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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第8章 決戦 ソロモン72柱『バティン』&『グシオン』
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悪魔の契約者

 グシオンは、銃を突き付けられているのにも関わらず、全く微動だにしない。

慌てる様子もない。

こいつは戦闘向きでは無いはず。それなのに、この自信はどこから?


「カカ、これくらいで俺がビビると思うか? おい、やれ」


 グシオンが誰かにそう指示を出す。

すると、いきなり私の体に衝撃が走った。


「あっ、がぁ?!」


 電気ショック? そんな感じで一瞬意識が飛びそうになる。

そして、そのまま私は倒れ込んだ。う、動けない。


「おい、明奈! 大丈夫か?! お前、何するんだいきな……がっ?!」


 谷口先輩が叫んだ後、悲痛な声がして私の隣に倒れ込む音がする。

周りもその事態に騒然となっている。もちろん、マスコミもスクープ映像と言わんばかりに撮りまくっている。だが……。


「あ、あれ? お、おかしい。カメラが使えないぞ! さっきまでのは保存されていたけど、今の奴を撮ろうとしたら動かないぞ?!」


 マスコミの人達も大慌てになっている。

そんなことは後で良いとして、私は私を襲った人物を確認しようと顔を上げる。

すると、私の前に立っていたのは警察官だった。

しかも見たこともない、スタンガンの様な物を携えていた。


「よし、良くやった。どうだ驚いたか? こいつは、俺の『契約者』だ。そして、俺の知識を与え特製のスタンガンを作らせたのさ。一発で、全神経を麻痺させるという代物さ。普通の人間なら、障害が出るだろう。そこの男の様にな」


 その言葉を聞いて、私は血の気が引いていく。

そんな、私のせいで谷口先輩まで。悪魔達が本気になったらこうも厄介だなんて。


「ふん、警察の内部事情まで赤裸々に教えてれるこの悪魔は、俺にはうってつけなんだ。この力で警視総監にのし上がってやる。あいつもどうせ汚職だらけさ。俺が粛清してやる。何もかもな。だからさぁ、悪魔なんか消してくれるなや。逮捕して二度と出られないように、適当な罪を与えて牢屋にぶち込んでやるぞ」


 目の前の警察官は、倒れ込んだ私に向かい凄みをきかせて脅してくる。警察官、全てがそうとは限らないけれども、中にはこんな奴までいるなんて。


「最低!!」


 私はそう叫ぶと、起き上がりざまに一発あごにパンチを入れてやった。


「ぐはっ?!」


 警察官は、そのまま吹き飛び地面に仰向けになり大の字で倒れた。

結構力入れたから、意識失ったかな?

さすがに、他の警察官の人達も泡を食ったように、その警察官を取り押さえにかかる。

そりゃ、完全に問題だもんね。これは。


「ちっ、この程度か。せっかく知識を与えても、それに伴う技術がこの時代にはまだないか。ちょっと強力なスタンガンというだけだったか」


 意外にもグシオンは冷静にしている。

もうちょっと慌てると思ったのに、何こいつ?


「契約者が、捕まったのに余裕ね」


「カカ、他を探せば良いだけさ。他の悪魔達も、この人間界を制する為に、我先にと人間達に契約を持ちかけているはずだ」


 睨みをきかせていたミカエルが居なくなったから、悪魔達が動き出したわけね。ここからどんどん契約者が増えるわけね。


「その代わり、こうなるがな」


 そして、グシオンは連れて行かれる警察官に手を向ける。

すると、その人の体から白くて丸い物が出てくる。


「えっ? ま、まさか」


「そう、これは魂だ。悪魔と契約するというのは、魂を差し出す事になるからな。そして、その力を使う場合は寿命を支払うわけだ」


 そう言って、グシオンはその魂を瓶に詰めた。

連れて行かれる警察官の方は、もちろん抜け殻となっている様で、目は虚ろになり口をだらしなく広げている。


「リスク無しに、悪魔と契約できるわけが無いのさ。契約が切れるのは払える寿命が無くなるか、悪魔がこいつは使えんと切り捨てた場合だ」


 なるほど、あの男では障害を残す程の、強力なスタンガンを作れなかった。だから、あの男は使えないと切ったわけだ。

現に、私はもう体の痺れはないからね。


「う、うぅ。明奈?」 


 どうやら、谷口先輩も大丈夫そうです。良かった。


「先輩、大丈夫ですか? 立てるようでしたら、少し下がっていて下さい」


「あ、あぁ……」


 先輩が、神妙の顔をして立ち上がる。ちょっとフラフラしている様で、吉川先輩と神森先輩に支えられている。


「残念ね。マスコミのカメラが使えれば、あなた達の悪事を全世界に発信出来たのにね」


「だから、カメラを使えなくしておいたのさ」


 グシオンが間髪入れずに、私の言葉を否定してくる。

なんだ、使えなかったのね。でも、それなら何でマスコミなんか呼んだのかな。


「じゃぁ、マスコミなんか呼んでも意味ないじゃん」


 そのままストレートに聞いてみた。

悪魔の行動の真意なんて、知りたくも無いけどね。でも、やっぱりそこは聞いておかないとね。悪魔達の行動を先読みできるかもしれないしね。


「何、最初はお前の事は全世界に公表するさ。だが、俺の契約者の事は振れて欲しくなかったのでね。なにせ、まだまだ警察や政治家達は利用できる。そして、何より契約者としても相応しいからな」


 そうか、さっきの警察官の事を報道されたら、内部を探られて悪魔達が契約しづらくなる訳か。


「まぁ、マスコミばかりじゃないけどね。カメラがあるのは」


 私はそう言って、辺りに視線をやる。すると、そこにはスマホのカメラや、ビデオカメラを回す一般の人々の姿があった。


「なっ?! しまった!」


「バーカ」


 私は、慌てたグシオンに向けピストルを撃つ。


「ぐぁっ?! くそ……」


 私の放った退魔弾は、見事にグシオンの胸に命中した。

油断? それとも、単に人間に興味が無いからこそ、携帯のカメラ機能やビデオカメラの事が頭に無かったのかな? いや、グシオンは大量の知識を持っている、それはあり得ない。

どちらにしても、悪魔は自分達の事しか考えていないようなんだね。


「ちぃ……マスコミばかり気にしてしまっていた。傲慢が過ぎたな。弱者だと舐めすぎたらこうなるわけだ」


 グシオンは、私が撃ち込んだ部分から、徐々に黒い煙となっていく。

悔しそうな顔を滲ませながらね。


「ふん。だが、良いだろう。当初の目的はあらかた達成出来ている。世界が貴様をほうっておくと思うなよ。お前は、研究用として閉じこめられ、体をいじくり回される事になるさ! その間に人間界は、悪魔の住処になってしまうだろうな! カカカ!」


 悪魔は、皆捨て台詞と言うのを吐かないと退散出来ないのでしょうか?

バティンもそうだったよね。

私は、呆れた様な顔をしながら消えていくグシオンを眺めていた。


 今回は、何とかなったかな。でも、もう今まで通りにとはいかない。

全部、喋っちゃった。全国にね。

グシオンが完全に消えたのを確認し、私は恐る恐る皆の方を振り向く。


「明奈、記憶は? リスクは大丈夫なの?」


 真っ先にお姉ちゃんが、私を心配してきてくれた。

でも、まだリスクは分からないんだよね。

そして私は、首を横に振る。


「まだ、分からない。明日にならなければでしょ?」


 その瞬間、私の体がムズムズしだす。この感覚……。ま、まさか。

咄嗟に私は服を押さえる。そしてそれと同時に、体が一瞬で縮んでいく。

使い過ぎた時のリスクはあるのですね。


「あ、明奈。その状態にはなるのね……」


「あ、はは……か、覚醒なんて言っときながら、これじゃぁ格好がつかないよぉ!」


 これからの事を考えると、気分が落ち込みそうだよね。

悪魔との契約者が現れて、事態は容赦なく最悪の方向へと進んでいきそう。


 何とか止めないと。もう、ミカエルは居ないんだから。

私は決意を新たにし、空を見上げる。その時、思ったのはただ1つ。


「せめて、体が縮むのだけは無くなって欲しかったなぁ」

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