(49)思いがけない要請
今日の任務は王都の東、ヴァルム地方のさらに奥にある
グリューン森林に現れたトラ型魔物の集団の殲滅だ。
「……ふう、これで三匹」
たった今倒したトラの血を払い、周囲を見渡す。
とりあえず俺が来た方のトラはこれで全て倒したようだ。
集合指定場所に戻ると、お姉ちゃんが居た。
「おつかれさまです」
「あらユウ、おつかれさま」
「何匹くらい居ました?」
「こっちは四匹だったわ」
「俺の方は三匹でした」
「そう。なら私の勝ちね」
にっこりと、謎の笑顔のお姉ちゃん。
「ステーキ——」
「自分で買ってください‼」
なんてことを言い出すんだこの人は。
「良いわねぇアイシャは」
「え?」
「討伐数で勝ったらユウに奢ってもらえるんでしょ? ずるいな~」
「は、はぁ……」
お姉ちゃん、それはやっかみですよ。
数分してリーフさん、続いてアイシャが戻ってきた。
「全員そろったわね。まずは簡単に討伐数の報告だけお願い」
「俺は五匹だった」
瞬間移動で即座に追い詰めることが出来るのは遊撃の際にかなり有利だ。
っと、こんな事を言っては「やっかみですよ」の言葉が返ってきそうだ。
「私は四匹」
「三匹でした」
さて、最後はアイシャ。
彼女の討伐数は、俺としても気になるところだ。
財布事情的に、ね。
「私は五匹でした」
リーフさんは走るトラを遠くからでも捉えられる。
だけどアイシャは……?
「……合計一七匹、ね」
トラ型の魔物は、大抵は一匹で行動する。
しかし今回は、十匹弱の大きな群れが二つこの場所で邂逅したようだ。
これはまれな事案と言える。
サルを連れたクモといい、今回のトラの群れといい
最近になって特殊な行動が目立ってきている。
任務を終えて屋敷へ帰還。
特に変わったことは無く、いつものように夕飯と風呂を済ませた。
あとはミーティングをして明日の仕事を確認し、寝るだけ。
そのはずだが……。
「あの……、私はなぜ呼ばれたのでしょう?」
魔特班のミーティングになぜか参加しているエリナさん。
いったい何事だろう……。
「ごめんね、エリナちゃん。あとできちんと説明するから」
お姉ちゃんのそのセリフに、いつものような
悪意や悪乗りといったものは感じなかった。
この人は、真面目な意図でもってエリナさんを呼んだんだ。
「まず明日の任務について。ちょっと面倒なことになったわ」
面倒……。
ただでさえ明日は……。
「これは今日の帰り、王へ簡易報告をしに行ったときに渡された指令書よ」
そう言ってお姉ちゃんが机に置いたのは一枚の紙。
そこにはこう書かれている。
「明日、メーア海にて海洋性の魔物の討伐を目的とした作戦を実行する。船には定員があるため、魔族討伐特別作戦班は、人員を班長含む二名にしぼって派遣すること」
俺が読み上げ、お姉ちゃんは続けた。
「そう。知ってると思うけど、明日はこれもあるの」
これと言って示したのは、あの奇妙な紙きれ。
ブラウ海岸とヴァルム地方に、強力な魔物が出現することを
言い当てているように見える紙だ。
「日付は明日で時間は夕方ごろ……。場所はヴァイス氷山。王の指示と何もかもバラバラだな」
「そうなの。ね、面倒でしょ?」
「お姉ちゃんはメーア海の方に行かなきゃいけないんですもんね」
「ええ」
問題がいくつかある。
まず一つは、お姉ちゃんと誰が行くか、だ。
「……」
「指名、してもいい?」
「それでいいかと思います」
このまま沈黙が続くくらいなら、その方がいい。
「アイシャ、お願いできる?」
「私、ですか? はい、わかりました」
「だけどよ、この前みたいな魔物が出るかもしれないところに、俺とユウだけで突っ込むのはさすがに無茶だぞ?」
二つ目の問題はそれ。人員不足だ。
しかも、いざというときに回復できるお姉ちゃんは不在。
ヴァルム地方の時のように怪我をしたら戦闘は厳しくなる。
「そこで一つ、お願いがるの」
お姉ちゃんがエリナさんの方を見る。
そして――
「魔特班試験合格者のエリナちゃん、どうか、私たちに力を貸してもらえないかしら」
——と、想定外のさらに外側を突く言葉を発したのである。




