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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第8章 決戦 ソロモン72柱『バティン』&『グシオン』
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本当の友情

 その日の夕方。あれから、校庭でマスコミが怒涛の勢いで私に詰め寄ろうとして来た。


 だけど、校長や教師の計らいで何とか抜け出すことに成功した。

もちろん学校は休校のままになので、私は家に帰る事も出来ずに、高校の近くの河原にある橋のたもとでずっと身を潜めていた。家も、必ずマスコミが張っているはずだからね。


「早く、来てくれないかなぁ……」


 そして、私はある人物達が来るのを待っていた。

でも、多分遅くなるだろうね。マスコミの対応に追われている事だしね。


 そんなに大きな川ではない為、余り人がこない。

平日のこの時間なら、高校の運動部の人達がランニングしているけれども、今日は休校になったので、誰も来ていなかった。


 私は、土手に座りながら足を前にして、パタパタと動かしている。

暇なんです。因みに、服はいつものこの体に合った、小さめのセーラー服。

もう、この体になったらこの服がお決まりになっちゃったよ。

そして、羽根も出してパタパタと動かして暇を持てあましていた。


 羽根の色は、両方とも黒に戻っています。

もちろん、髪の色も手鏡で戻っている事を確認にした。

どうやら、ミカエルの力を使う時だけ色が変化するようです。


「真っ暗になると、さすがに危ないんだけどなぁ」


 すると、川に面した道路からゾロゾロと数人が、私に向かってやって来るのが見える。


 やっと、お待ちかねの人達が来てくれたので、私は立ち上がりその人達を迎える準備をする。

でも、あの3人だけかと思ったら、もっと人数いるよね、

マスコミは居ないよね?


「あっ、明奈。ごめん、待った?」


「ん、お姉ちゃん大丈夫だよ。というか、ずいぶん来たね」


 私は、お姉ちゃんの後ろにいる人達を見渡して言った。

そこには、元同級生の柳田先生、藤本先生、鷹西先生。

そして、親友の朋美と理恵、綾子もいる。

後は、部活の先輩である吉川先輩と神森先輩、そして谷口先輩がいた。


「明奈。ほんとに良かったの?」


 お姉ちゃんの質問に、私は表情を曇らせた。

これが、正しいかどうかなんて分からない。

でも、今は気持ちがずいぶんと楽なんだよ。

ずっとバレないかドキドキしながら、自分の女としての立ち振る舞いに変な所は無いのか、そんな事を考えていた。


 そうなると、もちろん夜眠れない事が何回かあって、羽根で家の屋根に上り、物思いふけることがあったくらいだからね。

そう思うと、やっぱり話すべきなんだって思った。


 すると、鷹西先生が私の隣にやってくる。

私の気持ちを察したのだろうか、何というか凄く優しい目をしているね。


「明奈。無理そうなら、私がある程度事情を説明するから」


「ううん、大丈夫だよ。沙耶」


 私がそう言った事に、鷹西先生は少し驚いていた。

晃として話しかけるとは思わなかった様だね。


「皆、ごめん。ずっと皆を騙していて。私が経験した事。私視点になるけれど話すね。信じてとは言わないよ。非現実的だからね。英二にはちょっときついと思うよ」


「良いから話せ」


 柳田先生は、腕を組みただ私をじっと見ていた。

私は、それに反応するように微笑み、そして皆に向かい今までの事を話し始めた。









「……とまぁ、こんな感じで今に至るんだけどね」


 私は、全てを話した。『天使の羽根症候群』の原因。2種類のウイルスの事、それが原因で女になった事。天使達の事、ミカエルの事、ソロモンの悪魔の事、その全てを。


 お姉ちゃんと元同級生の3人以外は、口をポカーンと空けているだけでしたね。

だいたい、女になってから今までの事を説明した。

私が、男だったということもね。

元同級生の3人には、ほんとに私が晃なのかを確認する為に、色々質問してきたけど、その全てを的確に答えました。


 中学生の時からの縁だっから、結構私達しか知らないことも多かった。

授業をサボった2人を探して、この川で見つけたわ良いけれどミイラ取りがミイラになり、一緒に遊んでしまったこと。


 藤本先生の初恋の相手の告白の練習を、ここで鷹西先生でやったこと。

私達3人しか知り得ない事を、私は的確に答えた。


「マジで、晃なのか……俺はやっぱ最後まで信じたくは無かったよ。あり得ねぇよ。非現実的過ぎる」


 やっぱり、柳田先生は真っ青になっているね。現実主義の彼には、結構キツいだろうね。


「ふふ、だから言ったのに」


 柳田先生に向かって、ちょっと意地悪っぽく笑ったのはやり過ぎたかな?

皆、元々男性だったということが、信じられないようです。


「沙耶は知ってたんだよな? 入学当初は怪しんでいたのが、ゴールデンウィーク前から大人しくなっていたからな」


「ご、ごめんなさい」


 私は、申し訳なさそうにしている鷹西先生を、咄嗟にフォローする。

だって、鷹西先生は悪く無いんだから。


「沙耶は悪くないよ。私が、皆に言う勇気が無かっただけだから。英二もさ、信じたくなかったら信じ無くても良いよ。いくらやっても、もう私は晃には戻れ無いんだからね」


「ちっ、あのなぁ。あの頃とは変わっているんだよ。俺もな。例え非現実的でも、目の前で起こったらそれはもう現実なんだよ」


 柳田先生が、真剣な顔で私に向かいそう言ってくる。

昔は、意気地で頑固だったから、非現実的な事は一切認めようとしなかったのに。幽霊とか化け物、都市伝説。実際起こりえないであろう事は、全部否定してきた彼が、私の身に起こった事はしっかり受け止めて認めるなんてね。


「あはは、何だか変な気分だな。皆、しっかりと大人になっているのにね。私は、男性の時は逃げて逃げて結果女の子になっちゃって、罰なのかは知らないけれど、悪魔退治やらされて。リスクを負い、男性としての記憶が無くなり、記憶が戻った時には完全に女の子の精神になっちゃった。笑えるね」


 私は、目を閉じた。そして、なぜか涙が溢れて来た。

元同級生の3人は、こんな立派な大人になっているのに、自分だけは未だにこんな状態で、大人らしさなんて一切なかった。

曲がりなりにも、成人まで生きていたのに、この様はいったい何なんだろうね。


 私は、心が成長していなかったのだ。そう実感してしまい、そしてその為に自然と涙が出てしまったのかな。


「大丈夫よ、明奈。あなたは、もう決意しているのでしょう。私達は、どんな姿になっても、あなたの親友なのよ」


 鷹西先生が、しゃがんで私の頭を撫でてそう言ってくる。

とても優しい目で見てくる。そんな目を向けられたら、完全に泣いちゃうじゃないか。


「でもなぁ、親友の俺達に何も言わないなんてなぁ」


 藤本先生が少し愚痴っぽく言ってくる。でも、私はそもそも3人を親友と思っていなかったんだよ。


「ごめん……なさい。正直に言うと、会わなくなってから親友って感覚じゃなくっていたよ。今も、親友と言うよりは学校の先生って感じなんだよ」


「そう……か」


 藤本先生が凄くガッカリとしている。この人にとっては、それだけ私の事を親友と思っていてくれたのかな。


「正直に言うと、俺達だってお前が晃だって到底思えないわ。今のお前に、あの頃のムカつく態度が一切ないからな」


 柳田先生も難しい顔をしている。藤本先生の頭の中で、整理をするのが追いついていない感じがするね。

3人にはちょっとずつ慣れていってもらうしか無いとして。

問題は、この人達だよね。


 私は、ゆっくりと3人の後ろにいる、明奈になってから出会った人達の元に向かった。


「皆、ごめんなさい。こんな重大な事を隠していて」


 私は、俯きなながら朋美達にそう告げた。

一番に私の事を親友と言ってくれた人達。そんな人達を、騙していたんだ。どんな中傷を言われても構わない、私はその覚悟を持って事実を話したのだから。


 そして、私はゆっくりと顔を上げて、嫌悪の目をしているであろう朋美達に目をやった。さっきから、黙っているから相当ショック何だと思う。

ほら、目をつり上げて怒りのオーラを出してるもん。


「ごめんなさい。もう、私なんて友達とは言えないよね。これからは、出来るだけあなた達には関わらないように……」


「そうじゃないよ明奈ちゃん。私が怒っているのはそれじゃないよ」


 えっ? ど、どういう事なんでしょう?


「こんな、アニメやゲームの世界の様な事を、私に黙っていた事を怒ってるんだよ!!」


「そっちぃ?!」


 朋美ちょっと、ぐいぐいと寄ってこないで、涎垂らして寄ってこないでぇ!!


「私はね、明奈。私を信じてくれなかった事に怒ってるのよ。私が元男とか、そんな小さな事を気にする奴だと思うの?!」


 理恵ちゃん、よく分かりませんけど。男だって事に怒ってないの?


「私もね、理恵と同じ意見よ。お金持ちの中にはね、女装した方やニューハーフの方だっているのよ。いちいち元男だからって、気にしてられませんわよ!」


 綾子は、何となく納得できる。その言葉に凄く説得力ありますよ。


「明奈、私も怒っているのは男だからじゃ無いよ。むしろ、そんな映画製作のネタになるような事を黙ってんじね~!!」


「あがが……ご、ごめんなさい吉川先輩!」


 だから、首を絞めないで下さい。体を揺すらないで下さい。


「亜希子、首入ってるわよ」


「あ、ごめんごめん。つい、興奮しちゃって」


 神森先輩が、何とか吉川先輩を宥めてくれました。

危なかったよ。あと、神森先輩も怒って……る?

いつもの様に、にこにこしているけれど。何だか、怖い。


「えいっ」


「へぅ?!」


 軽くデコピンされただけでした。

でも、その後鷹西先生と同じ様に頭を撫でてくる。


「私達は、その姿になる前のあなたを知らないわ。そして、私達にはあなたが橋田明奈として、私達と一緒に過ごした記憶があるの。それを、無かった事にして下さい、なんて出来ると思う?」


「うっ……」


 私は、おでこを抑えて顔を俯かせる。なんて言えばいいのか分からなかった。


「明奈。昔がどうあれ、今は女なんだろう? お前はそのつもりで生きていくんだろう? 俺は、そんなお前に惹かれたんだぞ? 諦めろだと? 無理な話だな」


 谷口先輩も、何だか少し怒っているね。

でも、やっぱり皆と同じ様に男だったことに怒っているんじゃなさそう。


「俺が、好きなのは前向きに何でも乗り込えていく、橋田明奈が好きなんだよ! 男だったことがバレた位でウジウジするのか? お前は!」


「うぐ……それとこれとは、話がちが……」


「嫌われたと思うから、俺達の元から去るのか? お前は、こんな事実なんかものともしないくらいに、俺達に好意を持たせたんだよ! 今更、逃げられると思うなよ」


 えっ? 何だか、最後が凄く怖かったよ? 谷口先輩。

ちょっと、背中がゾクッとしましたよ。

あっ、あっ、皆寄ってこないでぇ。怖い、目が怖い。


「そうよそうよ、明奈ちゃん。私達にこんなに好意を持たせたんだよ」


「逃げられ無いよ、私達からはね~」


「朋美、理恵、目が怖いってば~!」


 必死に私は逃げようとするけれど、誰かに首元を掴まれて浮かび上がる。

誰がと思って顔を後ろにやると、なんと藤本先生が私を掴んでいた。


「あっ、ちょ、ちょっと。武、何を?」


「何、俺達の事を親友じゃないとか、クラスメイト達に友達の資格が無いとか言う奴には、『友達の儀式』でも受けてもらおうか」


 な、何ですか。それ、悪魔とか呼ぶんじゃないよね?!

だけど、私の心配を他所に藤本先生は、軽やかに私を川へと放り投げる。


「へっ……ちょっ?!」


 私は、一瞬の内に川の中へダイブする。少し深めの所を選んで放り投げたらしく、怪我はない。そして、少しだけ足が着くのでとりあえずは助かったかな。

激しい水しぶきでむせていると。また、藤本先生の声が聞こえてくる。


「それ! 全員かかれぇ!」


『お~!!』


「ちょっ! 皆、何してるの?!」


 なんと、皆次々と川に飛び込み私に向かってくる。

そして、水をかけたり私を掴んで放り投げたりしてくる。

今、縮んでるからってこの仕打ちはないんじゃないですか?!


 というか、皆絶対変だから!! 普通、元男って分かったら嫌悪しないですか?! ねぇ、私の考えが普通だよね?

この人達の方が変だよね?!

でも、私のそんな考えなんて、お構いなしに皆が私に絡んでくる。


 あぁ、でも。川に放り込まれて良かったかも、内心嬉しくて号泣していても、顔が濡れていて気づかれないしね。


「あ~明奈、泣いてる~可愛い~」


 吉川先輩に気づかれてしまいました。


「な、泣いてない!」


 何だか、真剣に悩んで考えていた私がバカみたいでした。

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