(38)未来を予め知る
未来予知。これから先の出来事を予め知ること。
そんな事が出来ればな……と。
二十年弱の人生においても幾度となく経験した後悔にも似た想い。
だが同時に、未来の事を知った時、どうするべきなのかという問いもあった。
その結果を導くために行動するのが正しいのか、導かれるがままが良いのか。
能力者がその結果を知っているという前提のまま進んで実現するのか
行動によってはそれが覆るのか。疑問を挙げればキリがない。
予知が出来れば……とは言ったものの
出来たら出来たで苦痛じゃないかと思う。
嫌な未来が見えたら憂鬱だし、悪くない未来だったとしても
それを迎えた時の喜びや、それに至るまでの期待感や高揚感も無い。
知っているのだから。
だが勿論、悪い事ばかりではない。
事前に知りたいことだって山ほどある。
その大半は悪い出来事だろうけど、知っていれば
さらに悪い結果を見る前に対処が出来る……かもしれない。
いつどこに、どんな魔物が現れるのかを知ることが出来るとしたら。
人間の立場から言えば、こんなに嬉しいことは無い。
——そんな都合のいい事は無いという理解と
あってほしいという理想が、俺の中でひしめき合いながら共存していた。
目覚まし時計の音が鳴り響き、至福の時間は終わりであると告げられた。
ああ、瞼が重い。
睡眠時間が少ないせいだ。
少しばかり頭が重く、徹夜したのと変わらない気分だ。
だがそれでも、アラームを止めた手に憎悪はない。
何故なら今日、眠気と疲労を相殺できそうなワクワクが待っているからだ。
「アイシャ、おーい」
「ん~」
「おーい」
「ん~」
困った。
アイシャの身体と布団に俺の腕が挟まれていて動けない。
そうだ、俺は確か「怖い」とか言ってこんな寝方を……
「触るぞ」
「……」
いや、自爆しそうだからやめておこう。
何かアイシャが一瞬で目覚める策は無いものか……。
あ、そうだ。
睡魔に必死に抗いながら考え、とある妙案が浮かんだ。
「お屋敷」
「っ‼」
四文字。
たったそれだけでアイシャは覚醒。
「早っ‼」
まるで別人のように、目にも留まらぬ速さで
布団から出、用意してあった服に着替えた。
そして、こんなことを言うのである。
「早く起きなさいよ。ユウの寝坊助」
……誰のせいで起きれなかったと思ってんだ?
「はいはい」
俺も布団から出て着替える。
普段の休暇なら、着古した適当なシャツでいいのだが
今日はそういうわけにもいかない。
クリス達一班と会うからな。
「脱がせてあげよっか?」
「いえ、結構です」
着替えながら、ふとアイシャを見る。
「ん?」
視線に気づき、何かと問うてきた。
実を言うと、少し見惚れてしまった。
普段見る彼女は、鎧などの装備を身に着けているか、俺と同じように適当な服装だ。
だがやはり、彼女に関しても今日は違う。
久しぶりにまともな私服姿を見て、新鮮な気持ちになった。
「そのスカート穿いたんだ」
「うん。買ってくれたのになかなか機会が無かったから。今日なら丁度いいかなって」
去年、アイシャの誕生日に贈ったスカートを穿いてくれていた。
それを見てちょっと嬉しかったのがさっきの視線の理由でもあるのだが。
「短いよね。……こういうの好きなんだ~?」
昔からそれくらいのを穿いてたから
好きなのかと思って選んだのに、とんだ勘違いを被っている。




