風邪の看病
翌朝、私は怠くて布団の中か出られません。
そうです、風邪を引きました。
もうね、原因は分かっています。昨日、川に放り投げられたからです。
あの後、皆で川で遊びまくっていましたよ。
もう、それこそ女子も下着見えてもお構いなし。
気にしようよって注意したんだけどね。テンションが異常だったらしいです。
もちろん、その後現れた両親に注意されました。先生も一緒にね。
まぁ、両親も私の為にやった事と分かったので、そこまでキツくは言わなかったけどね。
そして、その日の夜怠さがずっとあって、もしかして今回の退魔の力を使ったリスクがこれ? って思ったけれど、熱を測ると38度もありました。単純に風邪でした。
ついでに今回は記憶を失っていません。つまり、リスクが発生していないということです。
それはそれで良かったよ。
「明奈。大丈夫?」
そう言って、望お姉ちゃんが私の部屋に入ってくる。
今日は付きっきりで看病するつもりらしく、ラフな格好をしている。
「う~、怠くて起きられない。ケホ、ケホ」
ついでに、喉も痛くて咳もでるの。
子供かっての私は。あっ、子供でした。
「まぁ、今日が休日で良かったね~」
お姉ちゃん、絶対わざと言ってるよね?
「せっかくの休日がぁ……潰れるなんてぇ」
「でも、休み明けからテスト期間でしょ?」
また、嫌な事を思い出させ……あっ、この感覚は。
「お、お姉ちゃん……」
「何? 明奈」
「きちゃった」
「へ? 何が?」
お姉ちゃん、絶対にわざとだよね? ねぇ、わざとだよね?
「あの日だよ。ほら、女の子の……」
「えっ?! その体になってもあるの?!」
「早い子は、もうきてるでしょうがぁ!」
だいたい、早い子なら10歳からくるこも居てるからね。
お姉ちゃんより、私の方が詳しくてどうするの。
「あぁ、そうだったね。いや、リスク負ってる常態だから無いのかと思って」
「そんなわけないからね。いたた……」
大きい声出させないでほしいな。風邪引いてる時に来るなんて最低。空気読んでよ……。
「お、お姉ちゃん。薬……」
「残念、風邪薬と生理痛薬は併用出来ないからね? 風邪を治す事を優先して下さい」
「えっ? ま、まさか……」
でも、よく考えたらそうだよね。併用出来ないよね。
簡単に言うと、風邪薬と痛み止めを併用するようなものだからね。
「時間を空けないとね。それまでは生理痛は我慢しなさい」
「そ、そんなぁ……」
こんな時に限って地獄ですよ。
ソロモンの悪魔と対峙した時よりも、絶望しています。
「とりあえず、ご飯少しでも良いから食べとかないとね。お粥でいい?」
「それしか食べられません」
「だよね。ちょっと待っててね、お母さんに言ってくる」
そう言って、お姉ちゃんは部屋を出て1階に降りていく。
その時、何かが階段からずり落ちる音と、激しい物音がしたのは気のせいだよね。
お姉ちゃんは、普通に階段から降りていだけなのに、何でずり落ちるのかな?
それからしばらくして、お姉ちゃんはお盆にお粥と薬を持って、再び部屋にやって来た。
「お待たせ~」
「今度は落ちなかったね」
「な、何の事?」
目を泳がせてもバレてますよ。
それよりも、この場合。先に痛み止め飲みたいかも。我慢出来そうにないよ。
「ねぇ、お姉ちゃん。これ、風邪薬よりも……」
「風邪薬が先です」
「はい……」
望お姉ちゃんは、ほんとに私のお姉ちゃんらしくなってきちゃったよ。
寂しいような、うれしいような複雑な気分だな。
「ほら、先ずは食べちゃいなって」
そう言って、お姉ちゃんはレンゲでお粥をすくい、息を吹きかけて少し冷ましてくれて、ゆっくりと口元に……ってこれって。
「はい、あ~ん」
「自分で食べられるってば」
これは、流石に恥ずかしいってば。
姉妹でやることではないでしょうに。
「良いから。はい、あ~ん」
し、しつこいです。やらなきゃダメなのですか?
むぐぐ、しょうがないなぁもう!
「んっ!」
私は顔を真っ赤にしながら、お姉ちゃんの差し出したお粥を食べる。ほんとに、恥ずかしいんだもん。
そして、お姉ちゃんは何故か嬉しそうにしている。後、体も震えて何かを我慢しているように思えます。
「あ、明奈。可愛い~はい、もう一回。あ~ん」
遊んでますよね? 遊んでますよね、これは絶対に。
でも、実際体が余り動かせず、起こすだけで精一杯なんです。
恥ずかしくても、お姉ちゃんに食べさせて貰うしかなかった。
「さて、薬も飲んだし。後は、ゆっくりと寝ときなさい。お昼ごはんの時に、痛み止め持ってくるからね」
「は~い……」
体が怠い、喉が痛くて咳も出て、しかも女の子の日まで重なるという悲劇。
今日は厄日ですか。何もせずに寝ておくべきですね。
しかし、何で女の子の日なんて私何かにも、あるのかな?
いや、もちろん体が完全に女の子何だからね。でも、これがあるという事は、子供も産める体ということだよね。
あっ、嫌な事に気づいてしまった。
つまり、いつかは私も男性に……。
「はぅあ?!」
私は、変な声を上げて布団を頭から被った。
でも、私は完全に女性になるんだ。つまり、男性に好意を持ちそして、そういう事もしていく事になる。
でも、好きな人となら……。
私はそこで、谷口先輩の顔が浮かんでしまい、布団を頭から被ったまま寝る事にした。
でも、朝からマスコミの人達が玄関先でうるさくしているものだから、寝るに寝られないかも。
両親がマスコミの人達に、これ以上来ないようにと説得しているようだけれど、多分無理だよ。
報道関係者は、それでごはん食べてるんだもん必死だよ。
とにかく私は、体の怠さとお腹の痛みで寝るに寝られない状態です。
病院は休みなので、この2日はお布団から出られないかもしれませんね。
それまでに治ればいいけどね。
「はぁ……。あの人達も風邪引いてればいいのに」
私は、布団から顔を出してそう呟く。
「こらこら、そんな事を言ったらダメだぞ」
「まぁ、そうなんだけどね」
あれ? 私は今誰に返事をしたの?
そう思って顔を横に向けると、そこには優しい笑顔を向ける谷口先輩の姿がありました。
「うわっ?! い、いつの間に居たんですか?!」
「ん? 今さっきだぞ。見舞いに来たから、君のお姉さんに入れてもらったんだ。それよりもあまり無茶するな、驚かして悪かったけどな」
お姉ちゃんったら、一言くらい言ってよね。
しかも、変な想像した後だから顔が合わせづらい。
でも、ちょっと嬉しいかも。
「あれ? でも、先輩。今日はアイドルの方の活動は?」
そう、私はふとある事を思い出した。
今日は、谷口先輩のいるグループ『スター・エンジェルズ』のコンサートがあったはず。
「あぁ、急遽中止さ。ミカエルさんが居なくなったからな」
「あっ……」
そう言われてあのソロモンの悪魔、バティンに言われた事を思い出した。
ミカエルの思念体を消したと言っていた事を。
私は、気まずそうな顔をしているのだろう、谷口先輩が苦笑いをして続ける。
「でもな、ミカエルさんは自分が消える事を知っていたのかもしれないな。あるメッセージビデオを残していったんだ。今日は君もこんな状態だからな、詳しくは明日か明後日のニュースで流れるからそれを見てくれ。そして、驚かないで欲しい」
すごく真剣な顔で意味深な事を言うから、そのビデオが凄く気になる。出来るなら今すぐ見たい。そんな気分です。
すると、谷口先輩が立ち上がる。どうやら、お見舞いとこの事を伝えに来ただけらしい。そして、先輩は面倒くさそうにしながら頭を掻いている。
「さて、長居しても悪いし。亜希子の所にもお見舞いに行ってやらんとな」
「えっ? 吉川先輩も風邪なの?」
「あぁ、昨日川に飛び込んだメンバーは、全員風邪を引いてるさ。先生含めてな」
バカですね。いや、直ぐに上がらなかった自分もバカですけど。
と言うことは風邪を引いていないのは、あの場にいた神森先輩と谷口先輩とお姉ちゃんだけですか。
意外な事に鷹西先生まで飛び込んでいたからね。
あの人、あんな性格だったけ?
「アハハ。ほぼ全員って。まぁ、私に風邪を引かせたんだからね、当然だけど他の人も引いてもらわないと、割に合いませんよね。ケホッケホ」
「こらこら。だから無理をするなって」
谷口先輩は、そう言って私の頭を撫でてくる。
何だか安心するかも。
でも、この後吉川先輩の所に行くんだよね。神森先輩も居るから大丈夫だろうけど、何だろう。胸がモヤモヤする。
「よし、邪魔したな。ゆっくりと寝とけよ」
そう言って、谷口先輩は立ち上がり部屋を出ようとする。
「待って……」
「ん? どうした?」
「……っ、お見舞いに来てくれてありがとうございます」
私は、そう言って谷口先輩に笑顔を向ける。
危なかった、本当は咽まで出かけた。「もう少し居て下さい」って……。
「あぁ、早く元気になってくれよ」
谷口先輩も笑顔で返してくれた。
そして、部屋を出て行った。どうかしてるな私は。
嫌われていないって分かった途端に、谷口先輩を急に意識しだしている。
「う~、どうしちゃったの? 私は」
そして私は再び布団を頭か被る。
寝よう、そして早く風邪を治そう。あれは熱のせいだ。
私は、自分にそう言い聞かせていた。




