重要な事
放課後になり、部室へと向かう廊下を朋美と喋りながら歩いている。
そこに何故か綾子も居るけどね。
「そっか~だから、柳田先生は帰りのHRの時、あんなに顔が腫れていたのね~」
そうです。私が 7股してるとか誤解を与えたものだから、鷹西先生から往復百列ビンタを受けていました。
もちろん、誤解はちゃんと解いておいたよ。
柳田先生も、これで懲りて欲しいことを願うよ。
「ごめんね、お昼一緒に食べれなくて~」
「別に、良いよ。昔の友達だもんね」
朋美が、笑顔でそう返してくる。ほんとに良い子過ぎるよ。
そして、綾子は何で着いてきているのかな。後で、聞いてみないとね。
「えっと、綾子は何で着いてきているの?」
「あら? 親友の行くところ、私も行くに決まっているでしょう?」
おかしいですよその発想。まさか、綾子……。
「綾子、他に友達居ないの?」
「うぐっ! いえ、その……明奈以外にも友達を作ろうと、声をかけては居るのですが。皆さん、蜘蛛の子を散らすかのように去って行くのですわ。私がお金持ちだからです?!」
「そうね。まずブタお兄さんから降りようか」
そうです、綾子は学校にも何処へ行くにも、ブタお兄さんを連れているのです。
あっ、今まではその存在を無視していたけど、さすがにブヒブヒとうるさいので、家に閉じ込めておいて欲しいです。
「綾子ちゃん。さすがに、そんなのに乗っていると皆怖がっちゃうよ」
“そんなの”ですか。ブタお兄さんの存在意義はどこに?
何で、こうなったのかな? あ、ブタお兄さんの目から涙が。
「マルはペットですのに……」
「うん……えっと」
さすがに、朋美も何と言おうか迷っているようです。
凄く困った顔をしている。そうこうしている内に、部室に着いちゃうよ。
すると、廊下の先に見えて来た部室に、何と人だかりが出来ている。
お目手は私だろう。やはり、メディアの威力は強大だと言うことなのですね。
「あっ! 橋田さん、来た!!」
「ねぇねぇ、『スター・エンジェルズ』のミカエルと面識があったの?!」
「橋田さんが、次のリーダーになるのか? すっげ! 今のうちにサイン貰って良い?」
「なぁ、他のメンバーとも知り合いのか?!」
うわぉ、思った以上に鬱陶しいです。
どうしましょう。ほんとにあっという間に私の周りに人が集まって来て、私を埋め尽くしたから、逃げようにも逃げられなかった。
「あっ、ちょっと待ってよ。私もまだよく分かってないの!」
そう皆に言っても、皆退かないですよ。朋美も綾子も押し出されちゃって、ポカーンとしてます。
綾子に関しては、ブタお兄さんが吹き飛ばされたと言った方がいいけどね。
それにしても、皆さん「なぁなぁ」「ねぇねぇ」うるさいです。
動物ですか? あなた達は。
すると、部室の入口から吉川先輩とが出てきて一喝してきた。
「こらぁ!! いい加減、部活動の邪魔をするなぁ!!」
その瞬間、皆の質問責めが止んで一旦静かになる。
だけど、その後皆も負けじと言い返す。
「だけどよぉ、吉川。こんなチャンス滅多に無いだろう。正式に『スター・エンジェルズ』に入ったら中々会えなくなるだろうし、仲良く出来なくなるかも知れないだろう?」
「あのねぇ、一番振り回されているのは、明奈だって事が分からないの? もし、これがもっと前に分かっていたことなら、こうやって普通に学校に来ないでしょうが! 少しは気を遣いな!」
その吉川先輩のその言葉は、皆の胸に深く刺さったらしく、全員が申し訳なさそうな顔になっていた。
「ほら、明奈。それにあなた達も。部室に入りなさい。後は亜希子に任して」
「あ、うん」
そう言って私は、皆の中から脱出して部室に向かう。
でも、一言くらいは居るかな。
「皆、ごめんなさい。ほんとに私も急な事で戸惑ってるの。もし、何か分かったらいち早く皆に報告するから」
そして朋美と綾子と一緒に部室に入っていく。
あっ、でも。綾子がブタお兄さんと一緒に入ろうとする。
「ちょっと待って、綾子。ブタお兄さんは廊下に繋いどいて」
「あら、そうでしたわね」
そして、綾子はブタお兄さんから降りて、首に繋いだリードを部室の廊下側の窓に括り付けた。
と言うことは、そこは開けっ放しになるのかな?
私が部室に入った後も、吉川先輩は皆に色々と何か言っているようです。
「災難だったわね、明奈さん」
私が席に着いたところで、神森先輩が私にそう言ってくる。
災難という以外に何か他の言い方でもあるのかなって、疑問になるくらいの災難ですよ。まごう事無き、災難です。
そして、私は部室を見渡してある人物を探す。
でも、その人は見当たらなかった。でも、本棚にあるビデオの数がまた増えてる。後でチェックしておきましょう。
それよりも……。
「あの、谷口先輩は?」
「翔なら、マスコミに引っ張りだこよ。当たり前でしょ」
廊下にいる生徒達を何とか追い払った吉川先輩が、部室に入るなり私の質問に答えてくる。
やっぱりそうか。あれ? でも。
「やっぱり、2人も知ってたんだ……」
「当たり前よ~幼なじみだからね。おやおや? 明奈と翔だけの秘密。とか、思ってた~」
「はぅあ?! そ、そそそそんなじゃない!」
でも、すいません。ビンゴです。
慌て過ぎてるから、絶対にバレてるよねこれ。
「ついでに、羽根の事も知ってるからね~」
「吉川先輩、トドメ刺さないで。分かりましたから」
遊んでるよねこの人。
こんな事態なのに、全くもう。
「それよりも、明奈さん。この前もお見受けしたのだけれど。そちらの友達の方ってまさか……」
神森先輩が、綾子に顔を向けると私に確認をとってくる。
そうだった、この子もある意味有名人だしね。
「えぇ、そうですわよ。宝条綾子です。私も、明奈の居るこの部活に入ろうと思いまして」
「ぜひ、入部して下さい! 金づ……ぶっ?!」
吉川先輩、言っちゃいけないですよねそれは。
神森先輩が殴る前に、私が堕天使の力でハンマーを出現させて殴っておきました。
「あら? 明奈、こちらの部活は部費が余り出て居ないのですか?」
「ん~部長がこんな人だしねぇ、顧問になった鷹西先生も、部活の顧問なんて初めてやるみたいで、色々と戸惑っているみたいだしね。あまり上手くいっていないんだよね」
すると、綾子はとんでもない事を言い出した。
「そうですか、なら任せて下さいませ! 私が計画しているものは、この映画部が無ければ、成り立ちません! あのニュースを見て、私は今がチャンスと思ったのです。この子を見たときから計画していたプロジェクトを、今こそ開始するときですわ! 『明奈アイドルデビュー』プロジェクトを!!」
「はぁ~?! 綾子、待って!! 何言ってるの?!」
アイドルデビュー?! 私が?! 無理だって!
いや、でも『スター・エンジェルズ』を継ぐ事になっているから、アイドルにならなきゃならない? あれ、でも『スター・エンジェルズ』のマネージャーは?
だから、それを知りたくて谷口先輩に会おうとしたのに、あの人もまともに動けないなんて。
「おぉぉ!! 良いねそれ!」
「吉川先輩、食い付かないで! 話がややこしくなるから!」
「お金に糸目は付けませんわよ! 何たって私は、スポンサーです! そして、映画部のあなた達の力を結集して、明奈を『スター・エンジェルズ』に相応しいアイドルに仕立て上げなさい!」
あっ、そう言うことですか。いや、そうじゃなくて!
そもそも私はまだやるとは言ってないよ。どんどん、私は逃げ場が無くなっていませんか?
「綾子さん。分かりました……とにかく、落ち着いて下さい」
良かった。神森先輩だけは、冷静でした。
そうそう、高校生が出来る事なんてたかが知れて……。
「あなたの入部を許可します。そして、映画部史上初のこの大仕事を映画部全員の力を結集させて、必ず完遂させます!」
ダメでした!! 神森先輩も、目が陶酔しきっています。
そして、呆然とする私の横で朋美が柔らかな笑顔を私に向けている。
もう、助けてくれるのはこの子だけかも。
「明奈ちゃん。頑張ろう、私も応援するから」
そうですよね。これが、普通の答えでした。
私はため息をついてうなだれた。こんな事になるなんて、想像もしていなかったです。
「何言ってるのですか? 朋美、あなたも学園アイドルとして明奈とデュエットでもしなさいな」
「えぇぇ?! 何で、私まで?!」
白と黒の天使のデュエット。それだけで、かなりのインパクトがあるよね。綾子は最初から、朋美ともそのつもりで友達になったみたいですね。この人、なかなかの策士かも。
でも、朋美には決定的にダメな部分がある。
「綾子、朋美にはね。こんな弱点があるの。朋美、ちょっとアカペラで歌ってみて」
「えぇ? でも、明奈ちゃんに練習付き合ってくれていても私全然……」
「良いから」
そして、朋美は観念して歌い出した。
もちろん、私は耳を塞いでおります。
数分後。そこは死屍累々、部室は一気に静かになりました。
全然直ってないの、朋美の音痴がね……。
あれから、ちょくちょく練習に付き合ってるのだけど直らないの。
「明奈ちゃ~ん」
泣きながら、私にすがりつかれてもなぁ。
綾子も、倒れちゃってるし。さすがに、予定外じゃないかな?
そして、それと同時に私はもう一つの不安材料が、頭を過ぎっていた。
そう、山本先輩があれから姿を見せていないのです。学校にも来ていないとの事。
いったい何があったのかな……。




