(237)秘匿
あまり人目につかぬよう、
北西居住区の少し手前辺りで降り、そこから歩いて向かう。
道中には公園がある。
俺が稽古をつけてもらっていた公園だ。
モチベーション維持のため、あえて嫌いなタイプの騎士が集まる公園でやっていた。
ああはなるまいと、己を鼓舞するのに丁度よかったからだ。
「稽古を見られていたなら、この公園に潜んでいた可能性があります」
《なるほどな。見てみようか》
公園で例の空間へ入る。
「あれは……?」
エリナさんが指さした方を見ると、椅子と、それを囲むように本棚が並んでいる。
《ここは本が多いな》
「本?」
《ああ。ニンゲンの文化を勉強していたようだ》
「あれ、この絵本って……」
ノエルが手に取ったのは、一冊の絵本。
その表紙には、見覚えがあった。
「サルの御伽話、だな」
「懐かしいですね。昔、母から読み聞かせてもらった記憶があります」
「有名なお話よね」
《その本だけ、やけにボロボロだな。お気に入りか?》
絵本がノエルの手から頭領へ渡された。
最初のページから流し見ている。
《これは……なるほど。このように語り継がれているのか》
……語り継ぐ?
「何をだ?」
《これは、我々三種族の歴史を描いている。かなり抽象的に描かれているが、間違いないだろう。ふむ、死に至る不治の病か。面白い表現だな》
人間と天魔と魔物。
それぞれを代表して一匹ずつのサルとして……。
なるほどな。
《魅力的なエサ、か。確かにアレは、どの種にとっても魅力的だった》
「アレって?」
不思議そうにアイシャが問う。
《おや、慈悲からは何も聞いていないか? ここで言う魅力的なエサというのは遵守の力の事だな》
「遵守の力……?」
初めて聞く言葉だ。
《そうか。てっきり既知だと思っていたのだが》
「慈悲は確か……」
《でもある時、何らかのモノを奪い合って関係が悪くなった……って、僕らの文献には書かれていたよ》
「って言ってた」
《そうか……嘘偽りは一切無いが、なぜ知らないふうを装っているんだ? あいつ、私が秘匿しておけと言った内容はよくばらすわりに……》
「あの予言もその内って事かしら?」
右腕たちの出現を事前に教えてくれた紙。
大きな被害を出さずに奴らを倒せたのは事実だが、
あんな重要な内容は間違いなく秘匿事項だっただろう。
《もちろんだ。結果として救われたから許したものの……》
「そもそもなんだが、あんたらは、未来の事が分かるのか?」
《かつてはな》
「かつて?」
《ああ。未来を知る能力を持つ者が居たのだ。特別待遇をするなどしていたんだが、ある時、自ら命を絶った。置き書きには、未来を見て絶望したと書かれていた。何を見たのかは定かではない》
何かしら、絶望的な未来が待っているというのだろうか……。
それとも、すでに起きたことが原因なのか。それも分からないという訳だ。
「なるほどな」
《それでだ。君らは慈悲から、遵守について何も聞いていないのだな?》
「それどころか、慈悲本人すらあんまり知らなそうだったけど」
《いや、テンマとしての教育はしっかり行った。絶対に知っているはずだ》
じゃあなぜ——もしかして。
「知られたくないから、隠そうとしたとか?」
《遵守以外の情報を与えておき、一番触れてほしくない情報から遠ざけた……。憶測にすぎないが、可能性はありそうだな》
「どうして三種族は、遵守の力を奪い合ったの? 魅力的って話だけど」
再びアイシャが頭領に訊く。俺としても気になる話だ。
《言うなれば、想いを実現できる力だからだ。例えば私が今、遵守をこの手に持っていたとしよう。その状態で君たちに向かって「伏せろ」と命じれば、君たちは伏せをする。本質的には願望の実現が可能という物なのだが、かつての我々は相手を従わせることに使ってしまった。遵守という名前も、そこから来ているのだろうな》
つまり、好き放題できる力ってわけだ。
「それを巡って天魔と魔物が争い、人間が魔物から騙し取った。その一連の出来事が、今日の戦いの発端……ってわけですね」
慈悲の言葉と御伽話から察するに、そんなところだろう。
《そう言う事だ。さて、調査を続けようか》
本棚から一冊ずつ取り出し、隠された何かが無いか丁寧に探していく。




