変わる心
梅雨明けも間近に迫っているのだろうか、今日は少し気温が高い。
そろそろ、長袖も暑くて鬱陶しくなってきているし。衣替えかな?
私は、駅から学校へ向かう道のりを歩いている。
相変わらずここの坂道は疲れるね。夏になると、それが特によく分かるから。
「それにしても、昨日は悲惨だったなぁ」
あれから、お父さんの介抱に尽力していた。
だって、その後も吐くんだもん。もう大騒ぎ。
飲みすぎ注意だよ。ほんとに。
「……で、このミカンの皮は何?」
私は、目の前に落ちているそのオレンジ色の皮に目をやる。
別に、1つなら誰か食べて捨てたのかなってなるよ。
道路一面なの。びっしりとね。
私と同じ様に通学する人達も、びっくり仰天しています。
「いや、なんつ~かな。ほんとは、バナナの皮を敷き詰めたかってん。デビルダイス振って出したら、ミカンの皮になってもうた」
私の横にいつの間にか、全身黒タイツの悪魔さんがいる。
やっぱりあなたの仕業か。いい加減に、自分の能力の低さに気づいて欲しいな。
「あのねぇ、こんな物ダイスで出さなくても、用意出来るでしょうが」
「あっ! ほんまや」
悪魔さんが、今気付いたかのように手を叩く。
ただのおバカさんなのかな?
「じゃぁ、早くこれ片付けてね?」
私は、周りの人に気付かれないように、悪魔さんにそう言った。
「は? 嫌や」
「片付けて、ね?」
「は、はひ!」
ちょっと、力強く睨んだだけで直ぐ萎縮しちゃったよ。
そんなんだから、ずっと昇格出来ないんですよ。
「おはよう」
何とか、予鈴には間に合いました。
すると、真っ先に私の所にやってくる人がいます。
「明奈ちゃん、おはよう! 昨日は、ごめんね。勝手なことしちゃって。ちゃんと、お礼言いたかったのに」
朋美ちゃんが、必死に昨日の事を謝ってくる。
でも、あれはしょうがないと思うけどなぁ。
「ううん、朋美ちゃんが無事ならそれで良いよ。それに、私が巻き込んだようなものだからね」
私は、そう言って朋美ちゃんの頭を最高の笑顔で撫でてあげた。
もちろん、朋美ちゃんは顔が真っ赤になっています。
羽根は、私見たいにパタパタは動かないけれど。いつもよりも綺麗に感じるのは気のせいかな?
「しっかし、朋美がそんな危ない目に合っていた何てねぇ」
「私に言ってくれれば、人海戦術で探し当てましたのに!」
理恵ちゃんは、良いけれど。綾子ちゃんは、やっぱりお金持ちさんの発想でした。
「綾子ちゃん、今回はちょっとそれは無理だったんだよ」
もちろん、私は皆に聞こえないように自分の席に着き、後ろの席の綾子ちゃんに話しかける。
「あら、そうでしたのね。残念ですわ」
「うひゃい?!」
綾子ちゃんが、残念がりながら私の羽根を上から下になぞってくるから、ぞくっとしちゃったじゃん!
というより、油断しちゃったよ。いじけるふりして何て事を。
「あら? 明奈。あなた、少し敏感になっていません?」
「らってない!」
ろれつが回っていないので、否定の意味がありませんでしたね。
サワサワしないで欲しいんだけど。そろそろ、担任が来るから席を立つわけにもいかないし。もう!
「あらあら、ほんとに敏感になっていますわね。面白い」
「あっ……ぐっ。ちょっと、待って。綾……子ちゃ。ひぐっ」
声を発しようとする度に、変な声が出ちゃうよぉ。
こんな所で、女王様モードにはならないで欲しいな。
「お~し、HR始めるから席着けよ。って、お前等なにレズプレイしてるんだ?」
「してません!!」
ほら、タイミング悪く担任の柳田先生来ちゃったよ。
しかも、とんでもない誤解をされている。
「あら、明奈となら私はいけますわよ?」
「止めて、綾子ちゃん。流石に、私はそれは……」
もう、恥ずかしいよ。理恵ちゃんも朋美ちゃんも、お腹抱えて笑っているし、
クラスの男子は全員鼻血出しているしね。
「もう、皆の視線が気になってしょうがないよ」
体育の時間、他のクラスの人達まで窓から覗いています。
今日はいつもより多い。いつもは、数人がちらほら見るくらい何だけれどもね。
「あら、人気者ですわね。明奈」
「綾子ちゃんのせいだと思います」
今朝の綾子ちゃんとの絡みが、あっという間に広まってるよね。
因みに、今日は女子はソフトボールです。
攻撃になると打順が回るまで、皆お喋りしています。
「もう、レズなんて噂が流れて良い迷惑だってば」
「えっ? でも、それは綾子ちゃんだけでしょ?」
朋美ちゃんが、間に入ってくる。
いったいどういう事なんでしょう?
あっ、凄い理恵ちゃんホームランだよ。
「えっと、明奈ちゃんはさ。学校中に、もう彼氏が居ることになっているんだよ?」
ん? あっ! そ、そうだった!
私は、ゆっくりと3年生の教室の窓にちらりと目線をやると。
望お姉ちゃんと目が合いました。
あれ? そこは流れ的にも“例の人”ではないでしょうか。
あっ。お姉ちゃんも私に気付いて、投げキッスしているよ。
あぁ、先生に教科書ビンタされてるよ。バーカ。
「あっ……」
すると、その隣の窓に谷口先輩が居た。
そして、もちろんバッチリ目が合っちゃいました。
私は、慌てて目を逸らす。絶対に顔真っ赤だよ。
でも、気になるからもう一回視線を戻すと、谷口先輩がウインクしてくる。
は、破壊力抜群過ぎます。それ。
しょうがないから、私も小さく手を振り替えしておいた。
うん、やっぱり顔を合わす機会が多いからかな。谷口先輩を完全に意識しちゃっています。
「明奈ちゃん、乙女ねぇ」
「わひゃい?!」
朋美ちゃんが私の横から声をかけてくる。
いつから、見ていたの? と聞かなくても、最初からなのは分かっています。
「ち、ちが。これは……」
「顔を真っ赤にしても、ダメだよ~バレバレ~」
ほっぺを突かないでよ、朋美ちゃん。
私は手を前に出しながら、羽根もパタパタ動いて止めてとアピールしています。
ほんとに、羽根が感情と一緒に動いているよね? これ。
「ねぇ、デートとか何処行ってるの?」
「え、デ、デデテデート?!」
「えっ? 行ってないの?!」
いや、そもそもちゃんと付き合ってるんじゃないよ。
あの時は、谷口先輩の作戦だったというか。
あれ? でも、谷口先輩は私の事が……。
じゃぁ、あれは本気?!
でも、とりあえずデートどころじゃないんだよ今は。
「あの、谷口先輩は結構忙しい人だしね。アイ……」
アイドルと言いかけて、慌てて口を押さえた。
う、うっかりと喋っちゃうところだった。
「あい?」
朋美ちゃんが、首を傾げて聞いてきている。
あ~う~えっと~どうしよう。
「あ、えとその。あ……愛する人の為にもって、バイトしているからね」
自分で言ってて、めちゃくちゃ恥ずかしかったし。
何より、なんだか変な言い回しになっちゃったよ~!
でも、そんな私の言葉に朋美ちゃんは目をキラキラと輝かせている。
「良いな~朋美ちゃん、そんなに想って貰えて」
これ、私自身で引き返せない事をしちゃったかもしれないよね。
う~ん。でも、谷口先輩となら……。
「あら、明奈ってば。そんなに、その人の事が好きなのね。さっきから、耳まで真っ赤ですわよ」
「う~綾子ちゃん。言わないでよ、分かってるから」
「でも、それだけ好きなんでしょ」
私は、黙って頷いた。
だってねぇ……。ちょっと、強引だったりするけれども、私の事気にかけてくれるし、優しいしね。
うん、間違いない。私は谷口先輩の事が好きなんだ。
再び、谷口先輩を見ようとしたその時。
「あなた達、恋バナも良いですけれど。ちゃんと、授業しなさいね?」
後ろに、女子担当の体育の先生がいました。
しかも、今にも軽く小突いてきそうに拳を作っています。
「先生、体罰はダメですよ。ちゃんと真面目にやりますので」
先生は、ちょっと顔をひくつかせていました。
そして、その様子を藤本先生が男子の体育を見ながら、ちらちらと私を見て首を傾げている。




