(246)追跡
剣を抜く。敵から視線を逸らさぬよう、しっかり注目。
オオカミの大きさとトラの脚力、クモの攻撃力を兼ね備えたこいつは、かなり厄介な敵だろう。加えて、空間を経由した行動も可能ときた。気を抜けば、先代のように負けかねない。
——来た!
左右に惑わしながら、俺に向かって飛び込んできた。
その脚力によって生み出されたスピードは並大抵ではなく、
魔王とまではいかないものの、右腕には匹敵するのではないだろうかという水準だ。
「っ!」
身体の反射が始まったころ、敵は既に目の前に。
剣を上まで持ち上げる時間はない。
——弾き返す!
幸い、キメラの攻撃には飛び込みの勢いがついている。
能力を使ってしまえば、なんてことは無い。
「くらえ!」
反射により、一メートルほど後退した魔物に対し、
地面を蹴った勢いを反射して急接近。
大きな牙のある口に向かって剣を突き刺——
「なっ!」
そこにはもう、キメラの姿は無かった。
おそらく、裏空間へ退避したのだろう。
《ぐあっ⁈》
俺の背中が向いている方から、頭領の声が聞こえた。
「頭領さん!」
まずい、腕を嚙まれている。あの強靭な顎であれば、腕など簡単に落ちるだろう。
そして何より、お姉ちゃんの能力では、頭領を治療することは出来ないのが厄介だ。
《ええい、腕の一本や二本が何だ!》
頭領はひるまず、キメラへ攻撃を行った。
《くらえ!》
右手に剣を出現させ、キメラの首あたりへ突き刺した。
「そこだ!」
一瞬だけ悶えたキメラ。その隙を見逃さなかったリーフさんが瞬間移動で接近し、注意を引いた。彼に気を取られたキメラは頭領の腕を離した。ターゲットはリーフさんに切り替わった。
「厄介ですね。アタシの能力で囲っても、裏空間を経由されたら無意味ですもんね?」
「そうだな……。囲む作戦はダメそうか」
頭領は左腕を失ってしまっている。
長期戦に持ち込まれれば、集中力の欠損によって老婆と同じ、
もしくは、もっと悪い結末になるかもしれない。
「ノエル、魔法陣を一枚もらえるか?」
「はい」
出してもらったバリアに反射を付与し、盾のように構える。
「アイシャ」
「うん、死角攻撃ね」
「さすが!」
そう言い、俺はキメラの居る方向へ走った。
アイシャは、敵からは俺しか見えない位置を走ってともに接近。
「来やがれ!」
急接近してきた俺を迎撃するため、魔物は牙をむく。
「リーフさん、上へ!」
「おう!」
ノエルのバリアで攻撃を反射し、ヘイトは俺に集中。
そうなったのを確認して、今度は瞬間移動で上へ向かう。
敵の視線は俺に固定するから、重なって接近してきたアイシャに気付くことは出来ない。
「はあっ!」
彼女はスライディングで懐に潜り込み、腹に強烈な一撃を与えた。
「そこです!」
怯んだ隙を見て、今度はエリナさんが剣を輝かせながら走り込み、大きく強靭な牙を破壊した。俺とリーフさんは左右に分かれて着地。
「逃げたか」
「ええ」
あわよくば追撃をしたかったのだが、キメラは裏空間へと消えた。
「あとは——」
数秒経つと、いつの間にやら裏へ行っていた、お姉ちゃん、ノエル、頭領が戻ってきた。二人の騎士が剣についた血を払う。二人の間には、ほとんど淡く光る砂となって消えたキメラ。
……終わった。
奴が逃げることを予測して、あっちで待機していたようだ。
「終わったわね」
《ああ。急ぎ、慈悲を追うぞ》
「奴の目的地は分かってるのか?」
《分からんが、予想は出来る。奴は、教会に居た我々をここへ案内しハメた》
「つまり、私たちをあの場所から引きはがしたかった……ってこと?」
《おそらくな。そして奴は、教会の異様な雰囲気の正体について、ある結論を持っているのだろう》
近付くだけで圧倒されそうな建物。その中でも、特別異様な女神像。
《私としても同じ結論でな。あの圧は、遵守に違いない》




