(154)遵守の力
美しい世界に入ってから十数時間。
休息を取りながらゆっくりと退いていた魔物勢力に、追い付くことに成功した。
「作戦開始だ」
赤色の信号を出し、後方の騎士たちに合図を送った。
手はず通り、騎士たちが横に広がって進撃を開始。
最後尾の魔物から順に攻撃していく。
「くっ……‼」
溢れる罪悪感を必死に払いながら、団長も次から次へと魔物を斬り捨てる。
さきの戦で消耗している魔物の抵抗は、取るに足らなかった。
多少の犠牲はあったものの、あっという間に先頭集団にまで到達した。
「怯むな‼ 魔物勢力の壊滅は、アレはもう目の前だ‼」
『うおおお‼』
団長に鼓舞された騎士たちが、
さらに進軍速度を高め、先頭の魔王とその妻に追い付いた。
《ニンゲン……? いったい何を……⁈》
「悪いが、アレは我々人間が頂く!」
《君たちは、興味がなかったのではなくて?》
《……奪おうというのか》
目的のモノは、妻の手に持たれている。
何度見ても綺麗だ。
漆黒の真逆と表現できるほどの白。
それでいて、見かたによっては青や赤、黄なんて色にも見える。
形は分からない。輝きが強く、形状を判断するのが難しい。
「事情が変わったのだ。心苦しいが、力ずくでも奪わせていただく」
《なるほど、狡猾な作戦も厭わないわけか》
「左様。皆、行くぞ! 我々の正義のために‼」
《これは決して、渡さない!》
互いに臨戦態勢をとる。
正直、アレがどれ程の力を持っているのかが分からない。
「遵守」という効果は如何ほどか。それは未知数だ。
出発前に団長が伝えた作戦通り、魔王と妻を円の陣形で取り囲み、
どこからでも攻撃できるように散開。消耗している彼らには、
これに対応する集中力が残っていないだろうという算段だ。
《本当に、やる気なのね。それなら、私たちも容赦はしません》
掌に載せたアレをこちらに向け、言った。
《吹き飛べ‼》
「……⁈」
その叫び声と共に、強烈な衝撃が放たれた。
立っていられないほどで、大半の団員がしりもちをついたり
、地面に転がされたりしている。団長もまた、その一人である。
「なんという事だ。本当に従わされるのか」
噂通りの強力さに、驚くことしかできない。
《ふんっ、後悔するがいい!》
体勢が崩れた騎士を、魔王が次々と殺していく。
「や、やめ——」
「た、助けて、団ちょ——」
仲間が死んでいく光景を、いっさい想像しなかったわけではない。
ここまでの道中もそうだが、犠牲が出ることは覚悟していた。
それでも、到底見ていられる光景ではない。反射的に目を背ける。
《癒えろ!》
「なっ!」
戦いで消耗していた魔王の動きが、どんどん良くなっていく。
そんなこともできるのかと、目を見開いた。
《さあ、次に死にたいのは誰だ?》
「団長」
「うん?」
歩きながら団長に質問をした、彼の一番の部下だ。
「団長には、アレを奪う作戦があるのですよね?」
「ああ。一応考えてある」
付き合いが長いため、考えていることは大体わかるようである。
「だが、魔王が回復したのは想定外だ。考え直す必要があるな」
「団長。魔王は僕に任せてください」
「……どうする気だ?」
次々と殺されていく騎士たち。
ゆっくり話している時間はない。
「僕が魔王を止めます。その隙に」
「……死ぬかもしれないぞ」
「僕の命で正義がなされるなら、本望です。行きますよっ‼」
団長の返事を聞かないまま、部下は飛び出していった。
ここでまごついていても、彼の覚悟を無駄にするだけだと
悟った団長は、作戦実行の準備にかかった。
剣を握り、じりじりと魔王から離れ、
動きを警戒しながらも、妻の状態をしっかりと観察する。
「魔王! 僕が相手してやる!」
《ふん、命知らずめ。いいだろう。次は貴様にしてやる》
彼の実力は、団長も信頼している。
故に、団長は自分の策に集中することにした。




