新たな力で
何だか体が軽い。
余計なものを背負い過ぎていたのかな?
目の前に居る凶悪そうな人達を見ても、あんまり怖くないように感じる。
「しかし、君のその変化には驚いたね」
「私は見えないから分からないんだけど?」
「いや。後ろを向けよ」
そうでした。グシオンに言われて、私は両手を叩くと後ろを振り返り、自分の羽根を確認する。
すると、片方は黒いままだけれども、反対側の羽根の色が変わっていた。
「な、何これ?!」
それは銀色の羽根。光の加減で輝いても見える。何だか、神々しくも見える。立派な銀翼の羽根であった。
「やれやれ。どうやら、君は今までにないタイプの天使になったようだな。堕天使と天使、両方を兼ね備えた天使か? そんなのあり得ない事なのだが、人間ベースだとそんな事も起こりうるのか?」
私に聞かれても分かんないよ。
自分でも、びっくりしているもん。
後、もう一つ気になることがあるんだけど、目の前に銀色の糸がプラプラしていて気になる。えい。
「いたっ?!」
あぁ、髪の毛でした。髪の毛?!
私は、咄嗟にきょろきょろと辺りを見渡して、自分の顔を映せる物を探す。
そこで気づいたのだけれども、皆私を見て呆然としている。
さっきまで驚愕の真実を聞いて、信じられ無いといった顔をしていたのが。
今は、あり得ない物を見ているような目をしている。
すると、望お姉ちゃんが手鏡を出してくれた。
私は、咄嗟にお姉ちゃんの元に行き鏡をのぞき込む。
「明奈。あなた、やっぱりもう人間じゃないんだね」
そんなお姉ちゃんの言葉なんか耳に入らなかった。
だって、私の切り揃えた前髪が銀色になっているの。
それだけじゃなく、左目も銀色になっている。
そう、つまり銀色になっている羽根も左です。
「あ~何か覚醒したっぽいからな~」
そんな中二病っぽい事を言って、私は再び校庭の真ん中の2人に顔を向ける。
「これは、ゲームでのんびり決着をとは行かないようだな」
「だが、バティンよ。奴も、あの様になると神の結界の効果を受けるだろう。力の差など五分よ」
確かに、天使と悪魔は人間界では力を制限されていたよね。
でも、私は何故かそんなことは無いと感じていた。
「ん~っと、こうすれば良いのかな?」
とりあえず、私は手のひらを上に向けて広げると。
ある物をイメージする。すると、そのイメージ通りの拳銃が現れ、私の手の中に収まった。
「やっぱり、私はもう自在に天使の力を使えるんだ」
天使の力は、羽根が生えた時から備わっていたと思う。
でも、使い方が分からずにいたんだ。
どんな事でも、キッカケさえあれば出来るようになる。
天使の力を使うキッカケ。それは、ミカエルがくれたあのダイスだったんだ。
ダイスはキッカケに過ぎない。そして、これが本来の私の力。
ソロモンの悪魔を、完全に撃退する事が出来る天使。それが私なんだ。
私は、目の前のソロモンの悪魔2人にその銃を突きつける。
「なるほど、これは厄介だな」
それでもバティンはスマイル100%です。もはや、このスマイルを崩してみたくなってきた。
だけどそれよりも……。グシオンが、思った程に動いていないという事が気になる。
「グシオン、まさかこうなる事を知っていたのかしら? 過去と現在、そして未来を知っているなら」
私は、陽動がてら少し探ってみる。グシオンの能力を。
「勘違いをしないでもらおうか。知識を有しているというだけで、出来事を知っているわけではない。それは、予知能力になるが俺にはそんな能力はないさ」
あれ? 正直に答えてくれるなんてね。
そもそも、この2人はよっぽどの自信があるみたい。それなら油断は出来ない。
「ここで戦闘を行っても良いが。君のその目を見ると、どうも神の結界が効いていない様に見える。何でだろうな?」
バティンが私にそう言ってくる。
流石に修羅場慣れしている様で、人の所作でその人が何を狙っているかが分かる様です。
心臓が高鳴る。この弾さえ当てられたら良いんだけど。
どうもさせてくれそうにない。凄い気迫だもん。
「そうだな。せっかくだからちょっとしたゲームをやろうか」
「ゲーム?」
私は、銃を構えたままバティンの言葉に反応する。
また、ダンタリオンの時のように悪魔側に有利なゲームを組まれたら、面倒くさいことになるね。
「何、簡単な事だ。その銃で俺を撃てば、お前の勝ちでいい」
「それって、ゲームなの?」
ただの戦闘に思えるんですけど? 銃で撃ち合うにしても、私の方が不利だってば。
「心配しなくても、撃ち合う事はしない。君は本物の俺を撃てばいいんだからな」
そう言って、バティンは指を鳴らす。すると、報道陣の前に急に炎が立ち上り、私と2体の悪魔を囲む様に広がっていく。
そして、その炎の中から次々とバティンが現れる。
グシオンは、既に肩から飛び降りて、校庭の脇にある木に跳び移っていた。
つまり、私は炎が出現した事に驚いて、バティンから視線を外してしまった。
だから、本物を見失ってしまいました。沢山バティンが出てきた時、慌てて視線を戻したけれど、とっくに周りはバティンだらけになっていました。
『さぁ、どれが本物か当ててみな』
エコーがかった声が私の耳に響く。
そして、もう一つ問題なのが。炎から作られた偽物も、スマイル100%です。
10体以上? それくらいの気持ち悪い笑顔が、私を取り囲んでいる。
「あ、悪夢よ……今日の夢に出そう」
『おやおや、生きて帰る気かい?』
バティンがそう言った直後に、どこからともなく銃弾が飛んでくる。
「いたっ?!」
その銃弾は、私の肩を掠める。
何で? 結局撃ち合いになるじゃん。
『フフフ、悪魔の言ったことを信じるなんて、お人好しだな』
「謀ったわね……」
やってしまった。ソロモンの悪魔の中には、友好的な者もいるらしいけれど、こいつは曲がりなりにもルシファーの側近。
その実力は、普通の悪魔とは比べものにならないはず。
でも、結界はどうなったの?
『そして、グシオンの知識でこの結界の穴を見つけた』
「あっ、ご丁寧に説明してくれるんですね」
助かったよ。丁度知りたかったしね。
『余裕だね、君』
「そうでもないよ?」
私はそう言いながら、銃の持ち手を人差し指にかける様にして、くるくると回し始める。
緊張していてもしょうが無いしね。
「あなた達、2人を相手にしなきゃならないって思ったら、緊張とか通り過ぎて、逆に達観しちゃったわよ」
すると、私の耳に引き金を引く音が聞こえてくる。
後方、右に30度移動した方向だね。
「おっと!」
私は咄嗟に銃を握り直し、その方向に銃を向けて引き金を引く。
私の耳元ギリギリの所で、弾丸と弾丸が激突し弾かれる。
「こ、鼓膜が……」
ちょっと、遅かったみたい……。
耳に響いたよ。鼓膜破れていないよね? あっ、大丈夫そう。
体が少し丈夫に作られていたからかな。
「というか、いきなり私の命を狙ってくる様になったね?」
今のも、防がなければ頭を貫通していたしね。
向こうの悪魔にも、結界は効かないのかな?
『ふむ。しかし、これではっきりしたな。どうやら、結界は命を奪う程の力の発揮を制限し、命を奪う様な攻撃も結界により防がれる。君は、今咄嗟に対応したが、間に合わ無くても結界の効果で、命までは取れなかったはずだ。さっき君の周りに、うっすらと結界らしきものが張られていたからな』
あぁ、つまり戦争は止めろって事なんだね。
戦闘は良いけれど、人を殺す事が目的となる戦争は駄目ということですか。というか、そういう詳しい事を言って欲しかったかな。ミカエルさん。
『つまり、命は奪えないが傷は与えられるのか。ならば、そうやって徐々に気力と体力を奪い、悪魔側になりますと言わせればいいわけだ』
「何その、縄張り争いみたいなもの」
『縄張り争いだよ。これはね!』
「そう。じゃぁ、とっとと古巣へ帰りなさいよ!」
私は、そう言って銃を構えた。
大量にいるバティンの中から、絶対に本物を見つけて、魔界に送り返してやる。




