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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第10章 非情な契約者
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一緒にお出かけ

 今日は早めに起床です。なぜなら、期末テストが終わったので、朋美と一緒にショッピングに行くことなっているのです。

 女の子らしく、ネックレスや髪留め、それに服や下着も色々買いたい物があるからね。


 ふっふっ、もう私は隠さない。過去の女装癖の事は、施設の人や大好きな人に暴露したし、家族にもバレていた。望お姉ちゃんに問い詰めたら白状しましたからね。

 だからかな? 背中に生えている羽根が、今にも飛び立ちそうな位にパタパタと動いている。心にも羽根が生えたみたいに、軽やかな気分だね。


「それにしても、今日はあっついなぁ」


 今日は、もう7月に入ってから1週間がたつ。流石に、照りつける日差しも暑くなり、夏が来たという感じです。蝉はまだ鳴いていないけどね。 蝉さん、今年は遅いなぁ。お寝坊さんめ。


 さて、服装をどうしよう。暑いからって、キャミソールは私には向いていない。うん。やっぱり、半そでの淡い青のブラウスかな。

 下は、黒のフリルのスカート。にしたいだけど、ショッピングモールでそれは危ないかな。

 何がって? エスカレーターで上がってる時に、気をつけないと下から登ってくる人に見えちゃうのよ。押さえればいい話何だけど、会話に夢中になると気づかないからね。

 そうだなぁ、ちょっと裾の長いやつにしよう。膝丈の、同じく黒の普通のスカートにしました。


「ブヒブヒ……下着姿のままで服選び。良いですなぁ。やっぱり明奈ちゃん、最高です」


 えっと、サイコロ、サイコロ。ていっ。


『ブタお兄さん、今日一日本物のブタになる』


「ブヒャァァ!!」


 全く、女性の着替えを覗くとか最低ですよ。元男でだからって、今はもう完全に女の子なんだよ。そのはずなんだよ。

 そうやって、私は自分に言い聞かせていた。いい加減に完全に女性の精神になりたいのに、何故かまだ微妙に男性の精神が残っていたからです。


「わぁ! 何でこんな所にブタがいるの?!」


「あっ、望お姉ちゃん。それ、ブタお兄さんだから」


「あっ、じゃぁ。今日の晩御飯は、トンカツだね」


 望お姉ちゃんがそう言うと、ブタが物凄い勢いで走り出す音が聞こえる。自業自得です。その内、ほんとにトンカツにされますからね。

 そして、望お姉ちゃんが私の部屋に入ってきた。


「おはよう、明奈。また、朝から報道陣が押し寄せてるよ」


 またですか。あれから10日以上たつのに、しつこいですね。そして、暑い中ご苦労様です。

 私は、スカートに足を通し上に上げて位置を調節しながら、今日はどうやって追い払おうか考えていた。サイコロは、強力なのを1回使っちゃったしな。


 天使の力に覚醒してからというもの、サイコロや退魔の力を使っても、そんなに直ぐに縮んだりする事が無くなった。だからって、使い過ぎたら縮んじゃいます。

 多分、サイコロは後1回かな。効果が小さなものなら、2~3回はいけるかもしれない。退魔銃弾は5発って所かな。気をつけないとね。


「それよりも、明奈。随分と着替えが様になってきたね」


「そう?」


 考え事をしながらも、きっちりと私はお出かけファッションに着替えました。うん、完璧。寝癖もないし、化粧……は良いかな。ん~でも、ちょっとだけ。ファンデで肌を整える位にしておこうかな。


「完璧に女の子だ……」


「もう、女の子なんですぅ」


 失礼な事を言いますね。って、背中に何か視線が……。まさか、望お姉ちゃんがまた羽根を狙ってるな。そうはさせないよ。


「ほっ!」


「むっ!」


 私はお姉ちゃんの突撃を、バク転の様にくるりと1回転して回避した。100年早いですね。ファンデ終わってて良かったけど、何というか望お姉ちゃんは相変わらずですね。


「ほら、お姉ちゃん朝ごはんにするよ。私、今日友達と買い物に行くんだからね。待ち合わせの時間に遅れちゃうでしょ」


「……明奈ぁ。もう少し男っぽい明奈に戻ってくれる?」


「そんな器用な事出来ますか!」


 あ~もう。泣きながら近づいて来ないでよぉ! どっちがお姉ちゃん何だか分からないでしょうが。








「あ~、もうこんな時間じゃん」


 結局、朝ごはんの時にもお姉ちゃんがちょっかい出してくるもんだから、待ち合わせの時間を5分程オーバーしました。

 待ち合わせになっている、大型ショッピングモールの最寄り駅に到着した私は、女性用の腕時計を見ながら足早に駅の出入り口に向かう。そこで、待ち合わせになってるからね。


 そして、改札を出て出入り口に向かって歩き出すとすると、横から私を呼ぶ可愛らしい声が聞こえて来た。


「あっ! 明奈お姉ちゃん!」


 その声に気づき、私は声のする方を振り向いた。すると、そこには白い柄の入ったTシャツにミニスカートの姿で、サラサラの艶のある黒髪のロングヘアーに、リボンの付いたカチューシャを付け、綺麗に整った羽根を背中に生やした女の子が私に駆け寄ってくる。


「美奈ちゃん! 久しぶり! どうしたの? こんな所で?」


 すると、美奈ちゃんは満面の笑みで私を見る。何だか初めてあった時よりも、生き生きしているね。


「今日は朋美お姉ちゃんに、明奈お姉ちゃんと買い物に行くから来る? って誘われたの、それで着いてきたの」


「そっか、元気そうな姿を見られて良かったよ」


 私がそう言うと、美奈ちゃんが私の手を引いてくる。


「さっ、行こ。朋美お姉ちゃん待たしてるからね。美奈、我慢できなくて明奈お姉ちゃんを探しに行ってたんだよ」


 ちょっとちょっと、こんな小さな子が1人で行動するのは危ないんだよ。朋美はその辺りが抜けてるからな。


「美奈ちゃん、あんまり1人でうろうろするのは危ないよ」


「美奈、もう1人で色々出来るもん。大人の女性だもん」


 あらら。この歳の子は背伸びしたがるんだよね。私は、小さい頃は男の子だったけど、お姉ちゃんの小さい頃を見ているからね。あの頃のお姉ちゃんを見ているみたいで、何だか微笑ましいな。


「あれ? 朋美お姉ちゃん、誰かと話してる?」


 出入り口に近づくと、朋美の横に誰か知らない男の人がいた。どう見ても、知り合いじゃなそうですね。手を掴んで嫌がる朋美を無理やり引っ張っている。


 その格好は明るい茶色のウルフヘアーに、耳にピアスを付け、服装もジーパンにVネックのTシャツで、腕は太くて筋肉がある。だけど、チャラチャラとうるさそうな物が沢山ぶら下がっている。行動と服装から、一発でナンパ野郎だというのが分かった。

 その瞬間私は急ぎ足になり、朋美を助けようとする。


「なっ、良いだろう? 友達となんか遊ぶんじゃなくて、俺と遊ぼうぜぇ。新学期にクラスの皆に自慢出来るぞ」


「ちょっ、やめて……下さい。そんなつもり、ないですから」


 朋美はオドオドしながら、何とかナンパ男の手を振りほどこうとしている。しかし、振りほどけずにズリズリと引きずられていく。

 あ~もう。周りの人は何で見ているだけなのかな。スカートは、走りにくいんだよね。急ぎたいのに、急げないからもどかしい。


「なっ、なっ。決定決定! 行こう行こう! ホテルへレッツゴー」


「ちょ、いや……!」


 ヤバい。しかもあの男、よりにもよって駅の近くに自分の車を止めていた。車で連れて行かれたら万事休すじゃん。

 すると、その場にいた別の男性がその男の肩を掴んだ。


「あっ? 誰だお前? こいつの彼氏か?」


「いや、同じ学校の先輩だ。ただ、その子嫌がってんだろ。離せよ」


「あ、えっ? あなたは」


 ん? あの後ろ姿は。まさか、谷口先輩?!


「んだよ、彼氏じゃね~なら邪魔すんじゃね~よ。人の恋愛なんだから、勝手に茶々いれんじゃね~よ!」


 そのナンパ野郎は、物凄い形相で谷口先輩を睨んでいる。その姿から多分高校生じゃないと思う。大学生かな? とてもそうは見えないけどね。


「おいおい、日本語大丈夫か? そもそも恋愛にもなってないだろう」


「あぁ? うるせぇ!」


「っ……」


 うわっ、まさか殴るなんて。谷口先輩はナンパ男に顔面を追い切り殴られ、少しのけ反っていた。どれだけ力入れたの? あのナンパ野郎。

 そして、その時に口を切ったのかな。唇から血が出ている。とりあえず、私も急いで追いつかないと。


「単純だな。一応、これで正当防衛だから……な!」


「ぐっ……!!」


 あっ、私必要無かったっぽい。谷口先輩は、仕返しに思い切りナンパ男にボディブローを食らわせていた。

 ナンパ男は、たまらず膝を折り地面に手を付いていた。かっ、かっこいい。

 いやいや、感心している場合じゃなかった。私は、急いで朋美と谷口先輩の元に向かう。


「朋美!」


「朋美お姉ちゃん! 大丈夫?!」


「あ、明奈ちゃん。美奈ちゃん」


 やれやれ、良かったよ。私がもうちょっと早く家を出ていれば、こんな事にはならなかったのに。朋美ちゃんは、咄嗟に私達の元に駆け寄ってくると、怖かったのか私にしがみついてきた。

 あっ、そうだ。谷口先輩にお礼言わないと。谷口先輩が助けてくれなきゃ、連れ去られてたもんね。


「谷口先輩、ありがとうございました」


 そう言って、私は谷口先輩に深々と頭を下げる。


「あぁ、良いよ。君の親友だもんな。助けるのは当然さ」


 ほんとに、さらっとそう言う事言えるなんてね。そして、それを実行出来る力も持ってるときてる。パーフェクトじゃありませんか? この人。


「あっ、そうだ。口切れてますよ」


 私はそう言って、小さい肩掛けのポーチからハンカチを取り出して、谷口先輩の血を拭おうとした。


「あ~大丈夫大丈夫。君のハンカチの方が汚れるだろ」


 そう言って、谷口先輩は自分の袖口で唇の血を拭っている。そんなの、気にしなくても良いのに。


「君たちは、見た感じ買い物に行くんだろ? ほら、急いで行った行った」


 そう言って、谷口先輩は私達をその場から立ち去らせようとする。さっきのナンパ男、仲間でも居るのかな? 私達が着いたら、とっとと車で逃げていったけど? でも、あれ? なんだか人がゾロゾロと集まって……。

 その瞬間、私は自分の事を忘れていた事に気がついた。


「あぁ! し、しまった! そう言えば、私!」


「全く、明奈。君は今、有名人なんだ。少しは自覚した方がいいよ」


 そう、テレビの方はあれから取り上げられる頻度は落ちたものの、まだ私の話題はネットでは白熱していた。


「朋美ちゃん、美奈ちゃん行こ!」


 私は、朋美ちゃんと美奈ちゃんを急かす。だけど、朋美ちゃんは意外な事を口にした。


「谷口先輩も、私達とご一緒しませんか? やっぱり、女の子同士だと不安なんで」


「んっ?!」


 ちょっと! 何言ってるの朋美ちゃん。先輩、目が点になってますから。

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