(121)何かが始まる
明るく、広い部屋。天井の高さが、さらに広さを強調する。
そんな場所で、計七人の老爺と老婆が長い机を囲んでいる。
違和感を言うとすれば、その者たちが皆、白いことだろう。
「監理よ」
その内の老婆が声を発した。
「ニンゲンの動きはどうか」
問いに、一人の老爺が答える。
「マオウの右腕らを全滅させたようだ」
「ニンゲンが、か」
驚いた表情で監理に問うた。
「そうだ」
「ニンゲン……敵にはしたくないものだな」
「それと、マオウを認知し始めている」
「そうか。では、彼らと目的が一つになったのだな」
「ああ」
「元帥。対マモノ戦線はどうだ」
「撤退を開始した。予想通り、マモノはニンゲン達の方向へ進軍している」
「巧く行ったようだな。参謀。もう一度計画を聞かせてもらおうか」
「ニンゲンを攻撃しに向かい、防御の薄くなったマモノ攻撃する。マオウ討伐隊とマモノ殲滅隊に別れ、それぞれを攻撃する予定だ」
「勝算は」
「マオウ討伐に関しては、奴の力が未知数であるが故、何とも言えぬ」
老婆が一瞬厳しい顔をした。
しかし、感情を昂らせることなく続けた。
「マモノ殲滅の方は」
「そちらは間違いなく成功すると見ていい。背後からマモノを攻撃し、ニンゲンと挟み撃ちすることで、撤退も支援も許さない」
「今のニンゲンの力で、マモノを抑えられるのか」
「監理の言った通り、彼らの中にはツォルンらを破った者がいる。ダメージはあるだろうが、ここで滅びてしまうような、やわな連中ではあるまい」
「——そうだな。彼らに期待しておこう」
世界は狭い……そう思っていた。
でも、今日の出来事でそれは一変した。
狭いのは「世界」ではなく、俺の「世間」だった。
白い少年と青年。それに、ユーリの記憶で見た自称・魔王もそうだ。
彼らは何者なんだろう。魔物ではないと言っていた。
かといって、人間でもなさそうだ。
人間と魔物の戦争に、第三勢力がある。
今はそうとしか言えない。
「ちょっと、轢かれるよ」
「ん? ああ、馬車か」
考え事をしながら往来を渡ろうとして、アイシャに止められた。
「どうしたの? ぼーっとして」
「ちょっと考え事をね」
「……気を付けてよね」
「すみませんでした」
やがて、馬車が俺たちの前を通過する。
「……貨物じゃないね」
「やけに豪華だったな」
王都が人を招く際に使う、
比較的豪華な座席車を引いている。
それには見覚えがある。
「もう一年くらいになるんだね」
俺とアイシャが、魔特班に新米騎士として配属されたのは、もう約一年前の事。
年々時間が速くなるように感じる……なんて、おじさんみたいな気になる。
「早いな」
「うん」
あの豪華な馬車に乗って王城に向かい、
数日後にお姉ちゃんやリーフさんと初めて顔を合わせた。
……馬車を見送り、俺たちは再び屋敷へと歩みを進めた。
空を見ると、月は新月。
何かこう、良くも悪くも、新しいことが始まる兆しを感じた。




