(161)大きな一歩
と、そんな訳で俺は今、静かになった屋敷の中を練り歩いている。
休めと言われて従ったものの、暇を持て余していた。
いつものような遊び相手は居ない。
暇人と多忙なメイドさんだけが居た。
「……」
階段を上り、エントランスを望める吹き抜けの通路から、視線を一階へ。
その強度を信頼して、腰ほどの高さの柵に体重を預ける。
うん、問題なさそうだ。
「はぁ」
ため息を一つ。それと同時に、自分の過去を振り返った。
サラを失い、アイシャに救われ、騎士校に入り、魔特班へ。
思えば、人生の半分以上も騎士にかかわっている。
それでもなお、戦い始めた目的の達成には至っていない。
近付いている気すらしない。
そもそも、終着点が存在するかどうかさえ、怪しいところだ。
「戦う理由、か」
アイシャは「弔い」だと言っていた。
きっと俺もそのはずなんだ。
あの時、俺は確かに魔物を憎んだ。
滅ぼすと誓った。
が、十年もの月日が流れた今、俺は現実に気付いてしまった。
何をしたとて、どんなに魔物を殺したとて、三人で笑い合える日々は戻らない。
不意に拳が硬くなる。
「ユウ様」
「はい?」
先ほどまでせわしなく動き回っていたメイドさんが、
いつの間にやら落ち着いた様子で俺の背後に居た。
「お茶を淹れましたので、よろしければ」
「ああ、すみません。いただきます」
リビングに案内された俺は、いつもの椅子に浅く座った。
「いい香りですね」
「特製のハーブティーでございます」
「ハーブティー?」
「ええ。ルナ様より、ユウ様が悩まれていると伺いました。ハーブティーには、そう言った際に、心を癒す効果があるそうです」
「すみません、お忙しいのにわざわざ」
「いえ。心のケアも、我々の役目ですから。せっかくのお休みです。のびのびとお過ごしください。何かございましたら、メイドへお申し付けくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「それでは、失礼いたします」
お茶を用意してくれたメイドさんは、
丁寧な会釈をして一階へ戻っていった。
「……美味しい」
初体験のハーブティー。
味が良いはもちろんの事、確かに心が安らぐような感覚だ。
数多の思考が絡まっていた精神が、次第に落ち着いていくのを感じる。
その結果、やるか否か迷っていたことをやると、決心がついた。
「やっぱり、行こう」
十分に効果を発揮してくれたハーブティーを飲み干し、
俺は王城の資料庫へと向かうため、小さいながらも、大きな一歩踏み出した。




