(159)迷い
翌日。今日の任務は、結界を突破してきた
トラ型の群れを殲滅すること。
騎士団では対処が間に合わず、ストロングホールドまで
数キロといった地点まで進軍を許している。
これはまずいということで、魔特班へ出撃命令が下された。
現地での指示は、いつも通りの「散開」だ。
ここから各自で魔物を探し、討伐する。
「……」
任務が始まっても、俺は相変わらず
考え事に脳内を支配されていた。
いや、違うな。
考え事と言うより、迷いだ。
「っ‼」
ふと、前方に対象の魔物を見つけた。
前方と言っても、すぐ近くだ。十メートルもない。
目の前と表現した方が正しい。
任務に集中できず、周囲の観察すらもままならなっているようだ。
俺よりも先に敵を認知していたトラは、殺すべき相手へ、牙をむいて一直線に迫る。
——間に合わない!
回避はムリだと判断した俺は、
とっさに剣を構えて能力による反射に出た。
「なっ⁈」
トラは軽快なステップで俺の左へ回り込んだ。
利き手と逆を取られた俺は、今度もまたとっさに、左手のひらを向けた。
なにも、剣が無ければ能力が使えないわけじゃない。
ヴァイス氷山の時のように、武器を失っても反射は可能だ。
——来い‼
ガルルと呻きながら、鍾乳石を思わせる
大きな牙を俺に突き刺さんと、突進してきた。
——今だ
これを反射すると、魔物がおおきく怯んだ。
「くらえっ‼」
柄に左手も添えて、魔物の顔面に力いっぱい剣を叩きつけた。
ダメージを受けて小さな咆哮と共に一歩下がると、
威嚇したのち、イヌやオオカミのような遠吠えをひとつ。
「ん?」
これは初めて見る光景だ。最近になって現れた特殊な個体だろうか……
などと、冷静に考察できる余裕はなかった。
遠吠えがやんだ途端、地響きが始まり次第に大きくなっていく。
「おいおい、冗談だろ?」
振動の正体は、大量のトラによる足音だった。
「二、四、六……いや、数えるだけ無駄か」
数えるまでもなく「たくさん」だ。
——右!
勢いそのまま攻撃へ転じたトラ。
それを何とか迎撃し、牙を砕いた。
怯んだ隙にもう一撃加え、首を落とした。
安堵のため息をつく暇はない。
次から次へと噛みつかんとするトラ。
「はあっ‼」
あえてその攻撃を受け、すべて反射。
四匹ほどが怯んだ。
一匹ずつとどめを刺し、周辺に目を向ける。
一斉にかかっても負けることを学んだのか、なかなか仕掛けてこない。
——さて、どうする
剣を構え、俺も様子をうかがう。
何か打開策はないか……。
この状況を好転させる一手は……。
あれ、俺はなんでこんな状況に?
これって命の危機じゃないのか?
その危険性故に接触は禁忌とされている魔物に囲まれて。
俺はいったい、何を——




