(29)四人で魔特班
——その時。
金属音と共に俺への攻撃は防がれ。
魔物の盾は、奴の腕ごと地面に落ちた。
「よう、珍しく苦戦してるようだな」
「ユウ! 腕、大丈夫⁈」
ああ、そうか。
次どうするか、より。
能力なんかより。
——何よりも。
一番大事なことを忘れてた。
俺は、一人じゃなかった。
「リーフさん、アイシャ!」
そうだ。俺たちは四人で魔特班なんだ。
「リーフさん、こいつは私が食い止めます! 早くユウをお姉ちゃんの所に!」
「分かった。気を付けろよ」
「ごめん、アイシャ」
「ステーキで良いよ」
この娘はこんな時まで相変わらず、か。
返事をするまもなく、俺はリーフさんの瞬間移動でお姉ちゃんのもとへ。
「随分と派手にやったわね」
「もう痛すぎて痛くないです」
あまりの痛みに、なんとかとか言う成分が脳から出ているんだろう。
「それじゃあ治すから、少し待ってね」
お姉ちゃんが俺の右腕に触れる。
数秒経つと、緑色のオーラがお姉ちゃんと患部を包んだ。
そして次の瞬間には、もう痛みは無くいつも通りに腕が動いた。
これがお姉ちゃんの能力だ。
怪我と、お姉ちゃんが理解している病気を治す。
癒し効果や浄化なんかも出来るらしい。
「助かりました」
「他に怪我はない?」
「はい。腕だけです」
「そう、じゃあ急ぎましょう」
「よし、掴まれ」
再び瞬間移動で魔物のもとへ。
さっき切り落とされた腕からは、背中の物と同形の触手が生えていた。
組織の再生で体力を消耗したのか、例の甲高い声を発しながらこちらを警戒している。
「アイシャ!怪我は無いか?」
「うん。なんとか、ね」
怪我は無くとも、かなり息が上がっている様子。
昨日のオオカミ型との戦いでは余裕の表情を見せた彼女でも
こいつが相手ではそうもいかない。
それだけ、この魔物の攻撃が激しいという事を物語っている。
「ユウ。お前の能力なら、剣撃は弾けるんだろ?」
「はい」
「なら、触手は気にせず突っ込むんだ」
「援護は任せて」
俺一人で勝てなくても。
俺たちなら。
「了解。行きますよ!」
こちらを睨む魔物。そんな視線は無視して正面から突っ込む。
反射する能力の存在を学習したこいつは、なかなか攻撃をしてこない。
だけど、こっちから強引に攻撃をすれば
奴は動くか、防御せざるを得ない。もしくは触手か?
——さあ、どうする‼
答えは触手。
腕のそれを俺に突き刺そうとする。
さっきまでの俺なら回避していただろう。
だけど今は違う。
危機感や恐怖よりも。
戦意が。
高揚感が。
遥かに勝っている。
視界はクリア。
体はいう事を聞き、反応速度は限界を超えてきた。
故に、この触手は……っ!
——右に弾く‼
進行の邪魔にならないよう、右へ。
刹那、俺の右側を走っていたお姉ちゃんによって切断。
ついに俺の剣撃が届く範囲まで来た。
魔物は触手を伸ばし、自身の体を覆った。
それでも問答無用で近づき、一撃。だがこれは空を斬った。
お得意のバックステップだ。
その反動を利用して前に跳び、剣で突いてきた。奴はもう自暴自棄だ。
——もらった!
勢いを付ければ付けるほど、弾き返された時の衝撃は大きい。
大きな隙が出来た。
「そっちの腕も貰う‼」
剣を持っていた腕も地へ。
そして、再生する前。
ほとんど丸腰となった魔物は、アイシャとリーフさんによって
体を護っていた触手をも斬り落とされた。
勝利したかと思ったのも束の間。今までにないほど大きな奇声をあげた。
眼は血走り、口からは唾が溢れ。その表情はまるで怒り狂った鬼のようだ。
何より問題なのは、無数の泡をあちらこちらへ飛ばしたこと。
鳥、馬、羊、昆虫。
何でもかんでもお構いなく体に取り込んでいる。
この行動はやはり動物でいう「捕食」のようだ。
他者からエネルギーを得、体の再生を図っているのだろう。
「くそ、これじゃ近付けない!」
調査班のことから察するに、俺たち人間とてその対象だ。
泡に当たるわけにはいかない。
「こりゃあまずいな」
「ええ、全快されたらさすがに厳しいわよ」
「だけどこれじゃあ……!」
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
放たれた無数の泡は、同じく無数の生物を攫って来ては取り込まれていく。
俺とアイシャが斬った腕も。リーフさんやお姉ちゃんが斬った触手も。
剣も。盾も。全てが再生していく。
それでも止まらぬ捕食。
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
鳥、牛、羊。
牛、馬、羊。
いったい何分が経過しただろう。
先ほどまで鳴り響いていた動物たちの断末魔や魔物の奇声は、嘘のように消えた。
「おさまったか」
「でも、様子が変」
アイシャの言う通り、確かに魔物の様子が変だ。
「フラフラしてるわね」
「ですね。それに、なんだか……っ‼」
これは、ヤバい。早めに気が付いてよかった!
「まずい! リーフさん! 岩場の影まで逃げましょう! あいつ、徐々に膨張してます!」




