表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【三話】貪食と喜悦。
26/269

(26)最後の記憶

 それから十分が経過しても。二十分が経過しても。

報告に行った相方は帰ってこない。

最初は用でも足しているのかと楽観視していたが、さすがに遅すぎる。

彼の身に何かあったのではないかと考え、隊長の方へ歩みだした。


その瞬間の出来事であった。


中列左のペアが赤色の信号を出した。

強力な魔物が出現した時に発せられる合図だ。

相方のことは気がかりだが、まずは信号を優先することに。



《あれ、おかしいな……》


信号を見て左に向かったはずだが、中列左のペアが一人もいない。何が起きているのか、俺には大体想像がついた。


さっき、相方が見たという魔物。

そいつの襲撃ではないだろうか。


《こりゃあまずい》


俺は急ぎ、隊長の所へ。

俺と同じく信号を見て下がってきていた隊長と、そのペアのスタークさんに会った。

その道中でもやはり、中列左のやつらと遭遇することは無かった。


《隊長》

《どうした、ガイスト》

《私のペアが報告に来ませんでしたか?》

《お前のペアはクンペルだったな。いや、来ていないが》

《クンペル……》

《何かあったのか?》


隊長が険しい表情で俺に訊いた。


《はい。実は、三十分ほど前に未知の魔物を見たという報告をしに向かったのですが》

《その報告は、まだ受けていないな》

《それともう一つ。中列左から出された信号に関してですが》

《それは私も確認した。今向かっているところだが》

《居ないんです。左の二人とも》

《居ない? やられたのか?》

《分かりません》

《どういうことだ?》


険しい表情はさらに深刻なものへ。


《姿が見えないんです。まるで最初から居なかったみたいに》

《よく探したのか?》

《信号が出された場所付近は捜索しました。もしかしたら例の魔物に追われているのかもしれません》


隊長はあごに手をあてて、次にこう言った。


《よし。ここで一度止まり旗を立てる。スターク、お前はこの場所を死守しろ》

《はっ》

《ガイスト。お前は私と来い。迷子の三人を探す》

《はい》

《それからスターク。後列の四人に集合の信号を出し、この場所で待機させろ》

《了解しました》



 そしてまた十分、二十分と時間が経過した。

それでも、三人は見つかっていない。

彼らの姿どころか、痕跡すら見つけられていない。

それでも捜索を続けたが、探せば探すほど不安が育っていった。


このままでは埒が明かないという話になり、一度、旗を立てた地点に戻ることに。


《これは……》

《スタークさん、いったい何処へ?》


旗の所へ戻ると、後列の四人はおろか、スタークさんの姿すら無かった。

その時点で、俺の中で生長した不安の種は芽を出し、絶望へと姿を変えた。


あいつだ。


例の魔物がみんなを……。


怖くてたまらなかった。


ああ、俺は。なんて馬鹿野郎だ。

隊長から気を引き締めろと言われたのに。

ぼーっと歩いていたせいで魔物の姿を目視できず。

あまつさえ、俺はクンペルを一人で行かせた。


そしてこの有様だ。


恐怖で足がすくんだ。

今度は俺の番だと思った。

それでも、仲間のために調査を続けた。

今更遅いのは分かっているが。


《隊長、これを》

《ん? 信号銃か》

《緑信号が装填されています。スタークさんは……》

《ああ。後列に集合をかけようとしたところだったようだな》


だが、違和感がある。

もしも魔物に殺されているなら、遺体はどこだ?

それに血痕もない。


《もしかして、我々以外はもう……》

《可能性はある。だが気を落とすな。負の感情は剣を鈍らせる》

《すみません》


刹那。


すぐ近くの岩場から金属音らしき音が聞こえた。


《隊長!》

《ガイスト、行くぞ》


俺たちはすぐにその岩場へ。

すると、一本の剣が落ちていた。

さっきの音はこれが地面に落ちた時のものか。


《これは……。隊長、この剣はスタークさんの物ですね》

《ガイスト》

《はい?》

《悠長に捜査をしている場合じゃなさそうだ》


隊長が見ている方へ俺も視線を向ける。

隊長の言いたいことはすぐに分かった。


《あれは……魔物⁈》

《ああ。しかも未知のタイプ。間違いない。クンペルが見たという奴だろう》


確かにクンペルの言う通り、クモ型やトラ型など生易しい。


何故ならば……。


《ヒ、ヒト型?》


背を向けていたそいつは、俺と隊長の声に気付いてこっちを向いた。

そして次の瞬間には、その腕で隊長の首をつかみ、持ち上げていた。


俺はふたたび恐怖した。


《ぐぅ‼》

《た、隊長‼》


隊長は必死にもがいている。

しかし、魔物は決して彼の首を離さない。


《うおおおおおお‼》


俺はとっさに剣を抜いて、そいつに斬りかかった。

だが、冷静な判断が出来ない今の状況では全く手も足も出ず

いともたやすく反撃をくらい、岩に叩きつけられた。


《ぐっ⁈》


ダメだ。


勝てるわけがない。


こんな化け物に。


弱音を心の中で言い放った俺に、喝が飛んだ。


《ガ、ガイスト‼》

《隊長‼》

《何を……して、いる! た、立つんだ!》


薄れゆく意識を必死に繋ぎとめ、ゆらゆらと立ち上がった。

剣を構えると、更に隊長から叱責を受けた。


《お、大馬鹿者‼ は、早く……て、撤退だ! こいつの、事を!》

《し、しかし隊長は!》


そうだ。隊長は逃げられる状態じゃない。


《黙れ! こ、これは……命令だっ!》

《隊長!》

《早く、しろ!》

《くっ!》


走った。


ただひたすらに。


逃げて。


生きて帰って。


魔物のことを報告すれば!


走って、走って、走って。


必死だった俺は、地面の抉れに気が付かず転倒。

それでも地獄の底から這い上がり、起き上がろうとしたのだが

猛烈な痛みに思わず怯んだ。足を怪我したようだった。


死にたくないという思いと共に、仲間たちの顔が脳裏をよぎった。

自分を鼓舞してなんとか四つん這い状態になった。


だが、それでも足が言う事を聞かなかった。


甲高い唸り声が近くで聞こえたかと思った

その刹那、俺の意識は途絶えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ