(258)宣誓のその先へ
魔王を討てど。「神」を討てど。ついに魔物が滅亡することは無かった。
戦線は多少落ち着いたが、魔物が居なくなったわけじゃない。騎士の仕事は、まだまだ終わりそうにない。
天魔はと言うと、これから人間との共存を目的として活動するようだ。徐々に彼らの姿を晒し、技術提供によって発展を促す。種族の壁など無い世界を。渦の解けた世界を実現するために。無論その世界には、魔物も含まれる。頭領は新たに研究チームを作り、魔物と意思疎通をする方法の開発に全力を注ぐと言っていた。
——それから、五年が経った。
今日は大切な「任務」があって、再建された森の教会に来ている。建物は綺麗に修復されたが、剥がされた森は簡単には再生しない。未だに、あの時の一撃が爪痕を残している。だが、それはもう過去の事。今の俺はやはり、今を見るので精いっぱいだった。
「わあ……緊張する……。え、何だ……これ? 心臓早くね? え、死ぬのか?」
控室の扉の前を、一人で右往左往している。普段着や騎士の装備とも違う……あまり着慣れず、その上、動きにくい。
「なぁアイシャ……って、居るわけないんだった。え、人間の気って、ここまで動転するものなんだな……」
なんて、激しい緊張から無限に独り言を吐き続ける。
——そんな時。
「入場ですよ」
「はいっ!」
変に裏返った声で返事をし、案内されるがまま進む。
「どうぞ、こちらからです。本当に、おめでとうございます」
「あああありがとうござざいままます」
——なんて?
重厚な扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。やたら音量の大きい演奏が響く。赤い絨毯が奥まで続いていて、終点に見えるのは祭壇だ。ゆっくりとその明るい部屋に歩み出る。祭壇を目指して歩く通路の左右には長椅子が並んでいて、見知った顔が多数。
「おい、ユウ」
右側から小声で話しかけてきたのは、騎士校で出逢った友人のクリス。視線で返事をすると、彼は続けた。
「手足が同時に出てるぞ」
「……っ!」
右足と右手。左足と左手が同時に出ていた。緊張しすぎだろ。
「うう、先輩ぃ……ユウ先輩ぃ……アタシの先輩がぁ~」
悔しそうにハンカチをかじるノエル。
ミラや魔特班の仲間たち、両親までもがそこにいた。
「それでは、新婦の入場です」
再び演奏が盛り上がり、扉が開く。
見えてきたのは、綺麗なドレスに身を包んだアイシャの姿。
父親と共に歩き、彼女もまた祭壇の前へ。
「……」
「ふっ」
おいなんで笑った?
その後、賛美歌を歌う時間があった。事前に何度か練習していたが、この緊張だ。無論、全部飛ぶよね。治まることのない緊張に苦しめられている間に、教会の人が朗読を始めた。だが俺の意識は、拍動と目の前のアイシャにのみ持っていかれている。
——綺麗だ
——とても
「……病める時も」
ああ、長かった。この光景を見るのにかかった時間は本当に長かったと感じる。色々な事があった。喜ばしいこともあれば、もちろん、あまりに大きすぎる絶望もあった。それが原因となって、俺たちは一時止まっていた。時は進むのに、それ以外はすべて停止しているような感覚だった。
「……健やかなる時も」
だがもう、俺たちは進んだんだ。そして、ここまで来た。やっと、たどり着くことが出来た。俺一人の力ではない。多くの仲間に支えられてきた。特に彼女——アイシャには、未だに感謝してもしきれないほどの恩を受けただろう。
「……愛を持って互いに支え合う事を」
だから、これから彼女に恩返しをする。していく。俺に何が出来るのだろう。そう考え続けて十数年。やっと、答えを見いだせた。祖先ユーリに言ったのと同じ。俺が隣にいる事で、彼女は笑ってくれる。ならば俺は、生涯に渡ってそれを続けよう。
「誓いますか?」
——数多の誓いを超えた先に待っていた答え。
——俺がアイシャを、幸せにする。
「——誓います」
それが俺の、新たなる宣誓だ。
宣誓のその先へ ——完——
ここまで読んでくださった皆様へ。
本当に、ありがとうございました!!!
無事に完結させることが出来ました。
本編はこれにて完結いたしました。
これからしばらくは、筆者の備忘録も兼ねて
「思いついたけど没にした」
「どう考えても入れる場所が無いシーン」
「いや世界観終わっとんがな」
——を投げっぱなししたいと思います。
もうしばらくお付き合いください。
それでは、また!!!




