(142)上がって落ちる
明るく、広く、天井の高い部屋。
あまり感情を見せない彼らだが、今は少し違った。
「頭領、緊急だ」
部屋に入るなり、大いに狼狽したような声で言葉を発した。
「どうした、元帥」
「マオウが動いた」
老婆改め、頭領は、その知らせを聞いて眉間にしわを寄せた。
「なに」
「派遣した部隊が抑えているが、時間の問題だろう」
「そうか、マオウが。てっきり、ガフォークを寄こして来るものと踏んでいたが」
「私も、そのつもりで策を講じた」
読み違いを起こし、少し申し訳なさそうな参謀。
「待て。そうとなると、ガフォークはどこへ行った」
彼らの中でも、マオウに次いで危険視される側近、ガフォーク。
頭領は、その行方を心配している。
「もしや、ニンゲンの方へ行ったのでは」
「参謀の考えが妥当だろう」
「まずいな」
「しかし、ニンゲンはツォルンをも撃破している」
「それは、そうだが」
右手をあごへ持っていき、悩む頭領。
「とにかく、今はマオウだ。ガフォークは……ニンゲンを信じる他あるまい」
「そうだな、参謀。同意だ」
背中からノエルを下し、屋敷の扉を開く。
「ただい——どわぁっ⁈」
「速っ⁈」
驚きのスピードで、俺に飛び込んできたアイシャ。
「おかえり。楽しかった?」
「はい!」
「楽しんでくれて何より。」
「ユウ」
「ん?」
……何ですか、その眼は。
「何もしてないよね?」
「してないです」
「え~、先輩……あんなことしておいて……アタシ、初めてだったんですよ……?」
ギロっと睨まれた。
「な、何もしてないだろ⁈」
「何もしてくれませんでしたね」
「ま、分かってたけど」
……じゃあ何で、僕は睨まれたんですか?
「あ、それよりアイシャ先輩!」
「ん?」
「見てくださいよ、ユウ先輩が選んでくれた服」
……!
「は、半分は自分で選んだんだろ⁈」
紙袋から買った服を取り出し、観察するアイシャ。
なんだ、何をされるんだ。
「ユウ先輩が、アタシに似合うから、って。」
「へえ、確かに似合いそう。それに、きっとかわいいよ」
「やったぁ」
救われた。
「……こういうの、好きなの?」
「好きなんですか?」
「お、俺を見るな!」
救ってから落とした方が、絶望は大きい。
それを今、身をもって体験しました。
「……これは?」
三つ目。
服のついでに買ってあげたのは、クマのぬいぐるみだ。
近くを通るたびに見ていたので、これもプレゼントした。
「これ、かわいくないですか?」
ぬいぐるみを胸に抱きかかえ、
その手をバタバタさせながら、アイシャに問う。
「うん、確かにかわいい。ぬいぐるみを抱えたノエルが」
「え、アイシャ先輩を百としたら?」
なんだ、その質問。
「……八十五くらい」
「なんか、微妙ですね……」
随分と辛口な採点ですこと。
うーん、九十八!
「じゃ、メイドさんにお願いして、一回洗ってもらいますね!」
「おう」
「よかったね、ノエル」
「はい!」
そう言って、服をもって軽快に駆けて行った。
「……嬉しかったんだね」
「だな。ずっと楽しそうだったよ」
「ねえ」
「ん?」
「ホントに何もしてない? 触ったりとかこっそり襲ったりとか、してない?」
「してないわ!」
ノエルと二人だとこんなに疑われる点、
アイシャも彼女を相当かわいがってるってことなのだろうか。
……俺への信用が犠牲になったけどな。




