(56)嫉妬の罪
頼もしいセリフを言ったエリナさん。
右手に持った剣を、切っ先が左を向くように横に持ち、掌で剣をなぞる。
すると——
「剣が……光を?」
「……能力か」
エリナさんの剣が、眩い紅の光を放つ。
「……お覚悟を」
魔物が氷の右腕でエリナさんを貫こうとする。
しかしその攻撃は、光る剣に触れただけで不可能に。
氷は融け、水になって滴る。
魔物は何が起きたか分からず、ただ自分に迫って来る
騎士を見ていることしかできなかった。
やがて補った欠損も、その鎧すら剥がされる。
裸に剥かれた魔物は、新たな環境を探しているようだ。しかし、この周辺には氷くらいしかない。だいいち、逃げようにも手足が満足に動かせるような状態ではなかった。
——エリナさんの勝ちだ
振り下ろされた輝剣は、それを防ごうと挙げられた腕をいとも簡単に斬り落とし。
俺の時にやったような噛みつきも通用せず、魔物は断末魔を上げた。
剣身が胴体にまで達すると、ガラスの割れたような音がなる。
魔物の身体は淡い光と共に、蒸発するように消えた。
帰りの馬車でエリナさんに能力の話を聞いた。
「はい。確かにあれは私の能力です」
とことん戦闘向きの能力だ。俺の能力はカウンタータイプ。
それに対してエリナさんの能力は、攻撃に全ステータスを振っている。
「なんといいますか……熱量を恣意的に扱えるんです。溜めておいて大砲のように放ったり、光線状に放ったり。または先ほどのように剣にまとわせたり」
あの紅い剣はそういう事だったのか。
「ご主人様がお気づきになった油は、熱をまとわせた際に剣を守るためなんです。経験上、油が一番良かったので。ただ——」
エリナさんの剣は融けたり刃こぼれしたりしている。
俺は剣自体を失っているのだが……。
「火をまとった魔物との戦いで、塗っていた油が消耗したようですね。能力を使ったらこの有様です」
「新調しないと、ですね」
「ええ」
翌日。お姉ちゃんとアイシャが参加した作戦の成功を祝い、急遽休日となった。
休みを利用して、色々とやることがある。
まずは剣の仕入れだ。
俺の剣は腐ってしまったし、エリナさんのものは能力による熱にやられてしまった。
指定の証明書類をもって鍛冶屋に行けば騎士団公認の剣を買うことが出来る。
そしてもう一つが、簡易的な配属式だ。
今後エリナさんが魔特班に参加するとき、正式な騎士でないと
不便なこともあるだろうと、エリナさんから申し出があったためだ。
王城の一室で行われた小さな式典。半年ちょっと前は俺とアイシャがあそこに立っていた。
「ガキが」という言葉を受けながら、俺たちは努力をして最高峰に昇りつめた。
トラ型討伐任務の時、リーフさんが有利だと言った。
ヴァイス氷山での戦闘時は、エリナさんの能力が羨ましいと感じた。
能力を羨ましく感じるのは俺だけじゃない。
俺が魔特班試験に通った時、「戦闘に使える能力があるからだ」と言われた。
確かにそれはあると思う。覚醒した能力による有利不利は存在する。
だけどそれは、あくまで騎士になってからの戦績の話だ。
魔特班試験は、能力の有利不利よりも自分自身の力が重要だ。
そのことはアイシャが証明している。能力はあくまで補佐だ。
要するに嫉妬は醜いものだ、と。
己をのし上げず——否、下で喚いているだけにすぎないとも知らずに。
努力することを諦めた人たちが、能力の存在というエサを使って文句を垂れているだけ。
そうと分かっていた故、俺もアイシャも気に留めることが無かった。
そんな愚かで醜い嫉妬の魔物に使ってやる時間は無かったんだ。
一通りのイベントを終え、帰路に就く。
新品の剣を携えながら、俺は新しい息吹を感じていた。剣のことだけじゃない。
エリナさんが加わったことによる、魔特班の新生。
そして昨日の現象で確信に変わった「予言」がもたらす新たな戦い。
日常の境目というのか、ターニングポイントというのか。
とにかく、新しい日々の嚆矢だ。
——ふと、気配を感じた気がして振り返る。
——偶然か、必然か。
そこは、例の路地だった。




