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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第9章 新生するアイドル
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激動の後の一夜

 日も傾き、流石に暗くなり始めたので、私は施設の皆に挨拶をして帰ることにした。

 最初に送って貰った車で、谷口先輩と一緒に帰っています。他の2人は、施設でまだやることがあるって言って残りました。

 何だか、気まずいのですが。だって、ねぇ。キスしちゃって……あぁ、思い出したら顔が熱くなってきたよ。


「どうしたんだ? 明奈。顔赤いぞ」


「言わないで下さい。分かってますから」


 言われたら、更に意識しちゃうから止めて欲しいな。純粋に心配しているだけなんだろうけどね。

 すると、急に私のおでこに谷口先輩が手を当てて、更に自分の額にも手を当てる。そうです、いきなりこの人は私の熱を計りだしました。びっくりして、体が強ばっちゃったよ。


「あの、先輩。そんなベタな事は止めてくれます? 分かってやってますよね?」


「はは、バレたか。キスの事思い出して顔を赤くしちゃうくらいに、ウブなんだな明奈は」


 あ~もう。でもなぁ。この人は、多分したことあるんだろうな。あんなに上手だっからね。あ~モヤモヤする。

 すると、突然車が停車したので窓を見ると、私の家が見えた。考え事している間に着いちゃいました。

 そして、また運転手の方が後部座席に回り込んで来て扉を開ける。この人達は、タクシーの自動扉とか羨ましいんだろうな。

 

 私が降りると、運転手は扉を閉めてまた運転席に戻る。ほんとにご苦労様です。この人、マネージャーでもあるのかな?

 あれ、だったら他の2人も帰る時になったら、迎えに行かなきゃだよね。それとも、他にもマネージャー居るのかな?


「明奈。詳しい事はまた今度話すよ。今日はごめんな、お休み」


 谷口先輩は、後部座席の窓から顔を出し、私が考えていたことが分かっていたかの様な言葉の後に、私のアゴを持つと谷口先輩の方に引き寄せられる。そして、そのままほっぺにキスされました。


 その後、谷口先輩はにこやな笑顔で手を振り後部座席に引っ込むと、車が発進して谷口先輩の家に向かっていく。歩いても行ける帰れる様な距離なのに、ちゃんと送るんだね。

 それよりも、油断したよ。あの先輩はほんとに隙あらば、私に何かしてくるね。

 私は、キスされた方の頬に手を当て、呆然としながら突っ立て居た。でも、このまま突っ立ていてもしょうが無いからね。


「ただいま~」


 色々思うところはあるけれど、とにかく今日の事は両親に……。


「明奈ちゃん~おかえり~!」


「飛びつくな! ブタお兄さん!」


「ブグッ!!」


 私が家に入ると、ブタお兄さんがいきなり飛びつくから、思い切り顔面に蹴りを入れてしまいました。しかも、ど真ん中に。汚いなぁもう。


「明奈。おかえり~遅かったね?」


「ん。ちょっと、その事で話すことがあるの。それより、ブタお兄さんは何で居るの?」


「ブヒヒ、模範奴隷の称号を貰えたので。自由に家に帰れる様になりました。でも、女王様に呼ばれたらすぐに行かないと」


 何それ。称号って、奴隷にそんな物があってどうするのよ。どちらにしても、嫌な人が帰って来たということか。また部屋の施錠は、しっかりしておかないとね。


「で? 明奈。話って?」


「あっ、そうだね。でも、先に着替えてくるね」


 そして、私は直ぐに自分の部屋に行き、カバンを机の近くの床に放り投げて、着替える為に制服を脱ごうと手をかけた時。そこに、居てはいけないものを見てしまった。


「ブヒヒ。明奈ちゃん、ちょっと成長したんじやない? 胸も少し大きくなっているし、顔つきも……」


「出てけぇ!!」


「ブヒィ! 軍曹~女王様~やっぱり、ここが僕の楽園(エデン)で~す」


 いたた。殴るのに結構力が入りましたね。ブタお兄さんめ、少しパワーアップしてるじゃん。ダメな方にだけどね。








 そして夕飯の時間になり、私は夕食を食べながら今日の事を話した。

両親は、私の話が終わるまでただ静かに聞いていた。

 話終わった後、お父さんはテレビをつけてニュース番組にチャンネルを合わすと、私に今の現状を説明してきた。


「さすがに、今朝迷惑をかけたから、今日の夜は報道陣はいなかったが。また明日の朝からは騒がしいだろうな」


 今日の全てのニュース番組は、『スター・エンジェルズ』の事ばかりやっていた様です。彼らと私との接点を、ニュースキャスターがひたすらに熱弁していますね。

 それほどに『スター・エンジェルズ』は人気なんです。コンサートに行った時も分かったけれど、だいたい一万人以上は絶対に集まるの。


「お前が決めたのなら、俺達はそれを応援するしか出来ない。どっちにしろ、世間はもうミカエルの後任が明奈になっているからな」


「ブヒ、ブヒ、ぼ、僕の明奈ちゃんが。天使のアイドルに、た、たまらん~! ゴフ! う、裏拳……がくっ」


 ちょっと、黙っていて下さいね、ブタお兄さん。今度発情したら、100%の力で頭吹き飛ばしますよ。


「ねぇ、お母さん。望お姉ちゃん。今、私に対しての批判はどれだけ来てる?」


 私は、真剣な顔で今気になってる事を聞いてみた。だって、元男だよ。ネットの掲示板利用者にとっては良いネタじゃん。バシバシ叩いている事でしょうね。


「だいたい想像通りだよ、明奈。見ない方がいいよ」


「そっか、ありがとう。望お姉ちゃん」


 多分、望お姉ちゃんは真っ先に、パソコンで色々情報収集してくれたんだろうね。


「それでも、あなたはやるのね? 明奈」


「うん、お母さん。でも、最初の内はもしかしたら……」


 すると、2階のリビングの窓に何かが当てらた音がする。良く見ると、生ゴミ見たいな物が家に向かって投げられていた。


「ふぅ。お昼頃からだけど、もう何度目かしらね」


 そう言って、お母さんが台所に行き雑巾を持ってくると、窓に近づきゴミを処理し始める。

 そして、申し訳なさそうにしている私に向かって、お父さんが私を安心させようとしてくる。


「明奈、大丈夫だ。警察にも連絡しているし、巡回はして貰っている」


「皆、ごめん。私が、何とかしないとね」


 それでも、私は家族に迷惑をかける事が心苦しいかった。早く何とかしないと、そういう思いでいっぱいになっていた。


 そんな中、1つのニュースが私の目に飛び込んできた。恐らく、『スター・エンジェルズ』絡みで、『天使の羽根症候群』の事もやっていたのだけど、問題はそれの原因を解明しようとしていた、この街の医者の事。

 そう、私も一番最初にそこで診察をしてもらった、あの医者の事だった。


『――と言うわけでして、今朝から連絡がとれず行方が分からなくなっている、この医者ですが。天使の羽根症候群の第一人者でもあり、今回のミカエルさん脱退の件との関連性を――』


「む……あの医者が行方不明? どういう事だ」


 お父さんは、私が真剣にニュース見ていたので気になった様です。


「この人、天使ウイルスまでは突き止めていた。でも、その事を発表しなかった。いや、発表しようとしていたら何者かに捕まったのかな?」


 何だか、非常に嫌な予感がしてくる。私の事についてのネット掲示板の荒れよう、この医者の事、そして市がNPO法人の施設すら潰そうとした事。

 何かが、私達の知らない所で動いている。それは、個人なのか組織でなのかは分からない。でも、相当の権力を持ち人脈も広く持ってい様に思える。


「明奈。今は自分の事と自分の両手で守れる人だけを守りなさい。あれもこれもと、一度に守ろうとしたら取りこぼすわよ」


 掃除を終えたお母さんが、私の肩にそっと手を置いた。ちゃんと、手は洗いましたよね? 洗っていなかったら許しませんよ。

 でも、確かにお母さんの言う通りです。今は、自分が守れる人だけを守ろう。


「明奈ちゃん。大丈夫! ネットで僕の明奈ちゃんをいじめる奴は、僕が消してやる。ブヒヒ」


 そう言うと、ブタお兄さんはノートパソコンを取り出し何か作業をし始める。ブツブツと呟きながらなので、ちょっと怖いです。この人、パソコンのスキルそんなにあったっけ?


「ブヒヒ。先ずは、このソフトで掲示板の奴らのパソコンに……ブツブツ。そして、こいつでウイルスを作成。ブヒヒ。さぁ、感染させて……」


「シッ!!」


 バキィ!!


「ブヒィ!! 僕のパソコンがぁ!!」


「犯罪は、ダメですよ。ブタお兄さん」


 咄嗟に、パソコンと一緒に証拠隠滅しました。危ない危ない、作っただけで捕まえるからね。


「あれ? 明奈、壊しちゃったの? せっかく、ブタ箱に放り込もうと思ったのに」


 そう言いながら、望お姉ちゃんが家の電話の受話器を取り、どこかに電話しようとしていた。いや、多分警察に電話しようとしたんだろうね。そして、そこで私は自分のやった事を後悔した。


「あっ、そっか。そのままにしておいて、警察に通報したら、ブタお兄さん逮捕じゃん。こいつから解放されるじゃん。やっちゃったぁ!!」


 スパーン!!


 スパーン!!


「あいたぁ!!」


「あぅ!」


 そんなことを望お姉ちゃんと話していると、後頭部に何か衝撃が走った。そう、お母さんが私達をハリセンで叩いたのです。

 さ、さすが元祖ハリセン女王のお母様。手首のスナップを効かせて、しなやかにうってくるからめちゃくちゃ痛い。


「あなた達、守に対しての風当たりの強さは対外許すけど、流石に今のはダメよ」


「お、お母様……」


 ブタお兄さんが、助けてくれたお母さんに対して涙を流して感激している。そりゃ、実の息子だもん。そうなるよね。


「守。あなもやり過ぎよ。ちょっと女王仲間の綾子ちゃんに連絡するから、たっぷりと絞られて来なさい」


「ひぃぃいい!! それだけはぁあ!!」


 あっ、天国から地獄。まさにそんな風な表情を見せて、ブタお兄さんは絶望していた。

 それよりも、お母さん。いつの間に綾子と仲良くなっているのですか。同じ女王同士同盟でも結んだのでしょうか?


 こうして、変わったような変わらないような、そんないつもの夜が更けていく。家の外の電柱の上に、変な気配を感じるけど悪魔ではなさそうだし。大丈夫だよね。

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