(16)活躍は転じて大問題へ
五分弱歩くと、そこはもう魔物の領地だ。
油断はできない。遥か右の方では、もう戦闘が始まっているらしい。
作戦開始から十分後、ついに魔物の群れが俺たちの前に姿を見せた。オオカミ型だ。魔物には数多くの種類が存在し、その骨格から、人間が知っている動物に例えた呼び方をされる。それを見た俺たちの後ろにいる騎士たちは剣を抜き、臨戦態勢だ。一方で魔物は牙をむき、こちらへ突き進んできている。
猪突猛進だ。
狼だけど。
「相手は四匹。競争よ、ユウ。はいよーいスタート」
「ちょっ! ずる!」
まっすぐ向かってくる魔物に、これまたまっすぐ突っ込むアイシャ。
後ろの騎士たちはたぶんクリスを除いて全員戦慄したことだろう。
通常、魔物との戦闘では三人程度の
チームを組むことが推奨されているからだ。
おっと、競争だったな。
「はあっ! さようなら、来世はもっと可愛い犬だといいね」
突進してくる魔物。
その腹下をスライディングで潜り抜け
背後をとって跳び、首に一撃。
今アイシャがとった行動を言葉にするならそんな感じだ。
スライディングはおそらく、魔物の初動を見てからしたのだろう。
その反射神経と運動能力は並大抵じゃない。
俺も負けまいと敵を斬る。
動きで翻弄するアイシャの戦い方に対して、俺は慎重な戦闘をする。
それには訳があるのだが……。
「おい、お手」
魔物の正面に立ち、お手を催促。
すると、オオカミ型は鋭い爪を俺めがけて振り下ろしてくる。
「よ~し、いい子だ!」
その攻撃を剣で受け止める。
刹那、俺は《能力》を使う。
能力とは、黒い霧事件以降、人類が獲得した超常的な力の総称だ。
今のところ、全人類が能力を持つわけではないが、年々その数は増えているらしい。
サイコキネシスだったり空中浮遊だったり、その内容は人によって異なる。
俺の能力は受けた力を任意方向へ反射するというもの。
発動するタイミングも完全に任意だ。
つまり今、魔物のお手をわざと受け、その力を向こうに返してやったわけだ。
その巨体から放たれた攻撃の勢いはすさまじい。
そんな力を不意にくらった魔物は怯み、必ず大きな隙が出来る。
「でやあっ‼」
その隙に腹なり首なりを叩き斬ってやる。
さて、他の三匹は……
「おぉ、早いな」
アイシャの方を見ると、三匹の死骸と一人の悪魔が居た。
魔物が蹂躙されるのを見ていた他の騎士たちから歓声があがっている。
さっきも言ったように、魔物には三人ほどで対抗する。
それが普通であり、騎士校でもその戦い方が基本であると叩き込まれる。
だが今のは、人数比がむしろ逆である。
特にアイシャは一人で三匹を相手し
傷一つ負わずに涼しい顔をしているのだ。
そりゃあ歓声の一つや二つあがるだろう。
そんな拍手喝采をよそに、アイシャは俺に言う。
「私の勝ち~」
「いやあ、アイシャには敵わんよ」
「ラムステーキでいいよ」
「……マジですか」
アイスより財布を軽くしそうだ。
まあそれは良いとして。
何を隠そう、戦闘技能の成績はアイシャの方が高いのだ。
俺だって魔特班の一員だ。それなりの自信と誇りは持っている。
それでも、アイシャの身軽さとそこから生まれるスピード、そして身体能力には恐れ入る。
ちなみにアイシャも能力を持つ。
しかし、今挙げたのは彼女に目覚めた能力ではなく、素の力だ。
戦闘に応用できる能力を得た俺は、それを用いて戦闘スタイルを会得した。
一方で能力が戦闘向けのものでなかったアイシャは
彼女自身の力を磨くことに専念した。
それがこの結果なのかもしれない。
正直に言うと、アイシャが勝てない魔物なんか
いないんじゃないかとさえ思う。
さて、さらに前進を続けた。
途中さっきのより大規模なオオカミの群れに遭遇した。
流石に二人では捌けず、大乱戦となったがこれを何とか退けた。
一班が前列と後列に分かれているのは、敵が現れた際に
その列の間に魔物を誘い込んで挟み撃ちしやすいようにする策であるようだ。
これは巧い事機能していて、今まで死傷者は出ていない。
だが、今起きている問題は結構重大だ。
それを引き起こしたのは、大乱戦突破後の
精神的安堵が残ったこのタイミングに現れた巨大なクモ型の魔物である。
めったに姿を見せない種類で、ほとんどの場合群れを成さない一匹狼だ。
その危険度は非常に高く、接触危惧種に認定されている。
好くないことに、今回のは様子が違う。
周辺に子分のサル型を引き連れている。
これはなかなかレアな光景だ……
運がいいんだか悪いんだか。
だが、その重大な問題というのは、コイツが現れたことではない。
魔特班の仕事では接触危惧種を相手にすることがほとんどであり
コイツを一人で相手することはもはや日常茶飯事だ。
それ故に、俺だけが戦闘前から問題を理解していた。
「ひぃっ」
さっきの戦闘で大活躍だったアイシャは
コイツと対峙すると一般人なのだ。




