(124)誰にでもあるわけじゃない宝
講義が終わって、マイとご飯を食べる。
食堂の席が取れず、中庭のベンチに座って、
売店で買ったサンドイッチを次々と口へ運ぶ。
「——それでさ、アタシその人の事、好きになっちゃったかも」
「ブフゥ——ッ!」
廊下での出来事を話すと、マイはお茶を噴き出した。
「……きたない」
「ごめんごめん。あんたがそんなにチョロいとは思わなかったからさ」
……カチン。
「廊下でぶつかって助けられて、ねぇ。今更そんな事でオチるもんなんだね」
「今更?」
「そうよ。だってノエル、今まで何人食ってきたのよ」
「食うって……」
表現の是非はおいといて。
毎日の食事すら貧相だったのに、男の子なんて食ったことあるわけがないでしょ。
「ゼロだけど」
「ブフゥ——ッ!」
「……きたない」
あと、お茶がもったいない。
「い、いやいや。その嘘はムリがあるって」
「え?」
「……え?」
「……?」
「え、マジ?」
「うん」
未確認生物でも見たかのような表情のマイ。
「へえ、意外」
マイには過去の事は言ってない。知られたくないから。
だから多分、マイはアタシが何年も前からこんな感じだと思ってるんだろうなあ。
「意外、かな?」
「そりゃそうよ」
アタシの顔を直視して続ける。
「あんた、顔かわいいし」
「そんなこと……」
「まあまあ、謙遜なさらず。それに」
視線を少し落として。
「それ……に……!」
「マイ? どうしたの?」
何だか震えているように見える。
「その宝玉! 何よそれ!」
「ちょっ、マイ⁈ な、なにして……っ!」
何故か涙目でアタシの胸を掴んでくるマイ。
まともな栄養を摂るようになったからか、たしかに最近成長し始めたよ。
だからって何で——
「初対面からどんどん成長しやがって! ずるいよ!」
マイにそう言われ、視線を少し下に。
「ない」ことで苦しんでいたアタシが、
「ある」ことで羨望の眼差しを浴びるなんて。
いや、これはなんか違う気がするけど。
「……誰にでもある物じゃないんだから……大事にしなよ……」
「う、うん……」
「っと、私情が入ったけど。顔はかわいい、スタイルはいい、脚もきれい。そんなノエルが経験なしなんて考えられないよって話」
「そういうもの?」
「そういうものよ。ノエルから声をかければ、いくらでも釣れるでしょ」
「そ、そんなの良くないよ……」
「……まあ、ノエルがいいって言うならいいんだけど」
なんだか恥ずかしい気分の昼休みが終わり、午後の講義が始まった。
アタシは、あの人の事を忘れられないでいた。こんなの、初めての経験だった。




