表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスト・エンジェル  作者: yukke
第9章 新生するアイドル
90/130

この想いは何?

 私は、施設のホールから続いている廊下を進んでいく。

ちょっと入り組んだ感じが何とも病院っぽかった。


 すると、左手に大きな部屋がありそこの扉が開いていた。

私はその部屋を覗いて見る。

そこは、どうやらプレイルーム見たいになっていて、中に入ると周りの音が少し静かになった感じがする。どうやら、防音をしているようだね。

その事から、ここは歌の練習や音楽の練習をする場所にしているみたい。


 そして、その部屋の端に置いてあるテーブルに、突っ伏す様にしている真希ちゃんの姿を見つけた。

私は、そっと近づいて行く。多分、気づいているハズなんだけどな。


「何?」


 やっぱりね。ただ、反応が遅かったから気づいていないのかと思ったよ。


「真希ちゃん、私は別に気にしてないよ。それに、真希ちゃんが言った事は、当たり前の事だよ」


 私のその言葉に、真希ちゃんはちょっとだけ体が動いた。

でも、まだ顔を上げないね。う~ん。


「ほんとに、気にしてないの? 嘘つかないでも良いよ」


 あらら。思った以上に、真希ちゃんが自分で言った事を気にしちゃってるね。


「だって、私は自分の正体を明かした時、絶対に真希ちゃんが言ったことを、友達から言われるだろうなって思ったからね。でも、あの人はいつも通りだった。ううん、私の周りの人達全員がそうだった。変なんだよ、皆」


「変? そうだよ、ね。翔さん変だよね」


 おっ、ちょっと食いついたかな。


「うん、変だよあの人は。バカみたいに良い人で、皆を助けようとする」


「でも、その姿が格好いいから皆惹かれる」


「うん、そうだね」


 やっぱり、この子は私以上に谷口先輩を見ているんだ。

どれだけ一緒に居たかは分からないけれど、多分どんなに小さな事でも見逃さない位に、見ていたんじゃないかな。

そんなに、一途に人を想えるのは少し羨ましいな。


 私が男の時は、他人を勝手に評価し決めつけていた。

だから、好きな女性なんか出来なかった。


「ねぇ? 明奈も、そんな翔さんに惹かれたんでしょ?」


「えっ?! あっ、えっと……」


 うう~ん。困ったな。変な事を考えていたせいで、何だか答え辛いや。


「ちゃんと言って」


 に、逃げられ無いのかな。これは。

ん~、しょうがないなぁ。答えるとしたら多分……。


「う、うん。惹かれてます」


「好きなの?」


 まだ追及するの? ねぇ、ほんと止めて。さっき言った事ですら、顔が熱くなっていて、自分でもどんな顔になっているか分かるんだよね。


「ねぇ、はっきり言って。好きなの」


 うぐぐ、ダメか。これも逃げられない。そして、多分真希ちゃんの雰囲気からして、 誤魔化しもきかなさそう。

良く考えて答えないと。


 でも、さっきの胸の痛みからして間違いない。

それは、もう完全に女の子の性質なのだから。

いや、完全な女の子になったからこそ、この気持ちが何なのかだいたい予想がつく。


「うん、好きだよ。私は、谷口先輩が好き。でも、ごめんね。まだちょっと自分の気持ちに整理がついていないんだ。異性として好きなのか、友達の好きなのか。それがちょっと分からないの」


 それでも、多分異性として好きなのかなって、そう思っている。

でも、まだ自信がない。そんな思いがあったから、私はこんな中途半端な答えになってしまった。


 すると、真希ちゃんはいきなり顔を上げて私を見ると、私に向かって叫んでくる。


「もう! さっきここに入ってきた時に、翔さんにぴったりとひっついていたでしょうが。認めないさいよ!」


「え、えぇ!! そ、そうだった?」


 あ、あれ~? おっかしいな。そんなつもり無かったのに、無意識って怖い。


「それに、翔さんの事になると、そんなに顔真っ赤になってたら誰だって気づくわよ! それなのに、本人が自覚ないって信じられないわよ! 元男だからなの? ねぇ!」


「あぅぅ、そ、そんなに責めないで。恋愛なんてしたことないから、分かんないないんだよ」


 それよりも、やっぱりこの子強気な子だね。

多分年上であろう、私に対して結構口うるさくと言ってくるよね。


「はい、そこに正座! で、どうなの? 翔さんを異性として好きなの?」


「うぐ……うぅぅ」


 何これ? この子を元気づけるはずが、私が尋問受けてる?

何で、こうなったの? とりあえず私は大人しく正座して、彼女の質問に答えるしかなかった。


「えっと、あの……うん。異性として好き……です」


 今、絶対に頭から湯気が出ています。さっきより更に顔が熱いんだもん。


「そう言えば良いのよ。私なんかより、チャンスがあるんだもん」


「えっ? でも、真希ちゃんも眼鏡取ったらそこそこ可愛いんじゃ」


 そう、眼鏡の奥にある目は一重ながらにパッチリした目で、悪くはないと思う。

でも、なぜか彼女はそれが気に入らなかったのか、ちょっと不機嫌になっていた。


「ん、私ね片目があんまり見えないの」


「えっ?! あっ! ごめん」


「何謝ってるの? 私達、初めて会ったんだからしょうがないでしょ」


 それはその通り何だけどね。条件反射だよね、ほんと。


「ついでにね、私は汚れてるのよ……」


 彼女の雰囲気からして、これは余り言いたくない事じゃないのかな?

でも、頑張って話そうとしているなら、自分の闇と戦おうとしているなら、応援してあげたくもなる。


「あっ、あんまり無理しなくても良いよ」


 それでも、これは言っちゃうよね。誰でも、こう言うよね。

それでも、真希ちゃんは首を横に振り話し始めた。


「私ね……父親に、強姦されたのよ」


「……」


 私は、何て言ったら良いか分からなかった。

でも、さすがにそれを言うのはキツいんじゃないかな。最大級のトラウマじゃん。

これ以上は、止めてあげた方が良いかも。


「ごめん、分かったから。話さなくても良いから」


「はぁ……はぁ。ダメ、あなたはちゃんと自分と向きあったでしょ? 私は、あなたがそんなに強い人だとは、思わなかったわよ。ま、負けてられないの。やっぱり翔さんを取られたくない! でも、こんな汚い体じゃ見てくれない!」


 ダメだ、パニックになっている何とか落ち着かせないと。

たくさん涙を流して、嗚咽しながらそんな事言われてもだよ真希ちゃん。


「落ち着いて、そんなに意固地にならなくて良いから! あなたが、どれだけ谷口先輩の事が好きか分かったから」


 私は気づいたら立ち上がり、彼女の肩を掴んでいた。

これ以上はダメだ、人生最大のトラウマなんて、そんな簡単に話せるもんじゃない。


「だって、だって……このままじゃ翔さんに嫌われる。私は、あなたみたいに綺麗じゃないんだよ! 沢山の男に汚されたのよ! 父親が、私を他の男に売りまくったんだから!! ビデオだって沢山撮られて、沢山売られたわ!」


 それは、売春ってやつ? ほんとにダメそれ。

そんな酷い仕打ちを受けた子まで居たなんて。いや、気づかない振りをしていた、見ないようにしていた。この羽根が生えるという事態を、どこか楽観的に見ていた。


「真希ちゃん、落ち着いて!」


 私は、咄嗟に真希ちゃんに抱きついた。

すると、真希ちゃんはようやく喋るのを止めた。


「分かったから、もう十分に分かったから」


「うっ、うぐ……ごめんなさい、酷い事言って。私、なんであんな事を」


「良いよ、気にしてないって。それに、好きな人を取られるかもって思っちゃうと、思ってもいないことを言っちゃうよね。私も、多分真希ちゃんと同じ事すると思うよ」


 そして、少しずつ真希ちゃんは落ち着きを取り戻していく。

彼女の片目が見えないって事も、多分それに関係しているんだろうね。


「ん……やっぱり、それだけ綺麗で優しいんだから、翔さんもあなたに……」


「ん~、私もあんまり綺麗じゃないかも。この黒い羽根はね、私の性格が悪いから黒いんだよね」


「えっ? そうなの?! こんなに綺麗なのに?」


「綺麗でもね、誰にだって心に闇があるんだよ。男女で誰がお似合いかなんて、そんなのは他人が決める事じゃないよ」


 私は、そう言って真希ちゃんの顔をしっかりと見て言った。

正直言って、初対面の私にこんな事まで言うのはおかしいだろうけど、そこまで谷口先輩の事が好きなんだね。

絶対に、取られたくなかったんだね。


「大丈夫、谷口先輩はそれくらいであなたの事、嫌いになんかならないでしょ?」


「う、うん」


「私だって、想いを伝えて無いんだもん。真希ちゃんにもチャンスはあるよ」


 私は、そう言って元気づけようとしたけど、言った後に後悔した。


「何言ってるの、谷口先輩はあなたの事が好きなんだよ。もう今すぐ告ってきなさいよ!」


 あぁぁ、忘れていました。失念していました。地雷踏んじゃった!

そのまま真希ちゃんは、私の手を取って引きずる様にして、谷口先輩の居るさっきのホールに連れて行こうとしてくる。


「待って待って! 心の準備と言うか、今はそれどころじゃないというか。とにかく、まだダメ!」


 私は、扉に捕まって必死に抵抗する。

そりゃ、羽根生やしてるし超パワー使えるけど、この子が怪我するからね。


 ダメだ、この扉は掴みにくかったです。

そのまま扉から手が離れてしまい、私はズルズルと引きずられていく。

そして、遂にホールにたどり着いてしまう。


「翔さ~ん。話し……がっ?!」


 ん? 今のアヒルの様な声は何?

そう思って私もホールの机に目をやると、そこにはもう1人、私達と変わらない歳の女の子が、谷口先輩にくっついていた。


 いや、谷口先輩も谷口先輩だよ。全然、嫌がらずに相手しているしね。

ふつふつと込み上げるこの気持ちはは何だろう。


「ちょっと、あなた! 何、翔さんにひっついているの!」


「え~だって~いつも、あなたと一緒にいるんだもん、たまには良いじゃ~ん」


 垂れ目で、セミロングの髪にパーマをかけるなんて、自分がどうすれば可愛くなれるのかを、よく知っているみたいだね。


「ちょ、ちょっと待て。俺はな、皆と仲良く接して傷を癒やしてあげるために」


「でも、そんなにひっつかなくても良いでしょ? 翔さん!」


「いや、だからな……って、待て明奈! 何だ、それは!」


「ん~? ちょっと、力を使って作った特製ハリセン」


 堕天使の力って便利だなって、そう思ったらだめだけどね。

でも、今はちょっと感謝しとこう。


「谷口先輩」


 にっこり笑顔は大事だよね。でも、谷口先輩怖がってるね。おかしいな?


「お、おう。頼む明奈、それは片付けてくれ」


有罪(ギルティ)!!」


 スパーン!!


 谷口先輩の頭に炸裂したハリセンの音は、軽快にホールに鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ