(6)現実逃避の星空
うちに帰ると、母が夕飯を食卓に並べていた。食器は二人分だった。
やはり父の分は用意されていない。なぜかボクは激しく緊張していた。
それでも、答えを知りたかったボクは訊いてみることにした。
「お母さん」
「どうしたの?」
「あ、あの、お父さんは?」
どうしてこんなに拍動が激しいのか。
答えは分かりきっているのに。
「ユーリ」
「?」
お父さんは居る。
そう理解しているはずなのに、なんで——
「前にも言ったでしょ、お父さんはユーリが産まれる前に亡くなったのよ。」
「え?」
母の答えは、残念ながら緊張の理由を示していた。
父は、居ない。
ボクが産まれる前にはもう……。
でも本当にそうか……?
父は居た。
ボクも会っている。
思い出がそう主張する。
きちんと記憶に残っている。
最近の父は、あまり好きではなかった。
一昨年くらいまでは、とても優しくて、他人に誇れるような人だった。
だけど職を失ってからは毎日のように酒に酔い、ある時は暴力も目立った。
それでも……‼
「う、嘘、だよね? だって昨日までお父さんは……」
「ユーリ……」
嘘かどうかを聞いたが、お母さんの顔は嘘を言っているような感じではない。
第一、そんな不謹慎な嘘を言うような人でないことは息子のボクだからよく分かっている。
「じゃ、じゃあ」
そうだ、父が存在した証拠はある。
今日リーズを乗せた自転車だ。
あれは間違いなく一昨年父がボクに買ってくれたもの。
それは揺ぎ無い事実のはずだ。
「あの自転車は? あれは一昨年、お父さんが」
「あれはクラウズお兄さんが買ってくれたでしょ?」
「そんな……」
何かが……何かが起きている。そう理解した。
父のことだけではない。
騎士のクラウズお兄さんも覚えていないバケモノの襲撃。
食い違うおばあさんの死因。
それに、昼間外にいた騎士の数からして、
亡くなったのはきっとおばあさんだけじゃない。
「うっ‼」
ふと、頭痛がした。
痛みは一瞬で消えたが、脳内に映像が流れた。
昼にもあったやつだ。
燃える街並み。
悲鳴、そして血の匂い。
肉塊に変えられていく人々。
昨晩見たはずの光景だった。
そんな映像を思い出し、吐き気がした。
無意識に口を押えた。
「ユーリ? 体調が悪いの?」
「だ、大丈夫。変なこと言ってごめんなさい」
「今日はもうお休みなさい。怖い夢でも見たのでしょ」
夢……夢か。
クラウズお兄さんも夢だと言っていた。
そうか、夢だ。
そうに違いない。
おばあさんのことも偶然だ。
あの光景はボクが見た悪夢だったんだ。
お母さんに言われた通り、
お風呂に入って寝ることにした。
食事はどうも喉を通らなそうだ。
夢だと認識しても、あの光景は頭から離れなかった。
そうだ、リーズ。
彼女のことだけを考えれば魘されずに済む。
今日は彼女と教会に行った。
すごく楽しかった。
かけがえのない時間だ。
そして別れ際……。
こうやって楽しい事で頭の中を埋め尽くした。
窓から見える星空は、彼女のことを考える
脳内を反映しているかのようだ。
そしていつも通り、ボクは眠りについた。




