(87)自戒の精神でもって
浜に出ると、結構人が多い。
どうせ帰れならもう一日遊んでやろうという人たちだろう。
「ユウ~、早く早く~」
「はいはい、少々お待ち」
ズボンの裾を捲り、靴下は脱いでポケットへ。
黒に近い紺のシャツを選んだ自分を殴ってやりたい。
それくらいの気温だ。準備を終え、急かすアイシャの方へ。
「ユウ」
「ん?」
「今からいいもの見せてあげる」
「いいもの?」
「そう。よく見ておいてよね」
そう言うと、アイシャは突然服を脱ぎだして——
「アイシャ⁈」
「見て見て、水着!」
じゃーん、と見せびらかしてきたのは、虹色を淡く
大人しくした感じの柄をしたビキニタイプの水着。
そんな彼女の姿と、日光を反射する桃色の髪飾りが眩しい。
「お、かわいいじゃん。買ってきたの?」
「かわい……ま、まあ、知ってるけどね」
なんだってそこでちょっと照れるんだ。普段は自分で言うくせに。
「買い物に行った先で、お姉ちゃんとエリナさんが選んでくれたの」
説明しながら、脱いだ服を手持ちの袋にしまった。
「さ、ユウ」
「お、競泳か? 負けんぞ」
「違うよ」
何やら袋の中身を漁って、瓶を取り出したアイシャ。
「それは?」
「わかるでしょ?」
……もしや
「オイルよ」
やっぱりな。
「……」
「塗って?」
やっぱりな。
「はい、お願いしまーす」
まだ何も言っていないのに、
俺にその瓶を押し付けてうつぶせに。
まあ、良いけど。
「じゃ、塗るよ」
「うん」
手にオイルを出して広げ、それをアイシャの背中へ。
……エリナさんの背中を流した時とはまた違った緊張感。
流石のアイシャも、人が多いこの場では
「いかがわしい声を出す」などの行動は慎んでいる。
背中は塗り終わった。が、「脚も塗れ」と言い出した。
指示——否、命令に従っていると、背後から女性が二人。
「お、やってるわね~」
「オイル塗り……。定番のイベントですね」
振り返ると、お姉ちゃんとエリナさんが居た。水着姿で。
お姉ちゃんはワンショルダーの水着で、色は黒。
そういえば年上のお姉さんだったなと思い出させる。
サングラスが大人っぽい。
エリナさんは、アイシャと同じく一般的なビキニタイプだが
デザインは濃い紫の背景に花柄。いや、花柄似合い過ぎでは。
「似合ってますね、二人とも」
「そう?」
「ありがとうございます、ご主人様」
「ところで、リーフは?」
「リーフさんなら、集落を散歩してます」
「ああ……。こういうところ好きじゃなさそうだしね」
「確かに」
オイルを塗る手は、脚から腰に近付くにつれて遠慮がちに。
それを左右で計二回繰り返す。
「ほれ、アイシャ。塗り終わったぞ」
「まだ——」
「それは自分で塗ってくれ……」
「ちぇー」
アイシャが何を言い出すか。
その予想は大体ついていたのでカット。
「そんで、何して遊ぶんだい?」
「せっかくだし、四人でパス回しでもしません?」
「いいわね。落としたら罰ゲームで」
「罰ゲーム⁈」
「そうですね。罰ゲームは大事です」
「エリナさんまで……」
「じゃ、決まり」
さっきの袋から、空気を入れるタイプのボールを取り出した。
何でも入ってるな、それ。
「じゃあちょっと広い場所を探しますか」
「あ、待って、ユウ」
「その前にお願いが」
……えっ、もしかして
「私とエリナちゃんにもオイル頼むわよ」
「お願いします」
——ああ、そう来たか。
日が陰ってきた。あまり長いこと遊んでいると明日に響く。
明るいうちに戻ることにした。四人分の荷物を持ちながら。
「いや~楽しかったわね、ユウ」
「また何もないときに来たいね、ユウ」
「のんびりと散策もしてみたいですね、ご主人様」
「ええ……。そうですね……」
なぜか集中砲火を浴び、俺が罰ゲーム「荷物持ち」をすることに。
内容が普通過ぎるだろ。
ああいや、それが普通なんですけど。
このメンツから、普通の罰ゲームが提案されるとは。
「はい、ご苦労様。」
「すみません、持っていただいて」
「いえ、罰ゲームですからね」
お姉ちゃんとエリナさんに荷物を返す。正直楽しかった。
明日さえなければ、もっと純粋に楽しめたんだろうけど。
掌に残った感触を気にしながら、俺も自室に戻った。
——アイシャと共に。




