(76)メイドの務め
拍動が激しくなるのが分かった。
「——俺の、祖父なんです」
「おじい様、ですか……」
……ブルーダーさんが亡くなった後、
俺の訓練に付き合ってくれたのは祖父だった。
競技剣術の経験があった祖父は、
ブルーダーさんほどではないにしろ
激しい剣の修行をしてくれた。
墓参りに付き合わせてしまった、という自責の念があったのかもしれないと思っていた。
「……おじい様は、ご実家にいらっしゃるのですか?」
「……去年、実家から騎士校の寮に連絡がありました。……亡くなった、と。それも、信じられない理由の一つです。でも——」
……もう、これしか考えられないんだ。
——俺とアイシャに放たれた「強くなったな」という言葉。
——つまり、過去の俺とアイシャを知っている人物。
——それでいて、アイシャは知らず、俺だけが知っている太刀筋の持ち主。
——結論付けるに足る、数々の根拠。
「でも、これだけ辻褄が……っ⁈ エ、エリナさん……?」
怒りか、悲しみか。
感情が高ぶり始めていた俺を、エリナさんはそっと抱擁した。
さっきとは別の理由で心臓が激しく動く。
そんな俺をよそに、エリナさんはそのまま続けた。
「申し訳ございません」
「……」
——迷っていた。
——認めたくない心と、認めざるを得ない状態。
——導かれた結論。間違っていてほしいと思う心。
——そんな自己矛盾を……
「ご主人様」
「……」
「ご主人様が抱えていらっしゃる現実と心の矛盾は、私も痛いほど理解できます」
「エリナさん……」
「私も、そうでしたから。ですが、ご主人様」
——両手を俺の両肩に乗せて続けた。
「ご自身の心は?そう私に聞いてくださったのは、ご主人様ではないですか」
……っ‼
「俺の、心……」
——結論
——現実
——願望
——ためらい
——それらを超えた先にある、俺の本心。
「俺は……向き合いたい……です」
昼間は、逃げてしまった。
「あのフード男と、もう一度話したい」
奴と話すことを、拒んでしまった。
「あいつが……じいちゃんだろうと、そうでなかろうと……っ‼」
直接確かめてやりたい。
もし結論が正しいなら、目的を聞きたい。
そして何より——
「何より、俺はじいちゃんが死んだとき、傍にいなかったんです。だから……話をしたいです……。騎士ではなく、ただの孫として……」
「それが、ご主人様の本心ですか」
「はい」
「……そのようですね。ずいぶんスッキリした表情をされています」
「かなり気が晴れましたよ。その……ありがとうございます」
「いいえ。ご主人様の心のケアも、メイドの務めですから」
——改めて、すごい人だと感じた。
お姉ちゃんの「気を付けてね」という言葉の意味を
完全に理解したのも同時だったが……。
とにかく、ただの「ヤバい」人ではないのだ、と。




