表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【七話】怠惰と変動。
60/269

(60)言うも行うもせず

「私はこれ」


 決めておいた集合地点に、各自選んだ本をもって再集合した。

二人がどんな本を選ぶのか、まったく予想がつかない。


意外と楽しい企画かもしれない。


 アイシャが選んだのは、報われない姫と立ち直れない王子の物語。

そういうチョイスは女の子。そう言えば女子でしたね……。


 オレが持って行ったのは、戦争時に敵軍に送られたスパイの小説。

タイトルとあらすじがなぜか妙にオレの気を引いた。


今が戦時中だという事実を、日常で実感することがほとんどないストロングホールド。


そこで暮らすオレをはじめとした住人にとって

マモノなんて言う作り話みたいな敵と

自分自身がそれである人間との戦争は刺激的な非日常だ。


そうした背景があって、戦争という近くて遠いワードに

ワクワクしたのかもしれない。


そして——


「私はね、前に教会で聞かせてもらったお猿さんのお話。あれの絵本があったから」

「ああ、あの話か。うっすら覚えてる」

「そんなのあったっけ?」

「シスターさんが話してくれたでしょ……?」

「そうだっけ」


この娘は……。


とは言え、オレもよく分かっていない。

確か三匹のサルが出逢って喧嘩別れ……みたいな感じだったか。

アレが何を意味するのか、オレにはまだわからない。


まあたいていの絵本も内容は子供にはよくわからない。


大人になったら分かるのだろうか……。



 結局、図書館だけで一日をつぶすことはできなかった。

アイシャが「飽きた」とわめくので、近くの商店街へ。

ここは活気があって、いるだけでテンションが上がる場所だ。


 オレたちは、なけなしのお小遣いから出し合ってフライドポテトを購入。

休憩スペースで雑談しながら完食。

今日気づいたが、どうやらアイシャはこの手の食べ物が好きなようだ。


 夕方。帰路に就いたオレたちは、いつものようにくだらない話で盛り上がる。

道中、ふとサラの顔を見て違和感に気づく。


「サラ?」

「……ん、どうしたの?」

「いや、その……なんか元気なさそうだったからさ」

「大丈夫?」

「アイシャが連れまわすから疲れちゃったんじゃねえの?」


元気がなさそう。自分でそう言ったのだが、少し違う気がする。

浮かない表情であることは確か。

けれど、元気がないというよりは、寂しげというか……。


「ううん、大丈夫。でもたしかに、ちょっと疲れちゃったのかも」

「ごめんね、明日学校なのに。ゆっくり休んでね?」

「うん。心配してくれてありがとう」


サラは優しく、無理をしがちなところがある。

ちょっとくらい体調が悪くてもそんなそぶりを見せず

アイシャの誘いに応えてしまう。


これを機にアイシャには反省してもらわねば。


「今日はもう解散するか」

「うん」

「そうだね」


体調が悪いというわけではなさそうだった。

ただ疲れているだけ。アイシャが毎日毎日呼び出すから。

サラは熱心な勉強家で、きっと今朝も早起きして勉強していたんだろう。


寝ていただけのオレとは違って、疲れるのも無理はない。

その点で、アイシャは何者なんだ、という話になるが……。

まあ、彼女には男にも勝るガッツがある。

気性は荒いし、殴るときはグーだ。

サラにだけ優しい態度をとるのは解せないが。


 とにかく俺は、サラの異変を単なる疲労だと決めつけて

深く考えることもせずに、いつものように別れの挨拶を口にした。


「んじゃ、また明日」

「うん、また明日」


オレ、アイシャに続いてサラも返事をした。


「……バイバイ」


何だか不思議な感覚になりながらも、オレは家へ向かった。

さっきまで明るく輝いていた太陽はすっかり顔を隠し

世界は暗闇に支配されようとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ