方に回避。
だけどそっちにはリーフさんがいる。
「後ろだ!」
振り上げられた剣は全力をもって魔物へ。
しかし、魔物はそれが分かっていたかのように回避。
リーフさんの剣は地面に。
お姉ちゃんたちは桃色の方と交戦中だ。
黒は俺とリーフさんでやるしかない。
リーフさんが剣を抜く隙を、魔物は見逃さなかった。
「させるか!」
ギリギリで追いつき、魔物の右足を刺して転倒させた。
「悪い」
「いえ。それよりも、今のうちにコイツを!」
「ああ」
俺の剣で魔物は固定されている。地面が柔らかい部分でよかった。
リーフさんが剣を構え、攻撃に移った。
「くらえっ!」
剣は魔物の胸を貫き、また柔らかい地面に刺さる。
しかし、コアの破壊には至っていない。
胸から剣が抜けると、魔物は手足をじたばたさせた。
「こいつ、暴れんな!」
拘束された足を激しく動かす。
——まさか自分の足を犠牲にっ!
数秒経つと、足がちぎれた。
そのまま這うように逃げられてしまった。
「まずい、このまま行かれると乱戦になるぞ」
「止めないと……っ!」
這っているだけの魔物に追いつくのは容易だ。
「さあ追いついたぞ。大人しく——」
——瞬間。
急速に足を再生させた魔物が立ち上がり、腕を振り回した。
「ぐ……っ‼」
防御はしたが、能力も間に合わず
腕に大した力も籠っておらず。
剣が飛ばされてしまった。
「ユウ、下がれ‼」
「すみません!」
俺が剣を拾いに右方向へ退避すると
その直後、リーフさんが突進した。
「うおお‼」
急な出来事に、魔物はそれを必死に防御。
リーフさんの攻撃で生まれた隙は、剣を拾い上げるには十分だった。
——後ろから!
魔物の正面から仕掛けられたリーフさんの攻撃。
それを防いでいる魔物の背後から剣撃を一つ、また一つと浴びせる。
「コアだ‼ 喉元に出たぞ!」
「任せてください!」
背後から、コアが出たという喉元を貫く。
ガラスが割れたような音が鳴り、魔物の身体から力が抜けていった。
違和感を覚えつつも、一息ついた。




