(78)生き物の行動原理
生き物には、欲というものがある。
「寝たい」とか、「食べたい」とか。
そう言う、生物が生きるために持ち合わせる、あまり我慢すべきではない欲。
対して、「奪いたい」とか、「殺したい」とか
お世辞にも善とは言えない、抑えた方がいい欲。
そんな欲を叶えるか抑えるかの選択を
我々は生きる中で絶えずし続けている。
前者の欲に対して「あまり我慢すべきではない」といったが
それはあくまで生きるためであって、それらの欲に忠実すぎるのも良くない。
それは過去のオレが証明している。
どうしても、自分を追い込みすぎない程度の自粛は必要になってくる。
後者に関しては言うまでもない。
奪ってはいけないし、殺してはいけない。道徳的にも、法的にもだ。
だが、そうと分かっていても。
欲が増大し、自制する力を上回ってしまったとき、人は罪を犯す。
奪う。
脅す。
殺す。
攫う。
——何年か前、そうなった人間が起こしたことに巻き込まれた経験がある。
騎士校に入って暫く経った、もうじき冬を迎えようという時期。
俺とアイシャはその成績から、大げさなうわさで語られている。
それともう一つ。
「おしどり夫婦」なんて言われ方もされている。
嫌というわけじゃないが、俺たちは未だ「幼馴染」を続けている……つもりだ。
「ふあ~眠い」
俺の右側を歩きながら、大あくびをするアイシャ。
右手で口元を隠している。成長したな。
「まだ昼休みだぞ、耐えろ耐えろ」
午前中の講義を凌いだ俺たちは、昼食をとるために食堂へ向かっている。
騎士校の校舎は古い木造で、今歩いている廊下も、いちいち軋む音がする。
薄汚れたガラスから差し込む光は、アイシャが着けた桃色の髪飾りを光らせる。
「ユウがおんぶしてくれたら寝れるのに」
「こんな所でできるかい」
「えー」
「ほれ、もうすぐ着くぞ」
着く、といっても校舎を一つまたぐだけ。
この立地は悪意を感じざるを得ない。
匂いテロがすさまじいからだ。
講義中でもお構いなしに食欲を刺激してくる。
食堂舎の扉を開くと、すでにたくさんの人でごった返している。
「席は……ちょっとのん気すぎたか」
ここの席取りはまさに戦争だ。
近い教室で講義があった人間に軍配が上がるのは言うまでもない。
「こりゃ今日も外行きだな」
「そうでもなさそうだよ」
「ん?」
混雑した食堂の奥の方に手を振るアイシャ。
その方向をよく見ると、友人のクリスとミラが席について食事をしていた。
人ごみをかき分けて二人のいるところへ向かった。
「よう、おしどり夫婦。」
「おう、助かったぜおしどり夫婦」
「「誰が夫婦だ‼」」
「お似合いだと思うけどな」
「クリスと夫婦なんて嫌よ。それならユウとがいい!」
「お、おう」
「そうそう。ミラと夫婦になったらDV祭りだぜ」
「あんたが悪いんでしょ?」
「……この調子さ。俺はアイシャとがいいなあ」
「やだ」
「冗談だよ、傷つくな……」
クリスたちのおかげで席は確保できた。
次に待つ地獄は、食券を買う長蛇の列に参加すること。
この調子だと二十分はかかりそうだな……。




