(86)束の間の観光
そんな地獄のようで至福のような時間は終わり、インゼル島へ到着した。
装備などの荷物は、一時保管所へ。
さて、ここ、インゼル島は、普段は観光地だが
今日は例の作戦のために閉鎖されている。
それは無論、帰りたいのに帰れない人たちを生み出しているわけだが。
「意外に早く着いたわね」
昼とも夕方とも言えない、そんな中間の時間帯。
「だな。これからどうすんだ?」
「そうね……。まずは宿が必要よね」
「今から五部屋も——」
「四部屋も空いてますかね?」
「えっ」
「ユウ? 何か言った?」
「いや、何でもない」
結局、一人で住むには部屋が広い、なんていうのは関係ないらしい。
「四部屋ね。ちょっとそこらの宿をあたってみましょうか」
——浜辺から最も近い宿、オーシャンビュー。
安直すぎるネーミングに心の中でツッコみを入れながら
お姉ちゃんやリーフさんに続いてフロントへ。
「すみません。今日、四部屋空いてませんか?」
「確認いたします」
受付の人が帳面をペラペラとめくる。
やがてお姉ちゃんの方に向き直って言った。
「申し訳ございません。本日は三部屋しかご用意できません」
「三部屋ですか……う~ん……。」
「私はお姉……先輩と相部屋でも大丈夫ですよ。先輩がよろしければ、ですけど」
「そう? 大歓迎よ。じゃあ、すみません。三部屋お願いできますか?」
「かしこまりました。ただ今ご用意致しますので、少々お待ちください」
「ありがとうございます。」
しばらく待って案内されたのは、混んでいる割には上等な部屋だった。
窓からは海が一望できる。まさに「オーシャンビュー」だ。
「うわ、すげえ景色」
「すっごい綺麗!」
どうやらテンションが上がっている様子のアイシャ。
その無邪気な様子を見ると安心する。
荷物も搬入し、一息ついたころ。
「ん?」
扉をノックする音が聞こえた。
「エリナです。奥様はいらっしゃいますか?」
「はーい」
上がったテンションのまま応答するアイシャ。
扉から廊下に出て、二人は何かを話している。
……。
一分ほどだろうか。
アイシャは部屋に戻ってきて、何やら嬉しそうにしている。
「ユウ。ちょっと今から買い物行ってくるね?お姉ちゃんとエリナさんと私で」
「おう、行ってらっしゃい」
「寂しくない? 大丈夫? お留守番できる?」
「出来るわ! あれ、ご飯とかどうする?」
「うーん、時間が時間だし三人で食べてきちゃおうかな?」
「そっか。じゃあ、リーフさん誘ってなんか食べとくわ」
「あーん出来ないね」
「したことないじゃん……。」
「する?」
「……今度な」
——するんかい。
リーフさんと近くの店に入って食事をした。
メーア海で採れた魚は絶品だった。
リーフさんは散歩に出るというので、店の前で別れ
俺は部屋に戻ってアイシャの帰りを待つ。
「刃こぼれ無し。錆も……大丈夫か」
剣の手入れをしていると、廊下から
複数人の女性の声が聞こえてきた。
どうやら帰ってきたみたいだ。
「たっだいまー‼」
「おかえりー。早かったね?」
「ユウ!」
「ん?」
「その服、汚れても平気なやつ?」
「これ?」
俺はアイシャほどしっかりとした服を着てきたわけじゃない。
「うん。平気だけど……なんで?」
「じゃあ行くよ。ほら、立って立って」
「ちょっ、行くって、どこに?」
アイシャに腕を引かれながらついて行く。
「決まってるでしょ、浜辺よ、浜辺」
「なるほど」
——遊びの誘いだったか。
アイシャは昔から変わったんだか、変わってないんだか、全然分からないな。




