(48)醜い嫉妬の魔物
俺とアイシャが、幾度となく吐かれたセリフがある。
「ガキが」だ。
通常、騎士校を卒業して普通の騎士として何年か戦い、試験を受けて入るのが魔特班だ。
自分でこういうことを言うのは好きじゃないのだが、俺たちはそうじゃなかった。
騎士校生の時にその試験に通り、卒業と共に今の班に入った。
そんな俺たちに向けられた言葉が「ガキが」だった。
親しい人たちは皆「気にすることは無い」と言ってくれた。
だが、俺とアイシャは、最初から気にしてなどいなかった。
その言葉を発しているのが誰で、何なのかを知っていたからだ。
ただただ醜いと思った。
そんな文句を垂れる暇があるなら、その時間を
上へ上るために活用すればいいのに、と。
そうとだけ思った。
それを吐く人は、総じて試験を通れなかった人たちだ。
騎士として実践を積み、プライドがあった。
その自分は試験に通らなかったのに、騎士校生のガキ二人が合格した。
「ガキ」という、言われる側が悪者であるかのように聞こえる言葉を使い
上から罵詈雑言を浴びせるように言い放ったそれは、単なる「嫉妬」に過ぎない。
王都の屋敷に来て、もう四日目。休暇は昨日で終わり、今日からはまた魔物と戦う日々が続く。
そんな、少しばかり憂鬱な日の朝のこと。
目覚まし時計に叩き起こされ、いつものように同居人を起こす——
「あれ?」
——居ない。
アイシャが早起き……槍でも降るのだろうか?
などと呑気なことを言っている暇はない。
さっさと着替えて任務の支度をしなければ。
「アイシャ~?」
部屋の中を捜索するも、やはり彼女の姿はない。
先に食堂に行ったのかもしれない。
そんなことがあるだろうか、と半信半疑のまま向かった。
食堂に到着。どの椅子にもアイシャの姿はない。
お姉ちゃんとリーフさんはもう居るのだが……。
二人に挨拶をし、椅子に座った。なんだか不安になってきた……。
「ユウさん、おはようございます」
「おはようございます、エリナさん」
「……何かお悩みでも?」
「え、まあ……。どうしてわかったんです?」
「メイドの勘です」
そんな言葉は初めて聞いたが……。
「ユウの隣にアイシャが居ないと違和感がすごいわね……。どうしたの?」
「起きたらもう居なかったんですよ……。どうしたんだろう」
日常的に傍らにあったものが突然消えるとどうなるか。
俺はそれを知って——
「失礼いたします。旦那様、ご飯またはパンのご希望はございますか?」
「そうですね……じゃあ……っ⁈」
――そこに立って俺に質問をしていたのは
メイド服に身を包んだアイシャだった。
「びっくりした?」
「心臓とまった」
「アイシャ、メイド服似合うじゃない」
どう? と見せびらかすアイシャ。
「……似合ってるけど、突然どうした?」
「……だってユウ、メイドさん好きなんでしょ?」
「…………」
「ここにきてからメイドさんばっかり見てたし」
「……あの、暴露大会やめて」
「安心しろ、みんな知ってる」
「え」
「そうね。今更気にしなくても良いんじゃないかしら」
「え」
――これは悪夢か?
「だから、ユウをメイドさんから取り返す作戦よ」
「そんなに見てた?」
「うん。もうね、ガン見」
——ガン見、とまでは言わない(言いたくない)が
思い返してみれば確かに結構見ていた気がする。
「大変申し訳ございませんでした」
「いいよ」
「優しい」
そういえば昔、あいつと二人で話しているとよく引き剥がされたっけ。
意外なのかどうかは良いとして、アイシャにはそういう面がある。
……反省。




