表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【二十一話】伝承と吐露。
252/269

(252)何なのか分からない感情

《ここだよ、サラちゃん》


私の部屋からよく分からない場所に入って案内されたのは、少し古びた小屋だった。


《僕の秘密のお家だよ。どうだい、素敵だろう?》

「……汚い」


蜘蛛の巣が張っていたり、ところどころ歪んでいたり。

そんな建物に対する感想を求められた私は、一切の嘘も誇張も無しに答えた。


《ははっ、言うねぇ》


玄関らしき扉から入ると、いちおう生活は出来そうな部屋があった。


《くつろいでてよ。寝ても構わないからね》


……そういえば真夜中だったんだっけ。

元居た場所と切り離されてて感覚が狂っちゃったみたい。


「ねえ」

《どうしたの?》

「さっきの言葉、本当?」

《えっと、どれだい?》

「ユウとアイシャが幸せに、って」


事実または嘘という話ではないから、私の能力で判定することが出来なかった。

彼——慈悲さんの予想でしかないわけだから、私としては、納得のいく説明が欲しかった。


《気になる?》


気になるどころの話じゃないよ。

私は、二人が幸せになるって聞いてついて来たんだから。


「うん」

《じゃあ、訊いてみようか》

「……え?」


訊いてみる。そんなことを言った慈悲さんは、懐から手のひらサイズの箱を取り出し、それに向かって話しだした。


《おば——頭領、慈悲だけど》


すると不思議なことに、箱からお年寄りの声が聞こえてきた。


《どうした?》

《英雄さんの子孫がいるでしょ? まだ子供だけどさ》

《ああ》

《その子の将来——十年、二十年先がどうなってるのか、彼に予言してもらいたいんだけど》


……予言?


《……すまんが、それは出来ない》

《出来ない?》

《ああ。彼は数日前に自ら命を絶った》

《……え?》


仲間が死んじゃったって連絡だと思うけど、どうしてか慈悲さんの顔には、驚きと共に安堵が見られた。


《そ、そうなんだ。残念だなあ……。じゃあ、いいや。またね》


箱を懐に戻すと、慈悲さんは私を見て言った。


《ゴメンよ。未来の事が分かるお友達がさ、死んじゃったみたいなんだ。だから、君の疑問には答えられないや》

「そう、なんだ……」


心の底から恐怖を感じていた。

分からない事が、こんなにも怖いなんて……。




 それから二週間と少しが経った。


《十年後が来るまで、眠るかい?》


そう訊かれた私だけど、応えは保留していた。


「少し、待ってて」

《まあタイミングは君に任せるよ。気持ちが固まったら教えてよ》

「……うん」


どうしよう。今更になって、悩みが続々と生まれてくる。


——私が慈悲さんに協力すれば、全部滅んじゃう。

——私が慈悲さんを拒絶すれば、生命同士が殺し合って滅びちゃう。


「でも結局二人は……」


——結果的に、どちらにしても二人は死んでしまう。


「ユウ……アイシャ……」


問題は、何者かに突然滅ぼされるか、殺し合いの世界で自滅に巻き込まれるか、という話。


それなら、二人が騎士を目指す過程で幸せを感じてもらって、前者で滅亡してしまう方が比較的マシ。そう考えて慈悲さんの話に乗った。でも少し冷静に考えてみたら、大変なことに気が付いてしまった。


「でも私が協力したら……私が二人を死なせるってこと、だよね……?」


私が神様に造り変えられて滅亡をもたらすなら、それはつまり、私がユウとアイシャを殺してしまうという事。


——それは嫌


「でも……でも……」


——じゃあ今から慈悲さんを裏切る?

——それはそれで困ったことが起きちゃうよね?


「うう、どうしよう。どうしたらいいんだろう……」


——魔物に殺されるっていう無惨な結末になるかもしれない


それだけじゃない。


——もし魔物を倒せたとしても、人間同士の戦いになれば、騎士になった二人は人殺しの道具になってしまうかもしれない


「ダメだったんだ、ここに来ちゃ」


二人の幸せと言う蜜に誘われて、慈悲さんについて来てしまった事を後悔した。もう取り返しがつかない。


ユウとアイシャはもう、大きく絶望してしまった。


ゴメン。


本当にゴメンね……。


つまり、慈悲さんの言ったように、二人が騎士を目指す道はほぼ確定してしまった。


それが私の悩みの種だった。


——私が死なせるか、世界の自滅に巻き込まれるか、人殺しに加担させられるか


どれをとっても、納得できるものじゃない。




……

…………

………………


「——っ!」

《おや、お目覚めかい?》

「……うん」


いつの間にか寝ちゃったみたい。まだ、うとうとする。

夢なのか現実なのか、はっきり言いきれないまどろみの中で映像——夢を見た。


——なんで学校に来ないの?

——逃げてるんだ。怖いから。おかしい? だろうな。笑いたきゃ笑ってくれて構わないさ

——私を……一人にしないでよっ!

——ほんとうに、ごめんよ


断片的だけど、そんな夢を見た。場所はユウの部屋。きっと、予知夢だと思う。


二人が立ち直ってくれるという夢。


二人が騎士になる道を進むという夢。


《ん? えっと、君は今、どういう心情なんだい?》


慈悲さんは、人間の表情から感情を読み取る練習をしてるって言ってた。

今の私の表情をみて聞いたんだろうけど——


「私にも、分かんない」

《そうかい》


——嬉しいのか


——悲しいのか


——苦いのか


——甘いのか


この予知夢が、現実が、私にとって何なのか。


その答えは混沌としていて、私自身にも分からなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ