(68)聞き慣れない喧騒
……朝だ。
見慣れた天井。聞き慣れた鳥の声。
だが、一階から聞こえてくる揉め事の気配とは初めましてだ。
「おは……。何事?」
居間へ行くと、外出の準備をしている祖父を、両親が引き留めていた。
「ユウ。お前も引き留めてくれ。親父、先祖代々のお墓に行くって言ってきかないんだ」
「お墓って……ああ、あの山の中にある?」
ストロングホールドから西に行ったところに山がある。
その山には霊園があり、先祖代々の墓が建てられている。
しかし、その山では近年、魔物の目撃が相次いでおり
非常に危険なエリアになってしまっている。
「お義父さん、どうか思いとどまってください」
「いや、止めないでくれ。もう何年も行ってなくて申し訳が立たん」
「だけど親父、あそこには魔物がたくさん居やがるんだぞ?」
「そうですよ。危険です」
「だが——」
……聞く限り、永久に収束しなさそうな言い合い。
喧嘩されても面倒だと思い、俺からある提案をした。
「——じゃあ、俺とアイシャが同行する。それなら大丈夫でしょ?」
あれから約五年。
俺たちは騎士になると心に誓い、ある程度の力をつけてきた。
件の山に出るというサル型魔物くらいであれば、なんてことはない。
「ユウとアイシャちゃんが来てくれるなら心配はないだろう?」
「けど二人はまだ……」
……騎士になったわけじゃない。
あくまで修行中の身だ。騎士校に入れるのは十六歳になる年からだ。
「……はぁ、仕方ない」
「あなた、行かせる気なの?」
「たしかにユウとアイシャが居れば心配はないだろ」
「でも!」
「わかってる」
母さんを落ち着かせ、父さんは俺の方を向いて言った。
「ユウ。お前たちの腕前は信頼してる。それに、親父も多少は剣の心得があるしな。けどな、父さんも母さんも、親としては心配で仕方ないんだ。だから、ブルーダーさんにも同行してもらう」
ブルーダーさんはストロングホールド所属の騎士で
俺やアイシャに剣を教えてくれている人だ。
公園にいる野蛮な奴らとは違って、とても信頼できる人だ。
俺たちは兄のように慕っている。
「いいな? 親父。ユウも」
「ああ」
「うん、わかった」
「お前も」
「……ええ」
母さんも渋々納得し、俺、アイシャ、祖父、ブルーダーさんの四人で
霊園のある山に行くことに。その事を頼みに行くと、二人は快く引き受けてくれた。
ブルーダーさんに馬車を出してもらい、霊園に向けて走る。
「付き合わせてしまってしまって申し訳ないね、ブルーダーさん」
「いえ、お気になさらず。お墓参りでしたっけ?家系を大切にされているんですね」
「年を取ると、そういう事を重んじたくなるんですよ。昔の人に感謝なんて、私も若いころは考えてませんでした」
馭者をしながら、ブルーダーさんと祖父が世間話をしている。
一方で、座席車に乗り込んだ俺とアイシャはあまり会話が弾んでいない。
「悪いね、アイシャまで付き合わせちゃって」
「ううん。貴重な実戦の機会だし。それに……」
「それに?」
「二人でお出かけするのも久しぶりだし」
そう、小声でささやく。
「保護者同伴で、な」
俺も小声で返す。祖父もブルーダーさんもいる中で
普段のように会話をするのは……
というためらいがあり、なんだかぎこちなくなってしまう。
「ところでさ」
「ん?」
出発から数時間。
今になって疑問に感じるのは遅すぎるのだが、どうしても訊きたいことがあった。
「四人乗りの座席車で、何で隣?」
「ダメ……?」
俺の左腕に抱き着きながら言う。コアラのよう。
「いや、いいけど……」
「じゃあ問題なし」
……最近、アイシャはこういった行動をするようになった。
男勝りなところはめっきり見えなくなり……
その……なんだ……女の子らしさが目立つように。
嫌ってわけじゃない。
ただその……ねぇ?
俺も一応男性なもんですから。




