(243)教会の意味
最古の歴史書を見ても、遵守に関する情報は得られなかった。
あったのは、人間同士の戦争の記録ばかりだ。
騎士団が政治を牛耳っていた時代があったらしい。
「結局、遵守については分からなかったな」
あくびと伸びをしたリーフさんが嘆いた。
「見つかると思ったのに……」
乗り物ごと空間の裏に入り、再び会議が始まった。
《まあ、そう簡単に見つけられるなら、慈悲の奴はとっくに目的を完遂しているさ》
簡単に見つからないことで、一時的に救われている。複雑な気分だ。
「遵守、ねえ」
「魅力的なエサ……まさに、だね」
《ところで君らは、あのサルの童話はどこで?》
「私は昔、絵本で読んだわね」
「私は、母より口伝で」
「俺も親の口から聞いた記憶がある」
絵本や親からの口伝。そんなふうに、あの物語は語り継がれている。
《君たちはどうだ?》
頭領の視線は、俺とアイシャの方へ。
「俺は子供のころ、教会でシスターさんから」
「うん、私も」
《教会?》
「ストロングホールドのはずれにあるんだ」
《教会と言うことは、何かを信仰しているという事か?》
「さあ、詳しいことは私たちも知らない」
《……となると、築何年ほどかも分からないか?》
「分からないけど、ユーリの記憶でも同じ教会を見たんだ。五百年前の時点で、かなり古そうだった気が……」
《知りうる中で、その教会が一番古そうだな》
記憶の中から、教会よりも古そうなものを引き出そうと試みる。
必死に記憶を探っていると、アイシャが何かを思い出したようだ。
「あの女神像!」
《女神像?》
「確か、教会が建つより前からあったらしいって」
「ああ、そういえばシスターさんがそんな事言ってたな」
《なるほどな。現状、藁にもすがりたいところだ。案内してくれるか?》
「「了解」」
図書館での調査を終了し、次の目的地、砦街はずれの教会へと向かうことに。
王都から少し南下し、直接教会へ向かった。乗り物を隠し、教会の前へ。
古い木造の建物は、相も変わらず圧倒的な雰囲気を放っている。
「へえ、こんなところに教会があるのね」
「すごい……アタシ、なんだか押し潰されそうです」
「オルガンの音色が心地いいですね」
「なんか不思議な気分になるな」
口々に感想を述べる班員に先導し、もう慣れた俺とアイシャは扉の看板に目をやる。
「よかった、開放中だね」
「だな」
「あ~あ」
「どうした?」
「次来るときは新郎新婦でって言ったのに」
「……」
重厚な扉を開き、中へ入る。
《女神像と言うのは?》
「あの奥です」
裏空間から小声で問いかけられ、女神像がある部屋へ。
魔王戦で見た夢が脳裏にフラッシュバックした。
「これです」
《なるほど。凄まじい何かを感じるな。何かこう、強烈な雰囲気が、この像から放たれているようにさえ感じる》
言われてみれば、確かにそうだな……。
前から不思議な感じはしていたが、
何が不思議なのかを頭領に言われて初めて理解した。
「シスターさんなら、像について何か知っているかもしれないわね」
《そうだな。教会の者に訊くのが早いだろう》
お姉ちゃんの案が採用され、俺たちはシスターさんに、像について聞いてみた。
他の人の迷惑にならないよう、奥の別室に案内され、そこで話を聞かせてもらえることに。
「資料は残っておらず口伝ですが、女神像に関する伝承は存在しています」
俺たちの質問に、優しく回答してくれている。
「あの女神像は、教会が建てられるより以前から建っていたそうです」
ここまでは知っている。
「ある時、耳の聞こえぬ旅人がこの森で女神像を発見し、音が聴きたいと祈ったところ、驚くべきことに、聴力を手に入れたとされています。その噂話は次第に浸透し、多くの人が訪れるようになった結果、最終的にこの教会が建てられたと言い伝えられています」
これまた、不思議な話だ。
要するに、願いが叶ったという訳か……。
「つまりこの教会は、女神を崇拝する目的で造られた、と言う事ですか?」
「もちろん、それも大きな理由でしょう。しかしもう一つ、非常に大きな訳があります」
「訳?」
「ええ。当時は、戦争——殺し合いが頻発し、大混乱の時代だったようです。そのような情勢であったからこそ、女神像や教会と言うのは、数少ない心の拠り所だったようです」
「なるほど……」
どうしようもなくなると、何か大いなる存在による救済を求める。
女神像に関する歴史もそうだし、俺は昔、当時とは違う強い騎士になった自分と言う理想の存在を崇拝していたのかもしれない。
「ちなみになんですけど、サルの童話については何か伝えられていますか?」
「サルの童話、ですか? 特に伝承はありませんが、特別な物語であるとは聞いております」
「特別な物語……?」
「ええ……。そういえば、大昔に獄中で書かれた、という話を聞いた覚えがあります。まあそれも、何の証拠もない噂話程度ですが」
複数の有益な情報を貰った。
貴重な話をしてくれたシスターさんに感謝を述べ、一度教会を後にした。
重厚な扉から外に出て、裏空間で再び話し合いを開始。
「とんでもない話だったな」
「そうね。あの女神像が、旅人に聴力を与えたって事よね?」
《その話を聞く限り、あの像と遵守に何かしら関係がある事は間違いない。それに、像から感じた圧力。あれはただ事では——》
情報をまとめ、意見交換を始めようとしていた
……その時。
《あれ、こんな処でみんな揃ってどうしたんだい?》
「っ⁉」
聞き慣れた声、口調。
思わず短剣に手をかけてしまった。
「……慈悲!」




