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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第7章 今日の後に今日なし ~ 3日間の出来事 ~
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変わる心

 梅雨明けも間近に迫っているのだろうか、今日は少し気温が高い。

そろそろ、長袖も暑くて鬱陶しくなってきているし。衣替えかな?


 私は、駅から学校へ向かう道のりを歩いている。

相変わらずここの坂道は疲れるね。夏になると、それが特によく分かるから。


「それにしても、昨日は悲惨だったなぁ」


 あれから、お父さんの介抱に尽力していた。

だって、その後も吐くんだもん。もう大騒ぎ。

飲みすぎ注意だよ。ほんとに。


「……で、このミカンの皮は何?」


 私は、目の前に落ちているそのオレンジ色の皮に目をやる。

別に、1つなら誰か食べて捨てたのかなってなるよ。

道路一面なの。びっしりとね。

私と同じ様に通学する人達も、びっくり仰天しています。


「いや、なんつ~かな。ほんとは、バナナの皮を敷き詰めたかってん。デビルダイス振って出したら、ミカンの皮になってもうた」


 私の横にいつの間にか、全身黒タイツの悪魔さんがいる。

やっぱりあなたの仕業か。いい加減に、自分の能力の低さに気づいて欲しいな。


「あのねぇ、こんな物ダイスで出さなくても、用意出来るでしょうが」


「あっ! ほんまや」


 悪魔さんが、今気付いたかのように手を叩く。

ただのおバカさんなのかな?


「じゃぁ、早くこれ片付けてね?」


 私は、周りの人に気付かれないように、悪魔さんにそう言った。


「は? 嫌や」


「片付けて、ね?」


「は、はひ!」


 ちょっと、力強く睨んだだけで直ぐ萎縮しちゃったよ。

そんなんだから、ずっと昇格出来ないんですよ。







「おはよう」


 何とか、予鈴には間に合いました。

すると、真っ先に私の所にやってくる人がいます。


「明奈ちゃん、おはよう! 昨日は、ごめんね。勝手なことしちゃって。ちゃんと、お礼言いたかったのに」


 朋美ちゃんが、必死に昨日の事を謝ってくる。

でも、あれはしょうがないと思うけどなぁ。


「ううん、朋美ちゃんが無事ならそれで良いよ。それに、私が巻き込んだようなものだからね」


 私は、そう言って朋美ちゃんの頭を最高の笑顔で撫でてあげた。

もちろん、朋美ちゃんは顔が真っ赤になっています。

羽根は、私見たいにパタパタは動かないけれど。いつもよりも綺麗に感じるのは気のせいかな?


「しっかし、朋美がそんな危ない目に合っていた何てねぇ」


「私に言ってくれれば、人海戦術で探し当てましたのに!」


 理恵ちゃんは、良いけれど。綾子ちゃんは、やっぱりお金持ちさんの発想でした。


「綾子ちゃん、今回はちょっとそれは無理だったんだよ」


 もちろん、私は皆に聞こえないように自分の席に着き、後ろの席の綾子ちゃんに話しかける。


「あら、そうでしたのね。残念ですわ」


「うひゃい?!」


 綾子ちゃんが、残念がりながら私の羽根を上から下になぞってくるから、ぞくっとしちゃったじゃん!

というより、油断しちゃったよ。いじけるふりして何て事を。


「あら? 明奈。あなた、少し敏感になっていません?」


「らってない!」


 ろれつが回っていないので、否定の意味がありませんでしたね。

サワサワしないで欲しいんだけど。そろそろ、担任が来るから席を立つわけにもいかないし。もう!


「あらあら、ほんとに敏感になっていますわね。面白い」


「あっ……ぐっ。ちょっと、待って。綾……子ちゃ。ひぐっ」


 声を発しようとする度に、変な声が出ちゃうよぉ。

こんな所で、女王様モードにはならないで欲しいな。


「お~し、HR始めるから席着けよ。って、お前等なにレズプレイしてるんだ?」


「してません!!」


 ほら、タイミング悪く担任の柳田先生来ちゃったよ。

しかも、とんでもない誤解をされている。


「あら、明奈となら私はいけますわよ?」


「止めて、綾子ちゃん。流石に、私はそれは……」


 もう、恥ずかしいよ。理恵ちゃんも朋美ちゃんも、お腹抱えて笑っているし、

クラスの男子は全員鼻血出しているしね。







「もう、皆の視線が気になってしょうがないよ」


 体育の時間、他のクラスの人達まで窓から覗いています。

今日はいつもより多い。いつもは、数人がちらほら見るくらい何だけれどもね。


「あら、人気者ですわね。明奈」


「綾子ちゃんのせいだと思います」


 今朝の綾子ちゃんとの絡みが、あっという間に広まってるよね。

因みに、今日は女子はソフトボールです。

攻撃になると打順が回るまで、皆お喋りしています。


「もう、レズなんて噂が流れて良い迷惑だってば」


「えっ? でも、それは綾子ちゃんだけでしょ?」


 朋美ちゃんが、間に入ってくる。

いったいどういう事なんでしょう?

あっ、凄い理恵ちゃんホームランだよ。


「えっと、明奈ちゃんはさ。学校中に、もう彼氏が居ることになっているんだよ?」


 ん? あっ! そ、そうだった!

私は、ゆっくりと3年生の教室の窓にちらりと目線をやると。


 望お姉ちゃんと目が合いました。

あれ? そこは流れ的にも“例の人”ではないでしょうか。

あっ。お姉ちゃんも私に気付いて、投げキッスしているよ。

あぁ、先生に教科書ビンタされてるよ。バーカ。


「あっ……」


 すると、その隣の窓に谷口先輩が居た。

そして、もちろんバッチリ目が合っちゃいました。

私は、慌てて目を逸らす。絶対に顔真っ赤だよ。

でも、気になるからもう一回視線を戻すと、谷口先輩がウインクしてくる。


 は、破壊力抜群過ぎます。それ。

しょうがないから、私も小さく手を振り替えしておいた。

うん、やっぱり顔を合わす機会が多いからかな。谷口先輩を完全に意識しちゃっています。


「明奈ちゃん、乙女ねぇ」


「わひゃい?!」


 朋美ちゃんが私の横から声をかけてくる。

いつから、見ていたの? と聞かなくても、最初からなのは分かっています。


「ち、ちが。これは……」


「顔を真っ赤にしても、ダメだよ~バレバレ~」


 ほっぺを突かないでよ、朋美ちゃん。

私は手を前に出しながら、羽根もパタパタ動いて止めてとアピールしています。

ほんとに、羽根が感情と一緒に動いているよね? これ。


「ねぇ、デートとか何処行ってるの?」


「え、デ、デデテデート?!」


「えっ? 行ってないの?!」


 いや、そもそもちゃんと付き合ってるんじゃないよ。

あの時は、谷口先輩の作戦だったというか。

あれ? でも、谷口先輩は私の事が……。

じゃぁ、あれは本気?!

でも、とりあえずデートどころじゃないんだよ今は。


「あの、谷口先輩は結構忙しい人だしね。アイ……」


 アイドルと言いかけて、慌てて口を押さえた。

う、うっかりと喋っちゃうところだった。


「あい?」


 朋美ちゃんが、首を傾げて聞いてきている。

あ~う~えっと~どうしよう。


「あ、えとその。あ……愛する人の為にもって、バイトしているからね」


 自分で言ってて、めちゃくちゃ恥ずかしかったし。

何より、なんだか変な言い回しになっちゃったよ~!

でも、そんな私の言葉に朋美ちゃんは目をキラキラと輝かせている。


「良いな~朋美ちゃん、そんなに想って貰えて」


 これ、私自身で引き返せない事をしちゃったかもしれないよね。

う~ん。でも、谷口先輩となら……。


「あら、明奈ってば。そんなに、その人の事が好きなのね。さっきから、耳まで真っ赤ですわよ」


「う~綾子ちゃん。言わないでよ、分かってるから」


「でも、それだけ好きなんでしょ」


 私は、黙って頷いた。

だってねぇ……。ちょっと、強引だったりするけれども、私の事気にかけてくれるし、優しいしね。

うん、間違いない。私は谷口先輩の事が好きなんだ。

再び、谷口先輩を見ようとしたその時。


「あなた達、恋バナも良いですけれど。ちゃんと、授業しなさいね?」


 後ろに、女子担当の体育の先生がいました。

しかも、今にも軽く小突いてきそうに拳を作っています。


「先生、体罰はダメですよ。ちゃんと真面目にやりますので」

 

 先生は、ちょっと顔をひくつかせていました。

そして、その様子を藤本先生が男子の体育を見ながら、ちらちらと私を見て首を傾げている。

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