(14)出発準備
翌朝。右腕に感じる体温の主に声をかける。
「アイシャー」
「スゥー、スゥー……」
「……」
「スゥー……っ⁈ ……もう」
「起きてるんじゃん」
「ずるい」
「さあ起きて着替えんしゃい」
「はーい」
アイシャは俺のベッドの脇から事前に用意したであろう
シャツと防具インナーを着るために寝巻を脱ぎ始めた。
「ってまたここで着替えるんかい」
「あーずれてる」
寝相のせいでずれてしまった下着を
俺の前であろうと平気で直している。
「きゃー見えちゃうよアイシャちゃーん」
「……触ったくせに」
と、いつもの茶番を繰り広げていると、ノックが聞こえた。
「起きてる~?」
お姉ちゃんの声だ。扉を少し開けて顔を出した。
「起きてますよ」
「アイシャが見当たらないんだけど」
あー……、まあそうでしょうね。
「私ならここにいますよ」
俺の肩にあごを乗せる形で顔を出すアイシャ。
あの、背中に……当ててるんだろうな。
「あら、お姉ちゃん邪魔しちゃった? どうぞごゆっくり~」
「いやあの! すぐ行きますから! あの!」
真面目な話、遅れるのは非常にまずいので、
さっさと着替えを済ませてリビングへ。
これで全員の出発準備が終了した。
「全員そろったわね。それじゃあ魔特班、出撃よ。各員の健闘を祈る」
「なんで司令官目線なんだよ」
お忘れでしょうけど、その人が班長です。
「さあ今日も魔物をばっさばっさ斬り倒すわよ」
「おーこわ。んで俺のツッコミは無視かい」
「まあまあリーフさん、チャンスはまた来ますよ」
「あきらめずにリベンジ、応援してますからね」
「おいフラれたみたいに言うなよ、おい‼」
背が高く、厳つい見た目から怖いと思われがちな
リーフさんだが、実際はやさしくて親しみやすい人だと思う。
さて、最初の仕事は馬車への積み込みだ。
力仕事は俺とリーフさんが中心となって行う。
何を積むのかの指示はお姉ちゃんが出す。
アイシャは王都からここまで走ってきた馬のケアを担当している。
彼女はなぜか昔から動物に好かれやすい。
以前、何か好かれるコツでもあるのかと聞いてみた。
帰ってきた答えは
「さあ? 私がかわいいからじゃない?」
という言葉とウィンクだった。
その時俺は確かにと納得してしまった。
「まずは各員の装備品、これは座席車ね」
鎧や剣といった装備品は普段、屋敷の武具倉庫にしまってある。
取り出しは自由なので、空いた時間があれば各個人で整備をしている。
今は、例えば俺の装備が入ったボックスは俺が座る席に積んでいる。
移動中に装備するためだ。
今着けてしまっては重くてこの作業でばててしまう可能性がある。
まあ、そんなにやわな体力をしていない自信はあるが。
「次はこっち。中身は……救援物資か。これは荷台ね」
非常用の保存食やらけがの治療に使う薬剤などが入っている。
屋敷一階の物置から馬車へ積む。結構重い箱が十以上はあった。
今回はそこそこ大規模な作戦であるが故
魔特班で所持しているものもほぼ全て補給品とするらしい。
「やれやれ、これで全部ですか?」
「ええ。ご苦労様」
お姉ちゃんはそれに続けて小声で言った。
「こんどお姉ちゃんからご褒美あげちゃうからね」
「あはは、楽しみに、お待ちしてまーす……」
オン・オフの差が無限大だな、この人は。
と思ったが決して口にはしない。
またアイス屋のおじさんに厄介になる可能性が出てくるからだ。
積み込みがひと段落して出発を待っていると、馭者さんが声をかけてきた。
「兄ちゃん、飲みな」
「あ、ありがとうございます。助かります」
ボトルに入った水をくれた。
高めな気温の中、なんだかんだで三十分は動いた。
それ故、水を飲むだけで大げさかもしれないが、生き返ったと感じる。
「それからほれ、二人にも」
「はい、渡しておきます」
お姉ちゃんはもう貰っているみたいだ。
まず、馬車に寄りかかって自分の剣を見ているリーフさんにボトルを渡す。
「リーフさん、お疲れ様です。馭者さんから水です」
「おう、おつかれ。にしても今日はあちぃな。なんだって今日に限って気温が上がるんだ」
「確かに暑いですね。リーフさん寒い地域出身なんですよね?無理は禁物ですよ」
「ああ、分かってるさ。魔物と戦う前に気温に殺されちゃあたまんねえからな」
リーフさんとそんな会話をし、今度はアイシャの元へ。
彼女は馬の頭を撫でていた。
「ほれ」
「ひゃっ」
首元に水のボトルを当てると
いかにも素であるかのような驚き方をした。
「もう、びっくりしたじゃない」
と。
わざとらしく頬を膨らませる。
「ウソをおっしゃい。俺が今までに一回でもアイシャへの奇襲を成功させたことがあったか?」
「ちぇー、せっかくカップルっぽい事しようと思ったのに」
「いつもしてるでしょ……。ほれ、水」
「ん、ありがと」
水を渡して、何となく馬を眺めていた。
顔でっけえなぁ……。
とか思っていると、アイシャがそんな俺を見て言った。
「ユウもこの子みたいにナデナデしてほしいの?」
「いや帰ったらでいいよ」
「あ、帰ったらするんだ」
俺は何を言っているんだ……?
最近、とっさに出る言葉が本能的すぎてやばいのではないかと感じる。
とか何とか言っているうちにお姉ちゃんから集合の指示だ。
「改めて作戦の確認よ。我々は騎士団の作戦に参加。三つに分かれるの。私が二班でリーフは三班、ユウとアイシャは一班よ。各班に指揮官が居るはずだから、指示に従うこと。おーけー?」
「「「おーけー」」」
「それと」
もう一つ指示があるらしい。
「私たちが行くからには、死傷者を一人たりとも増やさない事」
時々すごくいいことを言うこの御姉様。
どっちがこの人の素なのだろう。




