(21)声に出して言ってはならない
数分後、服を着たお姉ちゃんとリーフさんがリビングに降りてきた。
なんで説明するのに、服の有無を言わなくちゃいけないんだ?
リーフさんと挨拶を交わし、配置についた。
班でのミーティングはいつもこの配置だ。
真ん中の二人掛けソファーに俺とアイシャ
右側の一人掛けにリーフさん、机を挟んで向こう側にお姉ちゃんだ。
「はい、今日の伝令よ。ユウ、改めてお願い」
「はい。今日の午前十一時に王城へ。以上です」
「……それだけか?」
「はい」
リーフさんも困惑気味だ。
「十時ごろに馬車で出るわよ。各自装備の点検をしておくこと。一応、ね」
史上最短ミーティング。世界記録を狙えそうだ。了解の返事をし、準備にかかる。
昨日ド派手に転んだせいで防具に泥がついていた。
これを雑巾でふき取り、次は剣を見る。
魔物の血が付く剣のメンテナンスは重要だ。
血が付いたままだとそこから錆びて、ある時突然折れることがあるからだ。
大まかな汚れは昨日の帰りに落としたが、ここでもよく確認する。
よし、汚れも刃こぼれも無さそうだ。
確認が終わったら、先に馬車の荷台に装備を積んでおく。
リーフさんとお姉ちゃんのが既に積まれていた。
俺の装備を積み終えて屋敷に入ろうとすると
アイシャが同じく装備を運んでいるのにすれ違った。
「運ぼうか?」
「いいの?」
「おう」
アイシャから受け取り、これも荷台に積んだ。
大柄なリーフさんは軽々と運ぶが、結構重いんだ、これが。
「ありがと」
お礼の言葉とともに、俺の頭を撫でてきた。
「犬か俺は」
「昨日、後で撫でるって言ったきり忘れてたから。はい、お手」
どうやら犬らしい。
リビングに戻ると、さっき使ったマグカップは片付けられていた。
お姉ちゃんに感謝。
出発まで十五分。混む前にトイレを済ませた。
出発の時刻。王城までは馬車で三十分ほどだろうか。
今回は魔特班で所有している馬を使う。馭者はリーフさんが務めることに。
「……」
馬車での移動中、なにかを深く思案している様子のお姉ちゃん。
「どうしたんです?」
「珍しいですね、お姉ちゃんが考え込むなんて」
「アイシャは私を何だと思ってるのよ……」
巨乳変態上官。
「巨乳変態上官?」
おい、なぜ声に出した?
「なら良いんだけどね。伝令で王城に呼ばれるなんて初めてだから、色々と考えてたのよ」
「あ、やっぱり珍しいケースなんですか?」
「そうなの。あなた達が配属になった時みたいな正式なイベントなら、書面で連絡を入れるはずよね。それに仕事の内容も全く分からないし」
「まあ行けば分かりますよ」
「そうなんだけど……。意外と楽観的なのね、アイシャって」
「でも確かに、分かりようがないですね今回は」
「そうね……。はーい、もう考えるのお終い。雑談が一番!至高よね!はい、ユウ」
「え、雑談……あの……」
雑談って、しろと言われると難しいのな。
「あ、そうそう。俺らの使ったマグカップ片付けてくれたのお姉ちゃんですよね? ありがとうございます。」
咄嗟に思い付いた話題は、さっきのお礼だ。
うん、言えてよかった。
だけど、その返事は予想もしないものだった。
「マグカップ? 私じゃないわよ? ていうか、自分で使った分すら忘れてたわ」
「え?」
え、ちょ、なに?
「ねえリーフ」
お姉ちゃんは座席車の窓を開け、馭者をしているリーフさんに問うた。
「マグカップ片付けてくれたのってアンタ?」
「マグカップ? いや、知らんが」
「本当に?」
「ああ。そんな嘘ついたって何にもならんだろ」
「そうよね……。ユウの記憶違いじゃなくて?」
「いいえ、確かに馬車に装備を積んで帰ったらマグカップはもう……」
「……そう。アイシャは?」
心当たりはあるかという意味を込めて、アイシャの方へ顔を向けるお姉ちゃん。
だがアイシャにも思い当たる節は無いようで、首を横に振った。
「え、やめてよ……」
「もう怪談の時期じゃ……あっ」
怪談
自分でそう言って、俺はある事に気付き、アイシャに視線を向ける。
彼女は俺の視線に気づき、同じくこっちを見て、再び首を横に振る。
やはりそうか。
マグカップ事件の真相は大体わかった。
しかし、結構ビビっているお姉ちゃんにこれを話すと
失神するかもしれないので黙っておく。
アイシャもそれを分かって知らないふりをしたのだろう。
なんなら俺も内心はビビっている。




