【番外2021.01.01】迎春と祈願。
こちらは2021年の正月に投稿したものの上げなおしです。
【挨拶】
皆さま、あけましておめでとうございます。
2021年もよろしくお願いいたします。
【今話】
こちらは番外になります。
本編のストーリーとはほとんど関係ありません。
~登場人物~
ユウ:騎士。男。りんごジュース。
アイシャ:騎士。女。オレンジジュース。桃色。かわいらしい模様。
ルナ:騎士。女。班長。お姉ちゃん。ワイン。赤色。派手な模様。
リーフ:騎士。男。ニホンシュ。
エリナ:騎士。メイド。女。ワイン。紫色。雅な模様。お姉ちゃんよりお姉ちゃん。
その他:おじさん。おばさん。etc
「五!……四!」
魔特班屋敷の新生・リビング。
そこに響き渡る、お姉ちゃんのカウントダウン。
「三!……二!」
机に置かれた懐中時計の針に合わせて。
「一!……零‼あけまして——」
——たった今、年が変わった。
「「「「おめでとう‼」」」」
ガラスが控えめにぶつかり合う高い音。
コップやグラス。そこには各々希望した飲み物が入っている。
ワインだの、ニホンシュだの。俺とアイシャはジュースだけど。
「うーん、おいしい!」
「このワイン、かなりの上物ですね」
「ニホンシュとかいうのも美味いぞ」
「あとでそれも飲んでみようかしら」
「ユウのは何?」
「りんごジュース」
「かわいい」
「え……? そっちは?」
「オレンジ」
乾杯をして、それぞれが飲み物の感想なんかを言い合っている。
「さて、乾杯も済みましたし。そろそろ焼きましょうか?」
「焼きましょう‼」
エリナさんが言うと、急に色めきだすアイシャ。
まあそうだろう。なんせ今回仕入れたのはヴァルム産の肉で、一番高いやつだからな。
ラムとビーフ。こりゃあ美味いぞ……。
「では」
油を垂らし、エリナさんが鉄板に熱を与える。
……便利ですね、それ。まずは牛肉から鉄板へ。
肉の色が変わってきた。
鮮やかな赤色から、食欲をそそる「お肉」の色に。
「わあ……おいしそう……」
目を輝かせるアイシャ。
だが、そう思っているのは彼女だけではない。
「油が跳ねるのでご注意ください」
ナイフを取り出すエリナさん。
上手いこと五等分に切り分け、これまたヴァルム特製のタレをかける。
ジュウ、という水分がとぶ音。その蒸気と共にいい匂いが全員の食欲を刺激する。
「焼けましたので、お一つずつどうぞ。」
——頂きます‼
一切れを半分ほど口へ。
次の瞬間、俺は天国へ召された。
「ユウ、逝かないで」
「……ふう、助かった」
アイシャに呼び止められ、なんとか息を吹き返す。
「これは確かに美味しいわね」
「ああ。柔らかいな」
「口の中で溶けるようですね」
肉の感想を言っては、飲み物を口へ。
一人分は無惨にも、あっという間に胃へ。
——さて。
彼女にとっては次が本番だろうな。
「ではこちらも」
ヴァルム産最上級羊肉。見るからにそわそわしている。牛肉の脂を掃除し、新たに油を敷く。
そこへ、綺麗な色をしたラム肉を乗せる。さっきも聞いた肉の焼ける音。
「アイシャ、髪に油がつくよ」
「ぐぬぬ……」
肉が焼ける光景を近くで見ていたアイシャ。
危ないので椅子に引き戻す。
けどまあ……これはテンション上がりますわ。
「出来ましたよ。」
エリナさんが合図をすると、一人分が亜光速で鉄板から消失。
「いただきま~す」
大事そうに三分の一程を口へ。
「ああ……」
「アイシャ、逝くな‼」
「……ありがとう、生き返ったよ」
……良かった。
「うわ、美味ぇ!」
アイシャが幸せそうに食べているので、どんなものかと思ったが……。
さっきの牛肉に負けないレベルの「お味」。
「美味ぇって、ギャグ?」
……メェェ
「いや違うわ」
肉を食べ終え、雑談タイムに入る。
「うん、ニホンシュ美味しいわね」
「だろ?」
「ええ。なんていうか、お魚が欲しくなるわね」
「私も頂きます」
茶褐色の瓶から出る透明の液体を自分のコップに注ぐエリナさん。
「ああ、これは確かに。焼き魚などにいいかもしれませんね」
お酒談議で盛り上がる三人をよそに、俺とアイシャも話が進む。
「さっきのお肉……美味しかったなぁ」
「美味かったな」
「一人で一枚食べたいなぁ」
確かにそうだ。
今日は五分の一だけだったからな……。
「誰か食べさせてくれないかなぁ……。チラッ」
……などと言いながら、わざとらしく俺に視線を送る。
「あの……ヴァルム産最上級はさすがに無理です、はい。」
「……よね。って言うか命張って戦ってる騎士が買えないで、誰が買うんだろうね」
——おっと皮肉たっぷり。
「……確かに。けどあれだな。この特別感は「たまに」がいいな」
「うん。ずっと食べてると、当たり前になっちゃうもんね」
年末だからとか。記念だからとか。そういう時に食べるべきものだな。
ただ、五人でお金を出し合って、それで二枚なんですけど。
——夜が更けてきた。
「じゃあ~今日はお開きぃ~」
……だいぶ酔っているな
「明日王都で新年祭やるんだって~どうする?」
「せっかくだし行ってみたいですね」
「おっけ~じゃあ行こう!」
「そうなると思って準備してあるので、明日、お姉ちゃん先輩と奥様は私の部屋へどうぞ」
「ん~?分かったわ」
「はーい」
「リーフあんたは?」
「俺も覗きに行ってみるかなぁ」
「じゃ、お昼前くらいに玄関に集まりましょ~。はい、解散」
お休み~と点々に言い、各自部屋へ——
「ご主人……様ぁ……」
「危なっ、ちょっと、大丈夫ですか?」
——フラフラのエリナさん。ニホンシュ恐るべし。
「少し、飲みすぎてしまったみたいで……」
千鳥足になっている。リーフさんの様子と比較して、エリナさんはあまりお酒に強くないのだろうか?
「部屋まで肩かしましょうか?」
「えへへ、お願いしま~す」
あれ、でもさっき普通に……。
「悪い、アイシャ。先に戻っててくれ」
「ダメ。監視。」
——監視?
「別に……何もしないよ……。」
「私は構いませんよ、ご主人様?」
——ああ、エリナさんの監視か。
「じゃあ一緒に」
「うん。」
エリナさんの腕を俺の肩に乗せ、ゆっくり立ち上がる。
「よいしょっと」
反対側に倒れないよう、俺も腕を回してエリナさんの身体を支える——
「あっ、ご主人様……」
「どうしま——」
……普通に触ってしまった。場所は聞かないでほしい。
「ユウ?」
「す、すみません。不可抗力だったんです。」
「手をどけなくても……良いんですよ」
「よくないです!」
「ごめんなさい!じゃあアイシャさん、そっち側支えてくれ」
「はーい」
結局二人でエリナさんを支えて廊下を進む。
……。
部屋の前まで来た。
「ご主人様、奥様、ありがとうございます。」
「いえ。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「ええ。おやすみなさい、お二人とも。」
挨拶をすると、エリナさんは扉を開け、普通に歩いて中へ。扉が閉まる。
「……?」
「なるほど……お酒が飲めるとああいう手もあるんだ……。」
……ああ、罠か。何とも恐ろしい人だ。
「将来、私もやるね?」
「やるのは良いとして、何で俺に言っちゃうんだよ……」
勝手に、酒でヘロヘロになったアイシャを想像する。
——ダメだ、威力が高すぎる。
俺たちも自室へ戻り、新年祭に備えて寝ることに。
翌日、昼前。
「おはようございます」
「ああ、おはよう……アイシャはどうした?」
俺が一人だと不自然。そんな次元まで来たか。
「さあ……多分、エリナさんの所じゃないですかね?昨日、準備がどうのって言ってましたし」
「そうか。なんか言ってた……気がするな。調子に乗って学生みたいな飲み方しちまってな……。記憶が曖昧なんだ」
「大丈夫なんですか?」
「今は特に何ともない。」
「それならいいんですけど」
十分ほどリーフさんと二人で話していると、階段から女性陣が降りてきた。
——見た事のない服装で。
「お待たせ~」
「また随分と着飾ったな」
俺とリーフさんの私服がみすぼらしく見える。
「これね、ある地域で着られてるキモノっていう民族衣装らしいの」
「メイド修行で各地を回った時に知りまして。いいデザインだと思ったので、今回どうにか入手しました。」
——どうにかって、どうやって……。
「ユウ、どう?」
桃色の生地に、言葉では言えないがかわいらしい模様が入ったデザインのキモノ。
くるっと回ってその袖をひらひらさせるアイシャ。
「かわいい」
——即答。
「でしょ~?」
「私たちは?」
お姉ちゃんのキモノは、赤い生地に金色などの派手な色で模様がついている。とても華やかなイメージだ。
「普段とのギャップがすごいですね」
「……ギャップ? そんなに違う……?」
「エリナさんは——」
濃い紫色の生地に、雅な花柄のキモノ。
だから、花柄が似合い過ぎなんですって。
貴女のために作られたんじゃないですか?
「——一番大人ですね。」
「ユウ?」
「ふふっ、ありがとうございます。」
「ちょっと、一番大人なの私なんだけど」
「アイシャはもうアイシャだな」
「ねえってば」
「……どういう事?」
……さあ。
「おーい」
「あきらめろルナ。ユウにはもうアイシャしか見えてない」
「……そうみたいね。何だか悔しいわ。 ところで、あんたはどう思う?」
最初にアイシャがやったような感じで、リーフさんにキモノを見せびらかす。
「……知らん。」
「え、何その反応」
「う、うるせえな。ほら、行くぞ」
リーフさんは一人、エントランスへ歩き出す。
「行こう、アイシャ」
「うん」
左手でアイシャの右手を取り、俺たちも続いた。
リーフさんが扉を開く音が響く——
「ああ、ずるい……」
——後ろから声が聞こえた気がして振り向く。
「エリナさん?」
「い、いえ。何でもありません。行きましょうか。」
街の中央まで行くと、いろいろと聞こえてきた。笛の音、太鼓の重低音、そして花火。
街のシンボル的な存在の噴水。それを中心として東西南北に出店と人ごみが伸びている。
「すごい人ね。みんなで動くのは難しそうだわ。」
「各自でいいんじゃないか?」
「そうね。満足したら勝手に帰宅ね。」
自由行動になったので、俺とアイシャはまず西側へ向かった。
西側の出店は、見た事がない食べ物・飲み物が多い。
「みそ……おでん?」
「あの人が食べてるやつじゃない? 大根に何かついてるやつ」
「ああ、あれか。食べてみようか。」
「うん。おいしそう。」
みそおでんとやらの店へ。
「いらっしゃい」
「大根二つ、お願いします」
「はいよ!」
たくさんの食材が同じ汁に浸されている。
その中から大根を二つすくい、汁気をきって紙皿へ。
その上から謎の茶色いドロドロをかけた。
それと、たまごも二つ取り出し、皿へ。
「おまちどう!たまごは若いカップルにサービスだ!」
カップル……。
「「ありがとうございます」」
大根の代金を払って列を外れる。
「私たち、カップルだって」
「……まあ、見えるよな」
「やったね~」
……やった、のか?
嬉しそうなアイシャを見て、つい笑みがこぼれる。
さらに奥へ進むと、香ばしいにおいがしてきた。
「何だろう、これ」
「……向こうからだな」
匂いのする方へ視線を送ると、多くの人を集める出店が一つ。
「いそべもち……って書いてあるね」
店を離れる客の手には、白い何かに黒い何かが巻かれた食べ物がもたれている。
どうしても気になり、列へ。
「いそべもち二つください」
店主の女性に注文を告げた。
「はい、少々お待ちくださいね~」
四角形の白いものを火からあげ、黒い液体を塗って少しあぶる。
すると、さっきの香ばしい匂いがさらに増す。
なるほど、匂いの正体はこの液体か。
すこし色がついたそれに、
今度は黒い紙みたいなものがパリパリと音をたてながら巻かれていていく。
「はい、お待ちどう様。のどに詰まらせないようにゆっくり食べてね」
「「ありがとうございます」」
代金を渡して列を離れる。
「いただきま~す」
一つ手に取り、端の方をかじる。
「ん、柔らかい」
「おお、伸びる伸びる!」
腕を伸ばしても千切れないほど。
うん、ちょうどいい塩味がして美味い。
三口くらいで食べ終わる。
この弾力は確かにのどに詰まったら死にそうだ。
「うん、美味しかった」
「だな。」
塩気のあるものを食べたからか、体が水分を欲する。
西側の奥まで歩いたところに「リョクチャ」なんていう飲み物が売っていたので購入。
二人で一杯を飲みがら噴水へと戻った。
中心地の噴水は、どこよりも人口密度が高い。
そんな中、周辺を観察しながら歩いていると、
少し離れたところのベンチでリーフさんが何か食べていた。
「リーフさん、お疲れ様です」
「おう、お疲れさん。」
「それ、どこで売ってました⁈」
リーフさんの右手に持たれたステーキ串。
それを見るなり、即食いついたアイシャ。
「東側の奥の方で売ってたぞ」
「情報感謝します。ユウ、東に行こう」
「はい。じゃあすみません、失礼します」
「ああ。せっかくの祭りだ。楽しめよ」
「はい」
アイシャに手を引かれ、東側へ。
西側とはうって変わり、見慣れた食べ物が多い。
見つけてしまったフライドポテトを食べながら進む。
すると、赤いキモノの女性が。
「あら、こっちに来てたのね」
お姉ちゃんだ。
「そうなんです。こっちにステーキ串があるって聞いて、アイシャが」
「なるほどね~」
「どこだろう」
通過する店を一軒一軒見ていくアイシャ。
リーフさん、奥の方って言ってたよ……。
周りを見ると、色々食べている人が居る。
女性の手には綿菓子、飴、クレープなんかが多いか。
しかし、幼馴染はステーキ串を目当てに人ごみを突き進む。
「——カップルに間違われた?」
「そうなんです。たまごのおまけを貰っちゃいました」
「美味しかったね」
「うん。」
「それ、間違われたっていうか……まあ良いわ。」
話をしながら左にアイシャ、右にお姉ちゃんという構図で進んでいく。
——さっきから視線がすごい。
アイシャがそうなのは分かっているとして、そういえばお姉ちゃんも見た目は美人だった。
「キ、キモノ、だいぶ注目の的ですね」
視線の先はキモノ。そう自己暗示をかける。
「まあね。珍しい服装だしね」
「え、私がかわいいからじゃないの?」
……。
「一理ある」
「きっとお姉ちゃんが美し過ぎるからよ」
……。
「まあ。」
「ユウ?なんて?もう一回、お姉ちゃんに聞こえるように言ってくれる?」
——口が滑った。
やがて東側の……半分くらいまで来た頃。
そろそろステーキ串の店があるんじゃないかと見渡す。
……と、先の方に人だかりができているのが見えた。
どう見ても列ではなかったし、なんだか騒がしい。
他の場所の騒々しさとは違い、緊迫した雰囲気だ。
異変を感じた俺たちは、人の波をかき分けて騒ぎの中心へと向かう。
「すみません、騎士です。通してください」
「通りまーす」
——到着。
見えてきた景色は、祭りの楽しい雰囲気とは真逆の悲惨なものだった。
「こら、落ち着け!」
興奮していななく馬。
それをなだめる馭者。
横転した荷台と、倒れた人たち。
「何があったんですか?」
見ればわかるが、念のためお姉ちゃんが馭者に話を聞く。
「馬車でここを通過しようと思ったんだけど、馬が暴れ出して。」
暴走こそしていないものの、これだけの人だかりでこれ以上暴れたら死者が出てもおかしくない。
……て言うかこんな所通るなよ。
「二人とも、馬車の方をお願い」
「「了解」」
お姉ちゃんは怪我人の治療に当たる。
「いきますよ、せーのっ‼」
俺は、何人かの力と能力を少し使って、横転した荷台を元に戻す。
「せーのっ!」
ドスンという衝撃と共に荷台は元の向きへ。
「アイシャ、そっちは……」
「こっちは大丈夫。」
興奮していた馬は、アイシャに撫でられて落ち着き始めた。
「おお、さすが」
「ほら、人参。どうぞ~。よし、いい子いい子。」
東側の入り口付近で買った野菜スティックが役に立った。
馬はすっかりリラックス状態だ。相変わらず動物に好かれやすいな。
「こっちも大丈夫そう。誰も命に別状はないわ」
「ふう、よかったです」
事態を収束させ、お姉ちゃんは馭者に言う。
「悪いけど、お祭り会場はもう通らないように。南下するなら大回りで。」
「……分かりましたよ」
こんな事件を引き起こしておきながら、ぶつぶつ文句を言っている。
まったく、迷惑な。
それから少し歩いてステーキ串を発見。
幸せそうに鼻歌を歌いながら肉をほおばるアイシャ。
そんな彼女を見ながら、噴水まで引き返した。
「まったく、散々だったわね」
「ですね。」
「うーん、美味しかったぁ」
——一人、全然気にしてない娘がいる。
「二人はこれからどうするの?」
「あと行ってないのは北と南ですね」
「あら残念」
「お姉ちゃんは?」
「私はあと西だけなの。」
「西はすごいですよ、見た事ないものばかりで。」
「そうなの?楽しみだわ。 それじゃあ失礼するわね。デートの邪魔してごめんなさいね~」
……なんて余計なことを言いながら西側へ駆けて行った。
北側の入り口。
今まで行った東西とはまた一つ、雰囲気が違う。
出店を見ると、輪投げとか、クジとか。なるほど。
「こっちは遊ぶのがメインなんだね」
「そうみたいね。クジ引いてみようかな~」
アイシャがクジ店の方へ。俺もその後を追う。
「お、姉ちゃん、引いていくかい?」
「はい」
「じゃあここから一つ、どうぞ!」
差し出された箱に腕をツッコみ、三角形に折りたたまれた紙を一枚。
「どうだい?」
「……五等です」
「五等か。じゃあ……このケーキだな。好きなの選びな」
袋に入れて並べられた一口サイズの小さなケーキ。
その中から、一番オーソドックスなイチゴが乗ったものをチョイス。
店を離れ、道端でさっそく開封している。
「半分食べる?」
「いいの?」
「うん。別に甘いもの好きってわけじゃないし。」
フライドポテト然り、ラムステーキ然り。そういえばそうだったな。
「じゃあ貰うよ」
受け取ろうと手を出すと、アイシャはケーキを引っ込める。
「……?」
「はい、あ~ん♡」
……。
一瞬ためらったが、別にいいかという気になり、頂いた。
「美味しい?」
「まあ……うん。普通のケーキ。」
特別美味しいわけではない。生地の味がほとんどだ。
クジの景品だし、まあこんなものだろうな。
ふと、さっきの馬を思い出して複雑な気持ちに。
「私が食べさせてあげたのに?」
「大変おいしゅうございます。」
世界一美味しいケーキでございました。
さらに北へ。運がいいのか悪いのか、またしても人だかりに遭遇。
「おいおい、またかよ」
なんて言ったが、今度のは盛り上がっている感じで、
何か悪い出来事が起きたわけではなさそうだ。
よく見えないので、見物しているおじさんに聞いてみた。
「何かあったんですか?」
「ああ。なんでも、吹き矢の名人が居るらしいぞ」
「名人……?」
少し高くなっている場所を見つけ、二人で乗った。
「あれって……」
見ると、濃い紫色のキモノを着た女性が次々と景品を落としている。
「エリナさん……だよね?」
「……だな。」
——百発百中。
「やるなあ、あの姉ちゃん。何者なんだろうな」
「たしかに、何者なんでしょうね……。」
「みろよ、店主の真っ青な顔を。いい気味だぜ。」
何か知っている様子の、別のおじさんが話に参加。
「……いい気味?」
「ああ。あそこはインチキを疑われてた店なんだ。景品が獲り難いようにしたりな。少なくとも、子供の息じゃ当てても落ちないだろうよ。」
……なるほど。
「ほれ、後ろの子供居るだろ?あの子が頑張って菓子を獲ったのさ。なのに、見てない間に棚に戻して無かったことにしたせいであの子が大泣き、って話らしい。」
「そんなことが……」
「子供相手に、汚い大人……。」
つまり、それを見ていた彼女が……って事か。
泣いている人を放っておけず、笑顔にしたい。
……なるほど、エリナさんらしい。
悔しそうな顔で、エリナさんに景品を渡す店主。
これだけの目撃者がいれば、誤魔化すことも出来まい。
「はい、お菓子貰ってきたよ。だからもう泣かないでね?」
しゃがみ、子供と視線の高さを合わせてお菓子を渡している。
「……うん。」
「すみません。本当にありがとうございます」
その子の母親がエリナさんに礼を言った。
「いえ。」
「ほら、ありがとうは?」
「……ありがとう、お姉ちゃん」
子供が言うと、エリナさんが子供の頭を撫でた。
「あれが、あれこそがお姉ちゃんだ……」
「……お姉ちゃんよりお姉ちゃんしてるね。」
エリナさんは立ち上がり——
「じゃあ、お祭り楽しんでね~」
「うん!バイバイ~イ!」
母親とエリナさんが会釈を交わし、笑い声混じりに人だかりは解散していく。
初めて敬語じゃないエリナさんを見た気がする。
新年早々、たいへん耳福・眼福でございました。
「あら、ご主人様に奥様。 ……見られてしまいましたか。」
「すごかったですね」
「うんうん。子供も喜んでたし。」
「ええ。放っておけなくて。そうだ、御二方もどうぞ」
「これは」
エリナさんが差し出したのは、小さな箱に入った米菓子二つ。
「先ほど店主様より頂いた景品です。思ったより沢山頂いてしまいまして。」
「百発百中でしたしね……。ありがとうございます。」
ありがたく受け取った。
「この先は何かありました?」
「ええ。少し行ったところに小高い丘があります。とてもいい眺めでしたよ」
一度休憩するのにちょうどいいかもしれない。
「行ってみる?」
「うん、行こう」
「じゃあ、俺たちはそこに行ってみますね」
「では、私はもう少し見て回りますので、こちらで。」
「はい。じゃあまた後で。……エリナお姉さん。」
「お、おね⁈」
あたふたするエリナさんに手を振って、例の丘へ向かう。
——ご主人様呼びで貫かれた心臓たちよ、仇は取ったぞ。
しばらく歩くと、緩やかな階段が見えてきた。
一段一段登る。キモノとセットの履物では登り難そうだ。
エリナさん凄いな。
「ほれ、掴まれ」
「うん? ……って、ちょっ!」
アイシャの膝裏と背中を腕で支え、俺の腰の高さくらいまで抱き上げた。
そのまま階段を上がる。
「……いかがですか?」
「……し、知らないっ」
プイっと顔をそむける。
少し、赤らんでいる。
なんだよ、照れるツボがまったく分からん。
頂上に着き、アイシャを下した。
「良い眺めだな」
「……うん。」
空気が澄み渡り、雲一つない空。王都の一部を見下ろせる良い場所だ。
三人がけの長椅子が置かれている。アイシャが右側に座るので、俺はその隣に。
祭りの音が遠くに聞こえる。
「どうだった、王都の新年祭は?」
「……楽しかったよ。初めての事も……たくさんあったし」
貰った米菓子を食べながら話す。
昔から、ストロングホールドの新年祭には参加していた。
あれはどちらかと言えば庶民の「騒ぎ」だった。
こっちは違う。もっとこう、「催し物」というイメージが強い。
「……」
ふと、街を望む幼馴染を見た。
「……なに?」
「いや、なんでも。」
俺の膝に置かれたアイシャの左手。
それに、右手を重ねた。
……。
左手を、隣の空席へ。
感じるのは冷えた椅子の質感のみ。
……何もない。
……誰も、いない。
……分かっていたことだ。
その手を握って拳を作り、自分の胸に当てた。
数秒間目を瞑り、視線を空へ。遠くの方は既にオレンジ色に染まっている。
視線を街に下す。教会の十字架が見えた。
なんとなく神聖な気分になって、願い事なんてものをしてみた。
——春が、来ますように。
迷った挙句、出た願いはそれだった。
アイシャをお守りください、なんてのも考えたが却下した。
それを叶えるのは神様ではなく、俺自身だから。
「……行こっか」
「だな。」
立ち上がり、さっきと同じ方法で階段を下る。
来た時の景色を逆に見て、俺たちは再び喧騒の中へと向かって行った。
これにて2021正月番外は終わりとなります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ぜひ、本編も一度ご覧ください。
それでは、また。




