(73)見知った太刀筋
こうなったら戦うしかあるまい。
四人とも剣を構え、男の方を注視している。
「リーフ」
男がリーフさんの名前を呼び、次の瞬間には鍔迫り合いになっていた。
「ぐうっ‼」
——リーフさんが力で押されている……?
「リーフ。君のパワーはなかなかのものだ。だが、パワーに頼りきっていては——」
「なに⁈
男は、圧倒的なスピードでリーフさんの後ろに回り——
「——スピードで負けてしまう‼」
——体格の大きいリーフさんを軽々と蹴り飛ばした。
「ルナ」
今度はお姉ちゃんの名前が呼ばれた。
「君は体の柔らかさを使った柔軟な攻撃が特徴だな。しかし——」
男の剣が大きく振り下ろされ、お姉ちゃんは回避が間に合わずガード状態だ。
助けに入ろうとするも、相手にはまるで隙が見られない。
「——力が弱く、押されればその優位性を失う」
そのまま押し切られ、防御が限界を迎えて地面に転がされてしまった。
二人を倒したそいつは、今度は俺たちの方に向いた。
「アイシャ」
超速の剣撃。しかしアイシャはそれを剣ではじいた。
「負けないよ!」
それどころか、むしろ男を押しているように見える。
男の防戦一方になりつつあるが、これに参戦するのは彼女の邪魔になる。
またしても俺は見ていることしかできない。
「君の力は素晴らしい。パワー、スピード、反射神経。どれをとっても一級だ」
押されながらも、男はアイシャの戦闘を分析している。
「何がっ!」
男はアイシャの攻撃をギリギリで回避し、反撃を企てる。
しかしアイシャもそれを理解し、持ち前の反射神経でかわしながら
さらに追撃を仕掛けている。だが男も……といったように、戦況は均衡している。
要するに、互角だ。少し足がすくんだ。
アイシャと対等に渡り合う人間を見た経験が少ないからだ。
「だが——」
「……なっ⁈」
いつの瞬間からか、今度はアイシャが押され始めてしまう。
「——持久戦には不向きだっ‼」
「くっ……‼」
剣が飛ばされる。
「はぁ……はぁ……」
剣を拾わねば戦えなくなったアイシャ。
スタミナの限界か、膝から崩れ落ちてしまった。
「アイシャ!」
「ユウ。お前は——」
——左……?
反射的に右に回避。
正直に言う。
今の攻撃は、俺には見えていない。
だがなぜか、左側を狙ってくると分かった。
——このまま攻撃を……
——いや、斜めに来るっ……‼
俺の左側をかすめた剣が、今度はそのまま方向転換して胴体に向かってくる。
またしても俺は——
——怯め!
向かってきた剣を、能力ではじく。
相手は大きくバランスを崩した。
——今度こそ反撃を……
——違う、屈むんだ……っ‼
はじかれた剣。勢いそのまま、男は脚を軸に体を回転させて攻撃に転じた。
今度もそれをなんとか回避。
——今!
急には止まれまい、と。
すかさず男の身体めがけて剣を振った。
「ぐうっ‼」
クリーンヒットとまではいかなかったが、敵にダメージを与えることに成功した。
落ち着いて周りを見ると、三人とも体勢を立て直している。
「ユウ。お前の力も素晴らしい。アイシャに次ぐほどのものだ。だが私では、お前の真の力を測ることは出来ない」
「それは……どういう……」
荒れた呼吸を整えつつ、相手の動きを探る。
「お前は——」
腕に力をこめる。
「——私の剣を知っている」
「……は?」
「まあいい。君たちの力は把握した」
「要件は済んだかしら?」
「ああ。心配はなさそうだ」
「わかったらさっさと元の場所に……」
「そう急くな」
男は再び俺の方——
いや、その視野にはアイシャも含まれていそうだ
——を向いた。
「まだ戦う気? 今度は……」
「いいや」
——奴は剣を収め
「二人とも、強くなったな」
——そのまま姿を消した。
再び眩暈がし、次の瞬間には元の場所に戻っていた。
しかし、そこに男の姿は無い。
「また逃げられちまったか」
「ええ。あいつにはまだ訊きたいことがあったのに」
「……にしても」
「そうね。もしかして、あんたたちの知り合い? 確かに最後、強くなったなって言ったわよね?」
「……わかりません。あんな知り合い居たかな……」
「俺も心当たりは……」
……無い。
尾行されて時に初めて見、今日初めて声を聞いた。
そのはずだ。だが何故か、あいつを知っているような……。
いや、考えるのはやめよう。
答えを知ることを、心が拒んでいた。
「……そう。とりあえず屋敷に帰りましょうか」
「だな」
再び馬車に乗り込み、今度こそ屋敷に帰る。
今日はとても疲れた。




