(81)奪われた花
「ってことがあってさ」
「ええ、なんだそれ……」
「普通に引くんだけど」
昼休み。食堂でクリスとミラに会った。
アイシャがお手洗いに行った後、彼女が浮かない表情をしていることに
気づいたミラに聞かれ、今朝の出来事を話した。
「やらせろよ、ってのがやばいな」
「ああ。いくらアイシャの気が強いとはいえ、さすがに、な」
「女の子だもん。怖いよね」
——と、三人で話しているところまでは良かったんだが。
「てか、さすがにアイシャ遅くない?」
「そうだな……もう二十分くらいになるな……」
「……心配だな」
「私、ちょっと様子見てくるよ」
「頼むよ、ミラ」
——ミラがアイシャと同じお手洗いに駆け出した。
「大丈夫かな……」
「……」
——時間とともに不安は大きくなる。
——食堂内の騒音が聞こえないほどに。
——アイシャ……。
「ユウ! た、大変‼」
「ミラ! アイシャは⁈」
「アイシャの姿が見えないの!」
「なに⁈」
「これ、アイシャのだよね?」
そう言うミラの手にあったのは、桃色の髪飾りだった。
何も言わずに受け取る。
「あとこれも! ユウへの脅迫状か何か」
「脅迫状?」
お手洗いに落ちていたという紙。
それには、汚い字でこう書かれていた。
《ユウ、だっけ。今朝はよくも俺をコケにしてくれたな。これを読み次第すぐに実習棟の裏に来い。絶対に来いよ。アイシャがどうなっても知らないぜ?俺は憎んでるんだ。お前も、アイシャも。だからアイシャの目の前でお前をいたぶってやる。アイシャが俺の女になるって誓うまでな》
「何これ、さっき言ってたやつがアイシャをさらったってこと?」
「……」
「ユウ……」
「行くの?」
「ああ」
「俺たちも行くよ」
「うん、アイシャを放っておけないよ!」
「助かるけど……それはダメだ」
「まさか一人で?」
「これは俺への脅迫だからな」
「でも!」
「そうよ、何もしないなんてできないよ!」
「二人とも……」
ありがとう。心でそう言って、俺はクリスとミラに頼みごとをした。
「二人とも、ここにいてくれ。陽が沈んでも俺が帰らなければ、ありのままを教官に伝えてほしい」
おそらく危険が待っている。
そこに二人を巻き込むわけにはいかない。
「……ああ、わかった」
「気を付けてね?」
——今まで、俺の精神がここまで
純粋な怒りに支配されたことは無かった。
——ザックとか言ったな。お前だけは……‼




