(85)せんじょう
「おまたせ~」
着替えを済ませた俺は甲板で待機し、アイシャと合流。
「おや、珍しくちゃんとした服」
「一応、外だからね」
「そのスカート、気に入ってるな」
クリスたちと会った日も穿いていた、あのスカート。
「うん」
「よかった」
気に入ってくれるのは嬉しいけど……
「あれ、何で視線泳いでるの?」
「いや、そんなことはございませんよ」
「もしかして」
「ん?」
「自分でプレゼントしておいて照れちゃってるの?」
「そそそっそんなまさか‼ はははははっ‼」
「ふーん」
そう言うとアイシャは、小悪魔のような笑みを浮かべながら
柵に背中を預ける俺に正面からしがみついてきた。
「ア、アイシャさん⁈」
悪魔は、気が気でない俺にさらなる追い打ちをかける。
「ねえ、ユウ……」
「はい!」
さらに密着して——
「今なら誰も見てない、よね?」
「ちょっ‼」
こら、脚をもぞもぞ動かさないでくれ……っ‼
……。
…………。
………………。
「な~んてね」
「……」
「期待した?」
「さ、さあな……」
「今はまだ……お預けっ」
——なんて事をウィンクしながら言う少女。
堪えるこっちの身にもなってくれ……。
船の旅は、そろそろ一時間を迎える。
さっきまで甲板で駄弁っていた俺とアイシャは、客席に座っている。
それは主に俺のせいなのだが……。
「ちょっと、大丈夫?」
「あ~分からん……」
必死に遠くを眺める。
「船、苦手だったんだね」
「そうみたい。俺も初めて知った」
俺は、船酔いでダウンしていた。
吐きそうとかではないが、目が回って立っているのがつらかった。
「……横になる?」
「そうだな、そうしよう……」
椅子の肘掛けを枕にしようと、右に倒れる。
「ぐえっ。何を——」
「枕なら、ここにあるよ」
左に引かれ、俺の頭はアイシャの方へ。
襟を掴んでまで止めなくても良かったんじゃないですか?
「何気に初めてだよね、膝枕」
「そうだっけ」
「うん。どう?」
——どう? って何……?
「えっと、寝心地がいい。程よい高さ」
「高さなの……?」
ちょうどその時、お姉ちゃんが近くを通った。
「あら~お盛んだこと」
「違っ、これはアイシャが——」
「ユウが船酔いしちゃって。枕が欲しいって言うので」
「そう」
「ちょっ——」
「あっと、お楽しみのところ邪魔してごめんね。もうすぐ着くけど、それまでは何してても構わないから。じゃあね~」
「待ってください‼」
間違いなく聞こえているだろうが
お姉ちゃんはわざとらしい早足で去っていった。
「意外だね」
「……確かに」
お姉ちゃんのことだから、てっきり
「お姉ちゃんも膝枕してあげようか?」
なんて言ってくると思って……いやいや、何を考えているんだ俺は。
いくらお姉ちゃんでも、あの人は上官だ。
そんなことを言ってくるような人……だったわ……。
あの人のこれまでの言動がフラッシュバックした。




